第605話 王都滞在最終日の製作
タウロ達は王都滞在の一か月はあっという間に過ぎようとしていた。
連日、お世話になった人々へ挨拶する為の面会で時間を過ごす事が多く、予定が一杯だったのだ。
「バリエーラ宰相閣下と面会できたのは大きかったね」
タウロは面会の合間にエアリスとの時間を作っており、そこで安堵の溜息をもらしていた。
「本当ね。帝国の動向についての報告も改めて出来たし、この一年の間に旧ハラグーラ侯爵派閥の動向が知れたのはよかったと思う」
王城にある小さい公園のベンチで、エアリスはタウロを労うように水の入った水筒のコップを差しだす。
他のメンバーは各々王都でゆっくり過ごしているはずだ。
「うん。ハラグーラ侯爵とその一族の処罰が行われたのはもちろんの事、派閥の関係者にも色々処罰が下され、各地で情勢不安になっているとは知らなかったよ。北部は中立系貴族が多い場所みたいだし」
「タウロの新しい領地も元ハラグーラ侯爵派閥に所属していた旧ルネスク伯爵の領地だったのなら、王家が没収したのも納得だわ」
「そのルネスク伯爵は多額の借金を抱えて、お取り潰し。王家がその借金を肩代わりする形で領地を没収だから、王家としてはマイナス分を回収する為にも領地をどうにかしたかったというのには、ちょっと笑っちゃうところだったけどね」
タウロは宰相閣下が裏事情を隠さず話してくれた事に、自分の事ながら思わず笑ってしまった。
「ガーフィッシュさんがこの一年多額の利益を上げているから王家が調べたら、タウロの名義だったというオチでしょ。それでも本人不在で売買するのはどうかしら」
エアリスは笑って済ませるタウロの豪胆さに呆れる。
「まあ、宰相閣下も悪乗りが過ぎたと謝ってくれたし、いいんじゃない? それに価値が大幅に上がったのは悪い事でもないから。……ただし、これからどうするかだよね……」
タウロは改めて考え込む。
旧ルネスク伯爵領から王家直轄領、そこからジーロシュガー子爵領に変更し、オリハルコンの採掘可能性で領地の価値が跳ね上がった事や、最近の情勢不安も考え、今後の統治はちょっと大変かもしれないと思考を巡らす。
それに自分は一冒険者である事に変わりはない。
代理を立てるにしてもそれなりに優秀な人物に任せたいところだ。
「今ここで悩んでも仕方ないわ。実際に現地に赴いてその領地を見てタウロが判断しなさいよ。宰相閣下もガーフィッシュさんも協力してくれるのでしょ? 代理も現地で雇うのが一番だろうし、私達は冒険者、行動あるのみよ」
エアリスはそう言うとタウロの尻を叩くように励ましてくれる。
「……そうだね。エアリスの言う通りだ。そうなると、領地への投資の為に王都で色々と買っておいた方が良いかもしれない。あ、次の面会時間だ、行こうか」
タウロはそう言うと、立ち上がりエアリスの手を取って挨拶巡りを再開するのであった。
王都滞在最終日。
タウロは挨拶巡りを無事終え、王都で自分の領地に必要と思える買い物も済ませ、ようやく休養が取れていた。
「……それで、休養日に何の実験なんだ、リーダー?」
アンクが、連日忙しくしていたタウロが、せっかくの休養日も実験をすると言うので呆れ気味に聞いて、王都郊外の森まで着いて来ていた。
それはいつものエアリスだけでなく、ラグーネやシオン、子供型自律思考人形のセトも一緒だ。
もちろん、スライムエンペラーのぺらはいつも通り、タウロの肩の上で嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。
「今日はさらに新たな仲間を作ろうかと思ってね」
「新たな、という事はセトと同じ人形タイプか」
ラグーネがセトの背中を軽くポンと叩いて言う。
「やったね、セト。仲間がまた増えるよ!」
シオンはセトと王都での一か月の間、一緒に行動する事が多かったので、かなり仲良くなっていた。
「今回はセトとは違うタイプにしようと思ってね。あらかじめ、心臓部分である核も壊されたロックシリーズの核四個分とダンジョン『バビロン』で竜人族のみんなが入手してくれた最高級魔石と合わせ、創造魔法で一個に作り直した特別仕様を用意したよ」
タウロはそう言うとマジック収納から核を一つ取り出した。
さらに、マジック収納からダンジョン産の謎の物質アイテムを大量に出す。
さらに破壊されてしまった岩人形ロックシリーズの一体もその場に出した。
「お? もしかして結構大きな人形を作る気なのか?」
タウロが出した材料の数を見てアンクが鋭い指摘をする。
「ふふっ。それは出来てからのお楽しみという事で」
タウロはそう言うと、早速、作業に移った。
まずは、創造魔法で人形の製作を始めるのだが、ロックシリーズの一体とダンジョン産の謎の物質アイテムを使って手や足を作っていく。
「? これって、手なの? いえ、足?」
エアリスはタウロが作っているものがどうやら人型ではない事に早々に気づいた。
「どこかで見た事がある形ですね……」
シオンが首を傾げて、つぶやく。
部品が一つ一つ完成されて行くと、それらをタウロは部分ごとに繋げていった。
そして、完成した形が、大きな四本足の獣型の人形であった。
「……これは、吸血狼王の形か!」
アンクが思い出して正解を口にする。
「うん。大きさ的にも丁度良かったからね。最初は車型にしようかなとも思ったのだけど、この世界であの形は夢がないし、凸凹の地面が多いこちらでは役に立たないかなと……」
「クルマ? でも、なんとなくこれにした理由はわかったわ」
エアリスはタウロの言葉に疑問符だらけだったが、考えた末の形である事には理解を示した。
「それにしても、このバビロン産の謎物質、表面は弾力があって触ると筋肉質な感触が生々しいな」
ラグーネが核を入れる前の大狼型人形の胴体を触りながら指摘する。
他のみんなも同じように触って確認するとラグーネの指摘に頷く。
「それではこれに創造魔法で核を入れます」
タウロはそう言うと、大狼型の人形に創造魔法を唱えて核を入れた。
一帯に光が一瞬輝き、セト以外の全員がその眩しさに目が眩むのだったが、すぐに視界も戻ってきた。
そこには、タウロに撫でてもらう為に身を寄せる大きな大狼型人形が、「クーン!」と鳴いて甘えるのであった。
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