第604話 名声の元
王都の冒険者ギルドはサート王国全体の冒険者ギルドの本部であり、ダンジョン『バビロン』もある事から多くの実力冒険者が集まってくるところだ。
その冒険者ギルド本部の上位は現在、『黒金の翼』グループが占めていると言ってもいい状態である。
なにしろ一年前、『黒金の翼』の傘下を名乗る一団が、タウロ達の失踪と同時に入れ替わるように現れ、タウロの名誉子爵としての権限でもって『バビロン』に入り、他の上級冒険者を差し置いて大活躍を始めたからだ。
それらは全て竜人族のみんなの事であるが、彼らは命の恩人であるタウロの為ならと『黒金の翼』の傘下冒険者としてしっかり冒険者ギルドの依頼もこなしつつ、ダンジョン攻略をこの一年の間、しっかり行っていた。
元々ダンジョンに潜って活躍していた上級冒険者達もこの竜人族冒険者に助けられる事も多くあり、彼らも竜人族冒険者をすぐに推薦して昇格を勧めた。
それにより、わずか一年で冒険者ギルド本部で最強の冒険者グループと言えば、真っ先に『黒金の翼』が上がる事になったのである。
それにダンジョン産のアイテムの数々を持ち込むのもほとんど全て『黒金の翼』グループのものであり、その品々が非常に珍しいものばかりとあっては、オークションの際には発見者『黒金の翼』という情報が足されるだけで、金額が跳ね上がる程だ。
それくらい王都における『黒金の翼』の影響力は大きくなっていた。
そんな中、一年振りに冒険者ギルド本部に『黒金の翼』のリーダーとそのチームが現れたとあっては、ちょっとした騒ぎになるのも仕方がない。
「あれが、『黒金の翼』のリーダー、ジーロシュガー名誉子爵か? 本当に子供だな……」
「お前はここに来て、まだ、半年だったな。一年前の失踪前も十分実績を積んだチームだったんだぞ?」
「そうそう。当時の最強クラスのチーム達が、自分のチームにジーロシュガーを引き入れようとスカウトしていたくらいだからな。結局、この一年で最強チームにまでなっちまった」
「でも、ランクを調べたら、リーダーチームは、B+ランクらしいぜ? この一年活躍していた傘下のメンバーはあっという間にA+とかだろ? 噂では伝説クラスの偉業を成し得ているから、数十年ぶりのSランク帯冒険者が生まれるんじゃないかって話もあるくらいだ。だが、あのリーダーチームは、それより上には見えないなぁ」
「馬鹿。リーダーは名誉子爵として地位があるから、参加チームをまとめる事が出来ればいいんだよ。実際、傘下メンバーはみんなジーロシュガー名誉子爵を絶対的なリーダーとして活動しているからな。あの化け物達をまとめているだけで大したもんさ」
冒険者達は冒険者ギルド本部に現れたタウロ達を見て好き勝手にひそひそと噂話をするのであった。
「……竜人族のみんなが活躍し過ぎて、僕達の実力が疑われる事になりそう……」
タウロは苦笑して、隣のエアリスに小声でそう漏らした。
「……私もびっくりしたわ。竜人族のみんな、全員たった一年でAランク帯まで上がっているんでしょ? やっぱり、ダンジョンでの活動はポイント高いのね」
エアリスはタウロとはちょっと違う視点での感想を漏らす。
ダンジョンに入るには基本、一流冒険者である事や王家から許可を得ている事などいくつかの制限があるが、竜人族のみんなはタウロの名誉子爵として王家から許可を得る事で、実績もなく『バビロン』に潜る事が出来た事が大きい。
権力にものを言わせたただの力技だが、竜人族のみんながそれに応えるだけの実力を持っていたからこそではある。
そのお陰でダンジョンでの活躍のみで昇格を容易に果たした。
タウロ達は『竜の穴』で修行した事で、それなりの実力も備えているが、何年もの間『竜の穴』で鍛錬していた竜人族と比べるとまだまだだから、比べられるのは辛いところだ。
そこに竜人族のメンバーが冒険者ギルドに報告のためだろうぞろぞろと入ってきた。
他の冒険者達は最強の竜人族メンバーに羨望の眼差しを向ける。
そこにタウロ達がいたものだから、
「「「タウロ殿!?」」」
と驚いてタウロ達の周囲に竜人族のメンバーの輪が出来た。
「お帰りなっていましたか! お陰様でダンジョン『バビロン』ももうすぐ攻略できそうですよ」
「久し振りに会えて良かったです。元気でしたか?」
「ラグーネ、ちゃんとタウロ殿をお守りできているのか?」
「エアリス殿もお元気そうですね!」
「みなさんが『竜の穴』を出た事は知っていましたが……。──え、北部に? どうでした? ──帝国が……? ふむ、族長はすでに知っているんですね? 私達も早く、『バビロン』を攻略して備えないといけませんね」
竜人族の面々は久し振りのタウロに思い思いに声を掛けて英雄タウロと話す。
普段、彼らは無口なのか、冒険者ギルドで彼らが雄弁に話す姿が珍しいようで、周囲で見ていた冒険者達もこの光景にざわつく。
「……やっぱり、子供とはいえ、リーダーって事か……。俺、あの人達が報告以外で話すところ初めて見た……!」
「お、俺も! 意外に気さくな人達なのか?」
「馬鹿、リーダーであるジーロシュガー名誉子爵が相手だからだよ! それだけあの最強メンバーがジーロシュガー名誉子爵をリーダーとして認めているって事さ」
一般冒険者達は貴重なものが見れたとばかりに、口々にこの光景に目を輝かせて眺める。
「あ、みなさん、奥の特別室で話しましょうか」
タウロもさすがにこの注目度には耐えられなくなって、竜人族のみんなと一緒にギルドの特別室に入っていくのであった。
そこで、軽くだが、『バビロン』の攻略具合やそこで入手したアイテムの扱いについてなども話された。
「え? 本当に貴重なものは、オークションにも出していないんですか?」
竜人族のメンバーはタウロの疑問に頷く。
「はい。もちろん、タウロ殿の所有物として竜人族の村の倉庫に保管していますのでご安心を」
「そんなに貴重なものは竜人族のみなさんで自由にしくれていいですよ? 僕達はこの一年『竜の穴』に籠っていただけですし……」
タウロはエアリス達みんなに同意を得て許可する。
「いえ、我々はタウロ殿の傘下として活動させてもらっていますから、大丈夫ですよ。それに報酬もしっかりいただいていますし」
竜人族のみんなは笑みを浮かべると当然とばかりに頷く。
みんなタウロへの恩義から、「少しくらいなら」とくすねようとも思わないところが竜人族らしいところだ。
竜人族がこの国を滅ぼそうと思えばいつでもできるだろうがそれもしない。
だが彼らは力の使い方をよく心得ていて、なにより信義を大事にする人々だ。
タウロは改めて、この竜人族のみんなに感謝しつつ、これからについてもどうするべきか考えないといけないと思うのであった。




