第603話 王子への報告
家族と食事会で婚約報告をきちんと終えたタウロであったが、その翌日には忙しいはずであるフルーエ王子が予定を空けてくれた事で面会予定も入り、ゆっくりする事無く、エアリスと二人、馬車に乗り込むと王城に向かうのであった。
一年振りとはいえ、王家の紋章の使用を許されている数少ない人物であるから、王宮までの道のりはスムーズで、中には警備を担当している近衛騎士が「タウロ殿、お久し振りですね!」と親しく声を掛けて来る事もある。
タウロはエアリスの事などで近衛騎士団長とも親しくさせてもらっていた事から、騎士団本部にも顔を出したりして、結構な有名人なのだ。
タウロはそんな顔見知りの人達に挨拶をして王宮に入った。
フルーエ王子の部屋までは、メイドではなく近衛騎士が先導を買って出てくれたし、タウロはかなり近衛騎士からの印象は良さそうだ。
フルーエ王子の部屋に通されると、王子はすでにタウロとエアリスが来るのを待っていた。
「久し振りだな、タウロ。一年もの間、定期的だった手紙も寄越さなくなったし、例の『竜の穴』という場所で悲惨な目に遭っているのではないかと心配したぞ」
フルーエ王子はそう言ってタウロを抱きしめると、その隣のエアリスにも笑顔を見せる。
「殿下、連絡も寄越さず失礼しました。一年前最後に送った手紙の通り、『竜の穴』で修行していました。その修行が一年かかりまして、手紙を書く余裕がありませんでした。その後は北部の国境の街に行っていたのですが、そこでは手紙を出すのを忘れていました」
タウロはこの王家の友人に申し訳なさそうに謝って弁解した。
「北部の国境の街に? それはまた、遠いところに行っていたな……。あ! エアリスもすまない。立ち話もなんだな。二人共座ってくれ」
フルーエ王子は同行しているエアリスを気遣って、二人を席に勧める。
三人は席に着くと、タウロ達の北部での活躍と帝国の動きについてをフルーエ王子は聞く事にした。
しばらく聞いていたフルーエ王子は、
「……その件にタウロ達も関わっていたのか。報告は私も聞いていたが、そんな事になっていたとは……。しかし、その後に元凶である研究所を襲撃するとはな……。大きな声では言えないが、王家を代表してお礼を言わせてくれ。──『黒金の翼』に感謝する。我が国の軍が研究所を襲撃して発覚したら外交問題になるからな。とはいえタウロも今ではジーロシュガー名誉子爵。あまり、無茶はしないでくれよ」
とタウロに釘を刺す。
「はい、気を付けます……。──そうだ、その名誉子爵としての立場の件なんですけど……」
タウロは、思い出したようにフルーエ王子に切り出した。
「──ああ、もしかして領地の件か? ガーフィッシュから、貴族であるタウロの資産について安全な運用はないかと相談を受けてな。丁度、王家が没収した手頃な領地があったので、タウロの資産額も知らずに冗談で話したら、ガーフィッシュの奴がノリノリで、買いたいと言ってきたのだ。それで私の名で売買を成立させた。なにしろタウロは領地を持っていないからな。王家は元々、タウロに領地を与えようとしていた経緯があるから、陛下や宰相もこの件については簡単に承諾してくれたよ。本来、このような売買はほとんどあり得ないのだぞ?」
フルーエ王子は笑って事の顛末を話した。
「僕も王都に戻って来たら、自分の資産に領地が含まれていて驚きましたよ……。ガーフィッシュさんが勝手にやった事なのですが、取り消しは出来ないでしょうか?」
タウロは冒険者だから領地経営の事は当然考えていなかった。
「勝手にとはいえ、一部の資産運用はガーフィッシュに任せていたのだろう? それに資産を減らされたのならともかく増やされて苦情を言われてもな……。陛下や宰相はタウロに領地を与えるどころか、自らの力で王家から購入した気概に満足しておられたくらいだ。いまさら、やっぱり違うと言われても頷かないと思うのだが……」
フルーエ王子は苦笑してタウロに答えた。
「……やっぱりそうですか」
タウロも駄目で元々のつもりで聞いているから、納得せざるを得なかった。
「元が伯爵領とはいえあそこは領地の大半は山が多いし、気楽に治めて良いと思うぞ?」
フルーエ王子はタウロが冒険者優先である事を知っているから、そんな土地をガーフィッシュに勧めたのだった。
「領地の場所についてはガーフィッシュさんから聞きました。僕に配慮して南部の秘境地区も近い、面白そうな土地ですね。それについてはありがとうございます。ただですね……」
「うん?」
「その土地ですが、ガーフィッシュさんからの報告によると、領内の一部の山からオリハルコンが出たとの話が……」
タウロも大きな声では言えないと思ったのか、憚るようにフルーエ王子に顔を近づけると驚きの事実を告げた。
「オリハルコン……!? ……それは真か……!? ──これは驚いたな……。だが……、それもタウロの運なんだろう……。私も友人にならその土地を売買できた事を誇らしく思うぞ。──いや、そうなると、気楽に治めるというわけにもいかないのか……。タウロはどうしたい? 何ならその事は伏せて置き、産出されたオリハルコンは王家が密かに買い上げる形でもいいが?」
フルーエ王子はタウロが大変になる事を望んでいないから、一つ提案した。
「それは助かります。王家が相手なら信用できますし」
「よし、王家も貴重な金属であるオリハルコンの入手は財産としても大きいからな。王家との交渉は私がガーフィッシュと共にしておくから安心してくれ。その他諸々も陛下や宰相には伝えておく。──おっとそうだ! タウロ、エアリス嬢……、この度は、ご婚約おめでとう。友人としてこんなに誇らしい事はないぞ!」
フルーエ王子は二人の婚約についてどこから入手したのかすでに知っていた。
「ありがとうございます。殿下から祝福してもらい光栄です」
エアリスは立ち上がると一礼して座り直した。
「私はタウロが成人したら、その時、婚約するとばかり思っていたのだが、意外に早かったな。だが、二人共お似合いのカップルだ。──ところで、どんなシチュエーションだったのだ?」
フルーエ王子は二人の馴れ初めを聞く。
タウロとエアリスは二人視線を交わすと頬を赤らめ、当時のお互いの気持ちを思い出しつつ話すのであった。




