第602話 家族への報告
当人の知らないところで領地持ち貴族になっていたタウロであったが、それも王家の許可があって成り立つ強引なものであった。
一応、詳しく話を聞くと、領地を王家に売却し直す事も可能だとは言うが、領内で特別な鉱石であるオリハルコンの採掘が出来た事でその価値は一気に高まっている。
それこそ、旧サイーシ子爵領とは比べものにならないだろう。
だから王家から買い取った額の数十倍で売って返すというのも気が引けるところだ。
タウロとしては、この領地については何の苦労もなく得た代物であったから、多少安くても王家に返却すべきかなとも思っていた。
フルーエ王子が勧めてくれたものでもあるから申し訳ないが、価値が数十倍になって帰ってきたとなれば喜んでもらえるかもしれない。
タウロはそう考えると、フルーエ王子との面会が決まれば、その辺りの相談もしようと思うのであった。
ガーフィッシュとの面会はその後、タウロの発明した商品の数々の改良型についての打ち合わせや、タウロがオーナーであるカレー屋の全国展開について、新たにタウロが考えた焼肉のタレ等の商品化などが行われ時間はあっという間に過ぎ去った。
「──それではそのように進めます。ところでタウロ殿、その一緒にいる人形……、セト? ですか、それは他にも作れるのでしょうか? 良かったらうちにも一つ欲しいところなんですが……」
ガーフィッシュは子供型自律思考人形のセトがずっと気になっていたようでタウロに購入を打診した。
「あははっ。それは無理ですよ。僕の『人形使い』の能力と『創造魔法』の製作あってのセトですから。一応、四体分の核の残骸を利用して一体分の核を作り直しましたけど、他の人が操作するのは難しいと思います。どうやら製作者兼人形使いの僕に従うのが基本設定である事は作った僕が強く感じている事ですから」
タウロがそう言うと、後ろで控えていたセトも頷く。
「はははっ、それは残念です。まぁ、駄目元で聞いただけですけどね。それにしても一年間会わないうちにタウロ殿はまた、成長しましたな。あ、体形の話ではなく能力という意味でですが。フルーエ王子殿下もタウロ殿の成長を知ったら喜ばれますよ。それに、ご婚約されたと聞いたら、もう、大騒ぎでしょうな!」
ガーフィッシュは笑って人形が入手出来ない事に残念がると、素直にタウロの成長と婚約決定を喜ぶのであった。
「フルーエ王子殿下には面会申請の使者を出したところなので、後日会いに行きますよ」
タウロは親友への報告が楽しみだった。
きっと一番喜んでくれると確信しているからだ。
今思えば、タウロとエアリスの行く末を一番心配していたのもフルーエ王子だったきがする。
「後日ですか? 王子殿下になら、タウロ殿がここに来た時点で使者を出しているのでそろそろ返事が来ると思いますよ?」
「返事?」
タウロが首を傾げる。
すると扉がノックされた。
ガーフィッシュが一言「入れ」と許可すると、使用人が息を切らせてガーフィッシュの下に行き、耳元で何か伝える。
「──タウロ殿。フルーエ王子殿下からの伝言で、明日、時間を作るから王城に来てくれとの事ですぞ。わははっ!」
ガーフィッシュは楽しそうに笑って言う。
「あははっ……。王子殿下は忙しいだろうから面会の予約には時間が掛かると思ってたのに、大丈夫なのかな?」
タウロは思ったよりも早い対応に苦笑するのであった。
タウロはガーフィッシュ商会を後にすると、日も落ちてきたからグラウニュート伯爵邸に戻る事にした。
「タウロ! 一年も連絡なしで心配していたのだぞ? それに婚約とは!」
グラウニュート伯爵邸に戻るとすでに両親が帰宅しており、玄関でタウロの帰りを待っていた。
そして、第一声が父グラウニュート伯爵の説教であった。
「あなた、今日はおめでたいのだから、怒るのは止めましょう。──タウロ、お帰りなさい。そして、婚約おめでとう」
母でありグラウニュート伯爵夫人であるアイーダがタウロを抱き締めると祝福した。
「おいおい、私が悪者になるのか?」
グラウニュート伯爵は妻の裏切りに苦情を漏らすのであったが、息子の無事の帰還と親友であるヴァンダイン侯爵の娘であるエアリスとの婚約はとてもおめでたい事であったから、怒るのを止めて妻とタウロを抱きしめる事に変更した。
「連絡がないと父上も母上もずっと心配していたんですよ、兄上」
弟であるハクがそんな家族の心境を代弁する。
「父上、母上、ご心配をお掛けしました。そして、心配してくれてありがとうございます」
タウロはハクの言葉に自分を抱きしめる両親にお詫びと感謝をするのであった。
「よし、再会は済んだ。エアリス嬢が食堂で待っているから、行こうか」
父グラウニュート伯爵は嬉しそうに笑みを浮かべると久し振りの一緒の夕食の為に家族全員で向かうのであった。
食堂にはラグーネ、アンク、シオンがおめかしして先に席についていた。
エアリスも自分の席の傍で緊張していたのか綺麗なドレス姿でそわそわしている。
その姿はいつもの綺麗さとは違うもので、タウロも立ち止まってその美しさに目を見張った。
「……見てばっかりいないで、ちょっとは褒めてよ……」
エアリスがタウロの熱い視線を感じて顔を赤らめると、頑張って選んだドレス姿を見せるようにポーズを取る。
「うん、いつも綺麗だけど……、ドレス姿もまた、綺麗だよ」
タウロはエアリスの照れた表情に自分も少し顔を赤らめながら、自分の婚約者を素直に褒めるのであった。
その後、一同はグラウニュート家の家族と食事をしながら、この一年の出来事と婚約について報告をするなどして話が盛り上がる。
「うちの息子は、相変わらず想像を遥かに超える事をしてくれる。だが、エアリス嬢のとの婚約だけは想像できたぞ? はははっ!」
父グラウニュート伯爵は終始ご機嫌で、息子タウロの幸せを喜び、「次はハクの番だな」と冗談を言ってはお酒が進む。
それに馴染みであるアンクも一緒だったから、二人はしたたかに酔う程飲んで騒がしくなった為、タウロに『状態異常回復』魔法で一瞬で酔いを醒まされる罰を受けるのであった。




