第601話 膨らみ過ぎた資産
ガーフィッシュが示した現在の自分の資産額に、タウロは何でこんな数字になったのかわからなかった。
「ガーフィッシュさん、資産運用って具体的に何をしたんですか……?」
タウロも詳しく理由を聞かないと、こんな額が自分のものと言われても理解が追いつかない。
確かに元々、魔道具類の発明は製造から販売までガーフィッシュ商会に任せていたので全国展開して大きな利益が生まれ、タウロに多額の報酬が日々入り続けているのはわかっていた。
それらも全てガーフィッシュ商会に管理を任せていたのは自分だ。
「はい。タウロ殿の資産があまりにも大きくなりすぎていましたし、うちで管理するにしても現金でそのまま寝かせておくのも勿体ないと思っていました。それで、先程も申し上げましたが、タウロ殿が現金を求められた時にすぐ現金化できそうな王都の一等地を買い漁っておいたんですが、それが高騰しまして。その原因もタウロ殿の『黒金の翼』が原因なんですけどね?」
「うち?」
「ええ。タウロ殿が失踪している間に、『黒金の翼』を名乗るみなさんが、ダンジョン産のアイテムをうちに持ち込んできたので、それらをオークションに出して現金化する事にしたのは先程も話しましたが、それが高額を連発してタウロ殿の資産もそこでまた大きく膨れ上がりました。それが原因でダンジョン産のアイテム市場がこの王都だけでなく国内、国外からも注目を浴びて人が集まってきたのが、半年前です。王都は以前よりもさらに人が増えて、タウロ殿の資産で購入した土地の価格も高騰した、という感じです」
「それにしたって、この額は大き過ぎない? だって、小国の国家予算くらいあるじゃん……!」
タウロがそう指摘するのも当然である。
ガーフィッシュが示した資産の中には王都の土地どころか元某貴族の領地を示す権利書も含まれているからだ。
「それはですね……。その半年前にタウロ殿の資産が想像以上の膨らみ方をした事で、我が商会の動きを王家に注目されまして……、その事でフルーエ王子にご相談したところ、『タウロはすでに名誉子爵だから、領地持ちになってもおかしくない。丁度、破産した貴族の領地を王家が没収して管理しているからそれを買い取って健全な領地経営の下、タウロの為に残しておくのはどうか? 本人が、戻ってきた時に嫌なようならその時は改めて王家が買い取ろう』とアドバイスを受けました」
「? 破産した領地の経営を健全化したくらいでこの価格の資産にはならないでしょ?」
「はい、普通ならば……。ただ、以前の貴族が酷い経営をしていたので、私の指導の下、部下が頑張ってくれたお陰で健全化してなんとか黒字化は出来ました。ですから価値はそれなりに高まってはいました。と言っても、その領地は南部の山が多い土地で平地は少なく土地の価値自体は元々そんなに高くなかったのですが、タウロ殿の良心的な領地経営、この場合、代理である私の部下にですが、領民達が感謝して言うのですよ。『以前の領主様には黙っていたのですが、もしかしたら領内の古い旧鉱山に珍しい鉱石が眠っている場所があるかもしれない』と」
「鉱石?」
タウロはある既視感を覚えた。
冒険者を始めた土地、サイーシの街で、自分がミスリル鉱石を発見した事で領地が一気に価値を高めた事を思い出したのだ。
あんな感じでガーフィッシュが王家から購入したタウロ名義の領地が急に価値を高めたという事だろうか?
「ええ。領民が言うには、その鉱石というのがもしかしたらミスリルではないかと。それで、その山に案内してもらい、部下が調査したところ、採掘できたのは微量でしたが……、驚かないでくださいよ……? それがですね……、なんと……、ミスリルどころではなく……、神の金属と呼ばれるあのオリハルコンでした! これはもちろん、まだ、周囲には秘密にしているのですが、領地価値を考えると現在タウロ殿の資産価値は、ご指摘の通り、小国の国家予算くらいになると思われます……」
ガーフィッシュも予想外の展開だったのだろう、この一年の間にタウロの資産が雪だるま式に膨れ上がっていくので、最初はタウロへの恩返しのつもりで喜んでいたのだが、オリハルコン発見の辺りでさすがに怖くなったようだ。
「……オリハルコン……って。うーん……、一年いない間に領地持ちになっているのにも驚いたけど……、こんなに僕の資産が爆増していると、感覚がおかしくなるよね……」
タウロは想像を遥かに超える展開に苦笑するしかない。
慌てふためいても、額が減ったり増えたりするわけではないからだ。
「ガーフィッシュさん、この一年間、僕の資産をしっかり運用してくれてありがとうございます。それでですが、その領地と言うのは南部のどの辺りにあるんですか?」
タウロは現実問題、その領地を下見して今後売却するか考えないといけないから確認した。
「少々お待ちを。──地図だとこの辺りです」
ガーフィッシュは丁度、確認の為に見ていたのか地図を手にしていたので、そのまま広げて見せた。
「……王家直轄の秘境特区や各種族の自治区に接する土地だね」
タウロは地図を見て頷く。
「はい。領地の収入源は元々そんな自治区との交易などが主になってましたが、前領主に問題が多かった為、収入は激減、前領主は領民から税を絞り上げる事しか考えていない愚かな貴族だったので評判は最悪でした。お陰で、うちの部下が乗り込んで領地経営を健全化したら領主であるタウロ殿の評判はうなぎ上りなんですよ!」
ガーフィッシュはその辺りは嬉しい出来事だったのか自慢気であった。
「あはは……。僕は領地経営する気ないのだけど……。でも、フルーエ王子殿下がこの土地を勧めたのって、やっぱり、秘境や色んな種族の自治区が近いからかな?」
タウロは親友であるフルーエ王子の顔を思い出し、王子が考えそうな事を想像した。
「確かに王子殿下はタウロ殿ならこの場所は喜んでくれるはずだと言っていましたね」
ガーフィッシュも当時の事を思い出したように言う。
「王子殿下の勧めなら仕方ないのかな……。実際、購入してこの半年、僕が知らない間に領地も問題無く治まっているんだよね……? そういう意味では領地経営って人任せでも出来るもの……、なのかなぁ?」
「タウロ殿が引き続きこの領地を治めるのであれば、ガーフィッシュ商会も全面的に協力しますよ! 実際、現地にはすでにうちの商会の支店も作ってあります。それに現在、任せている領主代理もうちの部下ですからな。タウロ殿への引継ぎ後、その支店を任せる予定ですから、いつでもこき使って頂いていいですぞ。がははっ!」
ガーフィッシュはタウロに報告した事でようやく肩の荷が下りた気分になったのか、豪快ないつもの雰囲気に戻るのであった。
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