第600話 資産運用
「タウロ殿! この一年間どこにいたんですか! 全国の各支店にもタウロ殿が現れたら連絡をするように伝えていたのに全く音沙汰がないし、死亡説の噂が流れて冷や冷やしていたんですよ!?」
ガーフィッシュ商会会長であるマーダイ・ガーフィッシュはタウロの姿を確認すると安堵の溜息を吐く暇もなくまくしたててしゃべった。
「ごめんなさい、ガーフィッシュさん。自分達の事に夢中でそこまで気が回らなくて……」
「はぁ~……。でも、無事なようで良かったですよ。タウロ殿の『黒金の翼』を名乗る凄腕冒険者達からタウロ殿は元気なはずだという言葉は聞いていたのですが、それを証明する事は出来ないの一点張りで本当に心配していました」
ガーフィッシュはタウロが実在している事を確認するように両肩をがっしり掴んで話した。
「『黒金の翼』を名乗る凄腕冒険者? ああ!(竜人族の)村のみんなの事?」
タウロはすっかり王都傍のダンジョン『バビロン』攻略の為に、竜人族のみんなを『黒金の翼』の一員として潜らせていた事を思い出した。
「村? よくわかりませんが、彼らが『黒金の翼』のメンバーとしてこの一年王都で活動していたので、タウロ殿死亡説の代わりに『黒金の翼』の名を高めていました。その事についてもお話があるので、応接室に行きましょう」
ガーフィッシュはそう言うと、使用人に任せる事無くタウロを案内する為に自ら先導する。
何かこの一年で王都におけるタウロ達の立場はかなり変わったようだ。
部屋に案内されると、ガーフィッシュは深呼吸すると説明を始めた。
「一年前、私にその村? の彼らが王都で過ごしやすいように手配のお願い、彼らから持ち込まれる物があったら、その処理も任せるとおっしゃっていましたよね?」
ガーフィッシュは慎重にタウロが覚えているか確認する。
「ああ、そう言えば、言った……、かな?」
一年前、タウロは竜人族のみんながダンジョンに潜る事で入手するアイテムの数々は冒険者ギルドに手数料を払って残りは一部、タウロの元に入るからその分をガーフィッシュ商会に処理も含めて任せていたのだ。
その時に、竜人族のみんなが王都に滞在する場合などは、手助けしてくれるようにもお願いしていた。
その分は、ガーフィッシュ商会に任せているタウロの資産から差し引いてもらう事になっていたのだ。
もしかして、結構な出費があったのだろうか?
冒険者ギルドの方のタウロの資産はかなりの額になっていたから、ガーフィッシュ商会の方は失念して気にも留めていなかったのだが、迷惑をかけたのかもしれない。
「タウロ殿の言いつけ通り、みなさんの世話をさせてもらいました。それはいいんですが……、彼らから持ち込まれるダンジョン産のアイテムが貴重過ぎて、処理が難しかったのですよ……。ですから一部はオークションに出すなどして現金に代えさせてもらったわけですが……。──それがですね?」
ガーフィッシュは後ろに控える使用人に目配せする。
使用人は心得たとばかりに、奥の部屋に行くと、すぐに帳簿と思われる物を持って戻ってきて、ガーフィッシュの前において下がった。
「それは?」
タウロはなにやら、ガーフィッシュが大きく深呼吸してその帳簿を開くから不思議に思い聞く。
「この一年でガーフィッシュ商会がタウロ殿の資産を運用した内容が記されています」
ガーフィッシュはそう言うと、帳簿をタウロに見えるように、こちらに向けた。
「……? ──これってどういう事? 王国内の不動産とか沢山書いてあるけど?」
タウロは帳簿にびっしりと書かれている土地名や添付された権利書などを見て困惑した。
「それが、タウロ殿からお預かりした資産を基に、ガーフィッシュ商会が運用した結果です」
「え? つまり、これって全部僕の資産……、って事?」
「……はい。タウロ殿は現金でとお願いされていましたが、数か月でその現金が途方もない額になり、ガーフィッシュ商会で預かり保管するのにも限界があった為、一部、運用して不動産や貴重な魔道具などを購入してタウロ殿が現金が欲しい時に売る形にしようという事にしたのですが、それが思った以上にこの一年で膨らんでしまいして……」
ガーフィッシュは苦笑してタウロの表情を窺う。
「膨らむ? ……それってまさか、赤字が膨らんだって事!?」
タウロは信用しているガーフィッシュがどうやら資産運用を失敗してしまったようだと解釈して聞いた。
「いえ、その逆です……。タウロ殿の資産の一部を寝かせておくつもりで購入した不動産等がことごとく値上がりしてしまったという次第です」
「それって、つまり僕の資産が増えたって事でしょ? 別に驚く事じゃない気がするけど……?」
タウロはガーフィッシュがなぜそんなに気を遣って自分に話すのかわからなかった。
「それがですね……。私も調子に乗って運用してしまい、丁度、タウロ殿の名誉子爵になら売っても良いという領地を丸々買い上げてしまいました。当初はそれも大した額のものではなかったのですが、それもひょんな事から資産価値が大きく跳ね上がりそうでして……、その土地がですね……? 王家から購入したものでしたから、早々には現金化できないのです」
「王家から領地を買ったの!? でも、帳簿を見る限り、僕の資産はかなりあるみたいだけど……?」
「王家はその領地をしっかりタウロ殿に統治してもらいたいと言っています……。今のところうちの者を代理として立てて領地経営をさせてますが……、勝手な事をして本当に申し訳ない!」
ガーフィッシュはその場で頭を下げた。
「……それで、その領地というのは、どこですか? この帳簿には購入額しか書いてないけど? うん? でも意外に安い? 一、十、百、千、万……、うん? この単位、もしかして白金貨なの!?」
「はい、タウロ殿の現在の資産は、領地を含めた有形固定資産など合わせまして、これだけの額になっております!」
「軽く見積もっても一年前の数十倍なんだけど!?」
タウロは想像を超える額に、愕然とするのであった。
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