第598話 家族との再会
一年振りの王都は、相変わらず国内最大の都だけあって大いに賑わい、以前よりも一層発展している印象をタウロ達は感じるのであった。
その混雑ぶりに人酔いをしそうな程だったから、それを避けるべく、ジーロシュガー名誉子爵の称号を貰って独立した身ではあるが、実家であるグラウニュート伯爵家に宿泊させてもらおうと邸宅に直行する。
「一年前よりも一層人口が増えた気がするわね」
エアリスは乗合馬車が貴族地区に入って喧騒も穏やかになったところでそう感想を漏らした。
「俺もそう思った。この一年で王都に何かあったのか?」
アンクも気持ちは同じであったからエアリスに賛同して疑問を口にする。
当然みんな一緒に一年間、一緒にいたから誰も答えられるわけもなく、「さあ?」と疑問符を頭に浮かべるしか出来ないのであった。
王都の変化に一行が困惑している間に、馬車はグラウニュート伯爵邸に到着した。
「久し振りの王都の邸宅だなぁ。ここは全く変わってないや」
タウロは馬車から降りるとエアリスをエスコートする。
「本当ね……。──あら? タウロ、誰か出て来たわよ?」
全員が馬車から降りて、グラウニュート伯爵邸を眺めていると、エアリスの言う通り、屋敷の玄関から誰かが出てきた。
「あ! あれはハクだ!」
タウロが目を凝らしてその人物を確認すると、すぐに自分の弟であり、グラウニュート伯爵家の嫡男のハクに気づいた。
「兄上! お帰りなさい、お久し振りです!」
ハクは兄であるタウロが帰ってきた事をたまたまだがいち早く気づいたようで、こちらに急いで駆けてきた。
「ただいま、ハク。でも、どうして君がここにいるの? グラウニュートの実家にいると思っていたのだけど?」
タウロはハクがここにいる理由がわからず、首を傾げた。
「はははっ! 僕は王都の学校に通う事になったからですよ。それよりも、兄上、エアリス嬢、ご婚約おめでとうございます! 父も母も婚約をとても喜んでいますよ。母上などは手紙を読み直してはいつもニコニコしています」
ハクは兄タウロの婚約が家族も幸せにしている事を報告する。
「直接報告に行けなくてごめん。父上も母上も元気そうだね」
「ええ。二人共、仲睦まじいのはいつもの事で、兄上が残した色んな植物の種もこの一年で見事に育ち、領地に富をもたらしていますよ」
ハクは嬉しそうに領地の事を兄に教えた。
「それは良かったよ。僕達、今、北部から帰ってきたところだから、こっちに泊まって良いかな?」
「もちろんですよ。──みなさんもよくぞお越しくださいました。兄がいつもお世話になっております。あ! 玄関先で話す事ではないですね。みなさん、どうぞ中にお入りください」
ハクは嬉しさのあまり、タウロ達と玄関先で話し込んでいた事を恥ずかしく思い、慌てて一行を招き入れるのであった。
中に入ると、ハクが執事にお願いして、タウロ達の部屋をすぐに用意させる。
いつも泊まっていた部屋がそのまま、一年前のまま残されていたから、タウロ達はそこに入るのであったが、一年前と違うのはタウロとエアリスが同室になり、さらには子供型自律思考人形のセトが一緒にいる事だ。
ハクはまじまじとセトを見て、
「人形とは思えない滑らかな動きです! こんなものも作ってしまうとは、さすが兄上ですね!」
とひとしきり感心していた。
セトは主人であるタウロの弟という事で、丁寧にお辞儀をして応えるから、さらにハクは驚く。
「部屋はどうしましょうか?」
ハクは完全にセトを気に入って人形というよりは人として扱う様子を見せた。
「僕達と一緒でいいよ。いつもの部屋も個室はいくつかあるから、そっちで待機してもらうよ」
タウロはハクのはしゃぎように微笑むとそう答える。
「わかりました。では父上と母上が帰ったら、また、呼びに来ますね」
「え? 二人共王都にいるの?」
タウロは当然ながら、両親は領地にいると思っていたので驚いて聞き返した。
「はい。僕が学校生活に慣れるまで様子を見たいからと、今日までこちらにいる予定で、最終日の今日は、二人でデートだと言って出かけてますよ」
ハクは笑ってタウロに答えた。
「あははっ。二人共相変わらず、仲いいね」
タウロは両親の仲の良さがとても嬉しく理想の両親像であったから、微笑ましく思うのであった。
「タウロ、それじゃあ、帰ってくるまでに、いくつか用事を済ませておきましょう」
義理の両親への挨拶をする為に、エアリスはそう言って部屋に入ると、タウロにお願いしてマジック収納に納めているエアリスの服を沢山出してもらう。
そして、タウロを部屋から扉の外に追い出すと、
「私はこっちの準備があるから、タウロも王都にいる人達との面会予約とかもしておきなさいね」
と告げて扉を閉める。
「……兄上、早速、尻に敷かれてますね?」
とハクは部屋に入って数分で追い出されたタウロに笑って冷やかす。
「敷かれているのかな? はははっ。──エアリスの言う事ももっともだから、ハク、使者を出してもらえるかな?」
タウロはエアリスとの関係性はいつもと変わらないと思っているから、笑ってハクに応じるとお願いする。
「もちろんです。それでは関係先を教えてください」
ハクはタウロにテキパキと応じると、使用人にお願いして馬を走らせるのであった。
「僕はぺらやセトと外に出て来るけど、みんなはどうする?」
タウロは休む暇もなく、部屋から追い出されたので、出かける事にした。
「俺は、部屋で軽く飲んで寛いでおくかな」
アンクは使用人にお酒を持ってきてくれるようにお願いすると、そう答える。
「私は王都に竜人族の先輩達が来ているらしいから、ちょっと挨拶しに行ってくる」
ラグーネはここに来る前に立ち寄った竜人族の村でそのように聞いていたので、同じく出かける用意を始めた。
「王都の人混みが凄すぎるので、ボクも部屋で休んでおきます」
シオンは久し振りの王都に酔ったようで、疲れを見せていたから予想通りの反応であった。
「わかった。じゃあ、後でね」
タウロはみんなに答えると、ハクに馬車を出してもらって、外出するのであった。




