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【完結】自力で異世界へ!~優しい仲間と一緒に異世界生活を満喫します~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第596話 帝国の損失

 所長邸から大きな火の手が上がっていた。


 だがそれはこの研究施設にとっては最早些細な事である。


 防壁内はすでにタウロが地下から出した魔物達で溢れており、警備兵達は混乱の中職員達を守りながら各場所で抵抗を続けていた。


 その間にタウロの岩人形ゴーレムロックシリーズが、研究施設をことごとく破壊し尽くしていたから、所長邸の火事は誰も気に留める者などいない。


 こうして、アンタス山脈地帯に密かに存在していた秘密の研究施設は、一夜にして破壊され、魔物によって関係者は蹂躙、そして大事な研究資料は灰塵に帰した。


 そして、あとに残された研究成果である魔物達は、この後、帝国領内でしばらくの間、暴れ回る事になる。


 その為、サート王国北部に侵攻する準備をし、待機していた軍はそちらに回る事になり、今回の帝国の大掛かりな作戦は大きな被害を受けて潰える事になるのだが、それはまだ少し先のお話だ。



 夜が明けたアンタス山脈の山中。


『黒金の翼』一行は、タウロの『瞬間移動』能力で研究施設から南へ移動し、国境線を越えてサート王国側へと無事に戻っていた。


 ロックシリーズを使用したから、それを目撃した者によって帝国側にタウロの関与を伝えられる可能性はあるが、しかし、タウロが意図的に起こした魔物達の暴走によってあの混乱した場から生き残って帝国軍に知らせる事が出来た者がいるのかどうか疑わしいところではある。


 それくらい施設で作られた魔物達は危険な生物だったのだ。


 解き放たれたオログ=ハイや吸血狼の存在は帝国にとって、今後、自領に大きな傷跡を残す事になるだろう。


 それは、作り出した側の責任でもあるから、これから帝国領内で起こるであろう大混乱にタウロは同情する気はないのであった。


「リーダーはそういうところでは妙に厳しいよな」


 アンクがタウロが今回の作戦内容を指摘した。


「こちら側がやられていたら、魔物に襲われるどころか帝国軍が侵攻して来て北部一帯が戦場になるところだったわけだからね。そんな危険な作戦を実行しようとした帝国側には自分達がいかに酷い事をしようとしたか、少しは身を以て理解してもらわないとね」


 タウロは心外とばかりにアンクに応じた。


「帝国の領民が被害に遭う事になるのだけど、タウロの指摘の通り、禁断の研究をしてそれを使用した作戦を実行しようとした報いは受けるべきよ」


 エアリスもタウロの非情な作戦に理解を示した。


「……そうだな。もし、こちら側で実行されていたら、さらに悲惨な事になっていただろう。……自業自得だな」


 ラグーネもタウロとエアリスに賛同する。


「帝国の不始末を帝国自身に責任を取ってもらうわけですから、問題無いと思います!」


 シオンも今回の事態について、タウロを支持した。


「……確かに。最近の帝国は禁忌だの戦争だの、ヤバい事しか考えてない感じだからな。『黒金の翼(俺達)』でその企みを防ぎ、それらの後始末を帝国に取らせるのは当然か……」


 アンクもみんなの意見を聞いて、理解を示す。


 元傭兵としては、お金にならない殺しはやらないものだから、魔物を野に放って帝国の領民に被害を出すのは気が引けるところだったのが、やられたらやり返すというのも国家同士の争いでは、当然ある事だから考えを改めるのであった。



 こうして、帝国の長年の技術と資金を投入して密かに作られた禁忌の研究施設はタウロ達『黒金の翼』によって、呆気なく破壊され、帝国の数年がかりの野望は打ち砕かれる事になった。


 この後、帝国では研究施設の魔物がタウロの思惑で国内に放たれた事で、その後長い事混乱をきたし、軍が奔走する事になる。


 そんな中、帝国軍の四天王の一角であるバルバトス将軍が事故死した事が帝国内で報じられる。


 実際はタウロとの一騎打ちで戦死を遂げたのであるが、それを認めればサート王国への秘密の侵攻作戦を認める事になる上に、その作戦を冒険者集団によって未然に防がれたという醜態を晒す事になるから、事故死と発表されたのであった。


 そして、今回の被害額は想像を遥かに超えるものとなるのだが、研究施設自体が国内外に秘密のものであった為、責任を誰かに追及する事が出来ず、帝国史では新種の魔物による魔物大暴走スタンピードという扱いで終止符を打つ事になるのだった。



 帝国皇都の中心部、皇宮の一角。


「……例の研究施設で何が起きたのだ?」


「わかりませぬ。どうやら、所長のイワン子爵が何かしくじったのかもしれません。現場は魔物達の暴走で悲惨な有り様とか……。生き残った者がおらず、確認が取れない状況です」


「……名将バルバトスを失い、多額の資金を注ぎ込んでいた研究施設も失い、その施設から生まれた魔物が国内で暴れ回って猛威を振るう状態で帝国は大損失なのに、その責任の行方も定かではないとは情けない……!」


「申し訳ございませぬ、皇太子殿下。──陛下は今回の件を全て無かった事にする様子です。側近の竜人族の連中がそう進言したそうですから、十中八九そうなるかと思われます」


「……竜人族の連中も普段大きな事を言っているくせに、こんな時には何もできないのか? 南の竜人族を流行病で滅ぼして見せると言って失敗。内部から貴族達を操ってサート王国を滅ぼすと言って失敗。王太子を操って国を乗っ取ると言って失敗。新種の魔物を送り込んでサート王国内を大混乱に陥らせ、その間隙を縫って侵攻、北部を切り取ると進言して失敗。奴らは失敗ばかりではないか!」


「皇太子殿下、お静かに。奴らがどこで聞いているかわかりませぬ。──竜人族は伝説の一族。実際、帝国史においてもその貢献度は多大なものがあります。南の竜人族が健在である事からも、こちら側の竜人族を敵に回し、失うような事があってはいけませんぞ」


「……わかった。今回もまた、私は目を瞑るしかないわけか……。だが、バルバトス将軍を討ち取った冒険者の首くらいは持って来させよ。帝国の名将が事故死のままでは不憫だ」


 帝国の皇太子アーサーは側近である老執事にそう申し付けると、不満顔のまま政務に戻るのであった。



「寒気が……」


 タウロはスウェンの街の宿屋で、荷物を整理していた。


「風邪かしら? どうする? もう少しここに滞在してもいいわよ?」


 エアリスが荷物をまとめてタウロにマジック収納に納めてもらいながら、その体調を気遣った。


「いや、大丈夫。僕には能力『長命』があるから病気には罹らないらしいからね。きっと誰か嫌な噂でもしているんだと思う」


 タウロはそう答えて苦笑すると室内の荷物を全て収納してしまうのであった。


「タウロ、こっちも出かける準備は終わったぞ」


 ラグーネとシオンがそう言うとタウロの部屋に顔を出す。


「俺も終わったぜ、リーダー」


 アンクも向かいの部屋から扉を開けて言う。


「それじゃあ、新たな冒険に向かおうか!」


 タウロがみんなにそう言うと、


「うん!(ああ!)(おう!)(はい!)」


 と返事が返って来て、セトは頷き、ぺらはタウロの肩の上で飛び跳ねている。


 そして一行は、ラグーネの『次元回廊』とタウロの『空間転移』を使用して、その場から一瞬で消え去るのであった。

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