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【完結】自力で異世界へ!~優しい仲間と一緒に異世界生活を満喫します~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第594話 所長邸

 施設を囲む防壁内の騒ぎは、すぐに所長宅がある建物にも知らせが届いた。


 何より夜中に静寂を破る大轟音が山中に響き渡るのだから気づかない方がおかしいところではある。


 所長宅には警備の為の兵が多数常駐しており、研究施設が破壊されているようだとわかると、所長がその警備兵に犯人の逮捕も含めて命令を下した。


「あれだけの研究施設を一から作り直すには数年はかかる上に、多額の資金が必要になる。それはつまり、ほぼ不可能という事だ。被害を最小限に留めよ! そして犯人は必ず捕らえよ! 吾輩の施設を一部でも破壊した報いは必ず取らせる!」


「ですが、こちらの警備も減らすわけには……」


「馬鹿者! 研究施設あってのこの場所であるぞ! ただでさえ、魔物軍団による侵攻作戦が大失敗に終わった今、施設が無くなったら、吾輩の存在価値は皆無だ!」


 所長はそう憤ると、警備隊の大半を研究施設に送り出すのであった。



「警備がほとんどいなくなったから、チャンスじゃない?」


 所長宅の玄関を見張っていたシオンは、セトに聞く。


 セトはシオンを支持するように頷く。


 当然ながらセトはタウロと思考共有しており、判断もタウロそのものであるから、シオンがセトを頼るのも当然である。


「それじゃあ、建物に潜入だね!」


 シオンはセトの合図で壁を飛び越えると潜入、セトも後に続く。


 二人は先程までは警備兵で物々しく厳重だった、今では無人の庭を突っ切ると、館の傍まで辿り着いた。


 慌ただしく人が出入りした後らしく、館の扉などはカギが開いており、中にも簡単に入れた。


「タウロ様の予想だと、魔物の研究資料など大事なものがここには保管されている可能性もあるらしいから、それを重点的に探そう」


 シオンがセトにそう提案するとセトも頷く。


 二人が館内を探そうとしていると、館の使用人達が主である所長の命令の下、書類の束を運んで廊下を慌ただしく行き来している。


 どうやらみんなそれらを地下室に運び込んでいるようだ。


「目的のものは地下室みたいだね……。あとはここの責任者だけど……」


 シオンが廊下の様子を扉をすかして窺いながらつぶやく。


 すると一緒に廊下の様子を窺っていたセトがシオンの肩をちょっと触ると廊下を歩いて来る人物を指差した。


 セトの指差したその人物はまさしく目的のひとつであるこの施設の所長、イワン子爵であった。


 シオンはすぐにそれを理解すると、隠れる必要がなくなったとばかりに、廊下に飛び出してイワン子爵の前に立ちはだかる。


「? なんだ、この子供は?」


 イワン子爵は傍に付き従っていた護衛に確認を取る。


「所長、お下がりを。私の記憶にないので侵入者だと思います」


 護衛はこの大きな施設全体に出入りする人物の人相を全員覚えているのかイワン子爵とシオンの前に立ちはだかった。


「セト、君は地下室に向かって! ボクはこの人達を片付けるから」


 シオンは後ろにいるセトに促すと、セトはすぐに頷き、地下室に向かう。


「くっ、研究資料が目的か! ──おい、早いところこの子供を殺してもう一人の仮面の子供を止めろ!」


 イワン子爵は人のように動くセトを仮面を付けた子供だと思ったのか、護衛にそう命令すると後ずさる。


「……所長、私から離れないでくださいよ? 守れなくなりますので」


 護衛の男はイワン子爵が逃げ出そうとしているのがわかったのだろう、そう忠告する。


「ならば、早くこの子供を倒せ。あっちはやる気満々だぞ!」


 所長イワン子爵の言う通り、シオンはいつものフード付きマントの腕をまくると、『相対乃魔籠手』を構える。


「……拳闘士か。室内戦では有利な能力だが、この広い廊下で俺を相手では、それもあまり関係ないぞ」


 護衛の男はシオンにそう告げると、湾曲した変わった形の短剣を両手に構えた。


 シオンは護衛の男が明らかに腕が立つ相手だとすぐに理解した。


 一目見て隙が無いと感じたし、こちらに注意を払いつつ周囲にも意識を飛ばして他にも敵がいないか探る余裕も持ち合わせていたからだ。


 シオンはだが焦る事はない。


 周囲を警戒して相手が慎重になってくれるという事は、逆に、セトが地下室に行って研究施設の資料を処分する時間が増えるくらいだから、シオンとしてはどっしり構えて時間稼ぎをする事が出来た。


 護衛の男もそれがわかったのか、「ちっ……!」と舌打ちすると、時間をかけるのは分が悪いと判断して斬りかかる。


 その動きはボクサーのように踏み込み、拳を繰り出すようにその特徴的な湾曲した短剣がシオンを襲う。


 シオンはその攻撃をギリギリのところで掻い潜りながら、敵にカウンターを合わせた。


 シオンの右腕の籠手は光属性を宿し、攻撃と守りを増大させ、左腕の籠手は闇属性を宿し、攻撃時、敵にランダムで強力な状態異常ダメージを与える。


 半面、使用者に対し、精神的苦痛を与える為、強い精神力が要求されるのだが、シオンは痛みが大丈夫なのか平気な顔で、その左拳を威力よりも、より素早く俊敏に敵に合わせて繰り出した。


 だが護衛の男はそのカウンターをわかっていたとばかりに右の肘当てで防ぐ。


 だが、シオンの『相対乃魔籠手』での攻撃にはそれが関係なかった。


 いや、光魔道僧として『竜の穴』で成長したシオンの拳が、その防具を貫いて攻撃を到達させる術を持っていたと言うべきか。


 シオンの左拳は護衛の肘当てを殴る衝撃と共に、肘へ波動が伝わるようにダメージを与えた。


「ぐぁ!」


 護衛の男は右肘から全身に走るあまりの激痛に、手にしていた歪曲した短剣を思わず地面に落としてしまう。


 シオンはその瞬間を見逃すわけもなく、一歩踏み込むと今度は護衛の男の革鎧越しに右拳を繰り出す。


 シオンの拳は鎧内部に衝撃を伝え、護衛の男はその一発で白目を剥き、その場に倒れるのであった。


「中央から派遣されてきた超一流の護衛を倒すとは……。ただの子供ではないな……。ならば、吾輩も本気を出さねばなるまい……」


 所長であるイワン子爵はシオンを前にそう告げると、懐からガラスの小瓶を取り出した。


 シオンはそれが、毒かもしれないと身構え警戒する中、イワン子爵はそれをその場で飲み干すのであった。

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