第590話 新たな昇格
タウロの提案からまた数日後。
仲間に対する提案は今後の事を考えても良いと思えるものだったが、ただしアンタス山脈地帯といってもその範囲は広く、帝国の魔物研究施設がどこにあるかはわからない。
それは藁の山から針を見つけるようなもので、到底不可能にも思える。
だが、タウロには勝算があった。
それはアダムとイヴである。
セトと同じくダンジョンの謎物質で作った大人の男女型人形の二体は、魔物軍団掃討戦の後、子供型自律思考人形であるセトの操作でずっと逃げる敵の兵士達のあとを尾行させていたのだ。
だから、タウロは操作中のセトをマジック収納に納める事無く、一緒に行動していたのである。
「──全く……。リーダーはどこまで先を読んで行動してんだよ。──それで目星はついているのか?」
アンクはタウロの用意周到な行動に呆れると聞く。
「一応ね。──幸いというかあちらも秘密裏に研究していたみたいで帝国側のアンタス山脈地帯の山中に施設はあるみたい。──だよね、セト?」
タウロはアンクに答えると、今回の立役者であるセトに聞いた。
セトはしゃべられないから頷く動作をする。
「さすがセトね!」
エアリスがセトを褒めると頭を撫でる。
「『人形使い』の能力というのは改めて便利だな。『気配察知』能力にも物質だから基本的に引っ掛からないし、セトに操作を任せているからタウロは寝てても大丈夫なのだろう?」
ラグーネが感心してエアリスと同じようにセトの頭を撫でた。
「セトは優秀ですね!」
シオンはセトの活躍に喜んで抱きつく。
「という事だから、目的地を目指して僕達も出発したいところなんだけど、その前に冒険者ギルドに顔を出しておかないとね」
タウロは今は行きたくないのか困った顔をして言った。
「調査団に参加した冒険者をはじめとする大勢の関係者達による俺達の昇格推薦があったから、その結果が出るんだろ?」
アンクがタウロを代弁するように話した。
「調査団が戻った後の冒険者ギルド・スウェン支部は私達の事で持ちきりだものね」
エアリスが苦笑して応じる。
「あれからまた数日経ったし、さすがに落ち着いているのではないか?」
ラグーネは楽観的に答えた。
「そうだと良いけどね。それじゃ行くよ」
タウロの言葉に全員は立ち上がると冒険者ギルドに向かうのであった。
冒険者ギルドに到着して出入り口を潜ると、その場に居合わせた冒険者達がすぐにタウロ達に気づき、握手を求められる。
「改めてありがとうな。あの時、あんたらが来なかったら俺は死んでた」
「俺も、あの時は死を覚悟したよ。ありがとう」
「『黒金の翼』はこの支部の誇りだぜ!」
命を救われた冒険者達が口々にタウロ達の活躍を賛美すると、拍手を送る。
そこに受付嬢が、
「『黒金の翼』のみなさん、奥の部屋へどうぞ!」
と大きな声で告げた。
タウロ達はその言葉に助かったと思いながら特別室に向かう。
「みなさん凄い人気ですね」
受付嬢はこれまで以上にとても愛想よくタウロ達に応じた。
今や人気だけならスウェン支部で一番であったから、受付嬢も気を遣うところだろう。
タウロ達は今日の目的について告げようとすると、受付嬢がわかっているとばかりに、
「昇格についてですね?」
と対応した。
そして続ける。
「冒険者ギルド・スウェン支部は今回、前例を見ない数十人もの冒険者による推薦、また、みなさんの功績を精査した結果、異例尽くしの判断ではありますが、支部長権限でみなさんの試験無しで二段階昇格のB+ランクに決定しました! おめでとうございます!」
受付嬢がそう宣言して拍手をすると、他の職員や、特別室にいた一流冒険者達からも拍手が巻き起こった。
「B+!? あ、ありがとうございます。でも、試験無しでいいんですか? 上位の冒険者の昇格ってかなり厳正な審査があると聞いていますが……?」
タウロは初めての昇格試験を少し楽しみにしていたので、一応確認を取る。
「はい、おっしゃる通り、通常は試験と審査があります。私もこの異例の昇格は初めての経験です。ですが、この街の上位冒険者から一般冒険者に至るまでの数十人もの推薦や調査団全滅の危機を救った英雄的な行動と魔物千五百体以上の討伐、Aランク帯魔物討伐などそのみなさんの功績は早く昇格させるべきという判断になったようです」
受付嬢も自分で言いながら、この目の前のリーダーの少年を含む子供二人に若い女性二人、おっさん一人、さらにはスライムに人形というあまり強そうに見えない構成のチームに、ふと本当に凄いチームなのだろうか? という疑問を持ちそうになるところではあったのだが、実際、この数日魔物千五百体以上の処理に追われる解体業者達を見て来ているので信じざるを得ないのであった。
受付嬢はそして続ける。
「それではみなさんのタグをお預かりします」
受付嬢はそう言うと、タウロ達のタグを預かって奥にある魔道具に一つずつ入れては、コピー機のようにウィーンという音がして下からB+ランクと書かれた白金のタグが戻って来る。
「改めまして、B+ランクへの昇格おめでとうございます!」
受付嬢はそう言って拍手をした。
「おめでとう!」
「当然の結果だな!」
「これからも活躍を期待しているぜ!」
その場に居合わせた冒険者達が改めてタウロ達に賛辞を贈る。
タウロ達もその称賛を素直に受け入れ、昇格を誇るのであった。
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