第585話 桁違いのギルドへの報告
上級冒険者用特別室内は、タウロのクエスト完了報告で、ちょっとした騒ぎになっていた。
まず、Aランク帯と思われる魔物の討伐の件で冒険者ギルド・スウェン支部長がやってきた。
「報告を受けたが本当かね!?」
支部長はタウロ達Bランク帯冒険者が、Aランク帯の魔物を討伐した事の驚きはもちろんの事、クエストレベルが適正ではなかった事についての、ギルドの責任を感じたようだ。
「支部長、これまでの冒険者達が失敗を重ねてきたクエストなので、今回の吸血狼の評価はBランク帯なのは適正だと思われます。ですが、タウロさん達の報告からその親玉と思われる吸血狼王・亜種が現れたのは、こちらでも想定外ですが、魔物の『王』でさらにはその亜種ともなれば、最低でもAランク帯評価になるかと……。詳しくは魔石を取り出してからの鑑定ですね」
受付嬢は支部長にタウロがマジック収納から出した魔物の一部を指差して説明した。
「あ、それならすでにうちでこの亜種の魔石は取り出しています」
タウロはそう言うと魔石を受付嬢に差し出した。
「!し、支部長! これ、私のB+鑑定能力では判別できない代物なので、鑑定阻害能力を持ったAランク以上の魔石確定です!」
受付嬢は大きく目を見開き、大切に魔石を両手で持ったまま、支部長に告げる。
「あ、一応、僕も鑑定できるのでお伝えしておくと、それ、A+の魔石だそうです」
「「A+!?」」
支部長と受付嬢は、タウロの言葉を復唱するように言うと、その後は呆然とする。
「……あ、支部長……。みなさんは他に『虹色草』の採取にも成功されています……」
受付嬢は驚くのにもう疲れたのか、げっそりした様子で、支部長に話した。
「『虹色草』も!? ──依頼主からこの一年、ずっと催促され続けていて困っていたから本当に助かる……。『黒金の翼』は現在B-ランクだったな。──良かったらBランクへの昇格試験への推薦状を私が書いておきましょうか? さすがにB-ランクになってからの実績も少ないから無条件で昇格させるわけにはいかないが、そのくらいはさせてもらいたい」
支部長も驚き疲れた様子で、汗を拭きながらタウロ達の昇格試験を勧めた。
「ありがとうございます。あ、そうだ! 新種の魔物であるオログ=ハイもその後、諸事情で大量に討伐しまして……、クエストの討伐数の達成上限を超えているのですが、評価ってどうなりますか?」
「……上限を!? それはつまり、こちらで冒険者に無理をさせない為に指定した三十体以上を討伐したと!? ……いや、いまさら驚く事ではないな。なにしろAランク帯の魔物を討伐した君達だからな。──それで、何体を倒したと? まさか五十を超えるとは言わないでしょうな?」
支部長は大袈裟に笑って心の準備をする。
「千五百以上です」
「「はっ?」」
支部長と受付嬢が思わず聞き間違えたと思い、聞き返した。
「千五百以上です」
「……た、タウロ殿。冗談が過ぎますぞ? そんな数、魔物大暴走でも起きない限りありえません。それに新種の魔物がそんな数、急に出て来るわけがない。はははっ……! ──……、え……、マジ……?」
支部長は思わず素を出してタウロに聞き返す。
「マジです」
タウロはちょっと、面白がって答える。
「百五十でもなく、千五百……ですか?」
支部長はやはりタウロの冗談ではないかと探るように再度聞く。
「はい。数日後には調査団が戻ってきて詳しい報告をしてくれると思いますが、謎の兵士とオログ=ハイ、吸血狼などの魔物で構成された軍団と調査団が遭遇して戦闘になり、それを助ける流れで僕達も戦う事になりました。数が多く数日間逃げる魔物を狩っていたのですが、さすがに僕達でも大変だったので、あとは軍に任せて下山してきました」
「軍から報告があった例の件ですか!?」
支部長はようやく、タウロ達が今、ギルドで噂になっていた調査団が危機に陥っているという信憑性に関わる話をしている事に気づいた。
「はい、当事者の一人です」
「それで調査団は!?」
「無傷とはいかず死傷者も多く出ているので無事とは言えませんが、同行していた冒険者のみなさんの奮闘もあり、相手の規模を考えるとかなり善戦したと言えるかと思います……。その辺りも詳しくは調査団の後日の報告で確認してください」
「……そうですか。でも、本当に……、千五百以上?」
「マジック収納に入っているので、庭の方で一部出しましょうか?」
「……それでは確認の為、お願いします」
支部長はまだ、半信半疑の状態であったが、ギルドの中庭に移動すると、タウロが庭の広さも考えて一部である三百体のオログ=ハイと百体の吸血狼がうず高く積んで見せた。
「「「!」」」
これには支部長のみならず、受付嬢、ギルド職員、丁度自主練をしていた冒険者達も唖然とする。
「全部この庭に出すと溢れそうですし、処理が追い付かず異臭がしそうですが、どうしますか?」
タウロは、驚いている支部長に確認を取る。
支部長は、
「ちょ、ちょっと待って! 数日かけて処理するので全部はお待ちを! ──街の解体処理業者全員に声を掛けろ! 大仕事だとな!」
支部長は周囲にそう指示すると職員達は一斉に散らばっていく。
「疑ってすみません。詳しい事は報告書にまとめてもらっていいですか? 調査団が戻ってくる前にこっちは処理しておきたいので……」
支部長はうず高く積まれた魔物の死骸を見上げると、嘆息交じりにそう答えるのであった。
「はい。それではよろしくお願いします」
この後のギルドの仕事量を想像すると何だか申し訳なくなり、お願いすると部屋の片隅でエアリスと共に報告書をまとめるのであった。
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