第584話 仰天の報告
タウロ達『黒金の翼』一行は、帰郷する調査団に先駆けて、拠点にしているスウェンの街にいち早く戻って来ていた。
「それじゃあ、早速、冒険者ギルドで今回の報告しようか」
タウロがそう言って長旅の疲れを表すように背伸びをすると、それを真似するように、子供型自律思考人形のセトも同じ行動を取り、スライムエンペラーのぺらもタウロの肩の上でその丸っこい体をムニュッと伸ばす。
「ふふふ。セトもぺらもタウロと行動が似てるわね」
エアリスがその光景を見てほほ笑む。
「その代わり、周囲はセトに注目してるみたいだぞ?」
アンクがギルド前で背伸びをするセトを珍しそうに見つめる通行人の視線に気づいて指摘した。
能力としてそれなりに珍しい人形使いだが、有用性という意味ではその評価は低い。
基本的に旅芸人の一座など見かける事が多い能力で、その動きは文字通り《《人形》》なのだが、セトは人そのものの滑らかな動きをしているから、人目を引くのも当然だろう。
それに、セトはタウロから支給された革鎧や剣を装備しているから、通行人は一見すると人だと思い、視線を外しそうになるところで、「え、人形!?」という二度見が多数発生するのであった。
「はははっ! セトには帽子を目深に被らせれば、人に紛れて気づかない人も出てくるかもね」
タウロは今回、数々のクエストでセトが活躍してくれたから、とても満足していた。
それにある目的の為と、セトに対するご褒美も兼ねて、街に到着してもマジック収納に納める事無く、一緒に歩いているのだ。
他にもセトは自律思考人形だから、常に学習させる方が良いだろうという事もある。
セトはタウロと思考共有できるから、十分学習はできるのだが、個性を出してもらおうとするならば、世界を見せる方が手っ取り早いのだ。
一方、ぺらは一見するとただのスライムだから珍しくない為、子供くらいしか興味を示さない。
そういう意味ではこれからぺらは擬態して姿を隠さずともいいかもしれない。
タウロ達はそのまま、冒険者ギルドに入っていくと、受付に報告に向かう。
ギルド内部はいつもに増して、ざわついている。
時折、
「あいつら無事かな……」
「魔物大暴走の可能性があるのに、冒険者ギルドは動けないのか?」
「軍が動いているらしいからな。スウェン伯爵が抗議に赴いているらしいが」
どうやら、調査団一行が救援を求めて送り出した冒険者は、軍施設に飛び込んだ時点で情報は機密扱いになり、詳しい事はこの街まで来ていないようだ。
そんな騒ぎを横目に、タウロ達は一流冒険者のみ入れる奥の特別室に直行する。
「お帰りなさい、『黒金の翼』のみなさん。お早いお戻りですね。謎の魔物討伐クエスト大丈夫でしたか?」
受付嬢はタウロ達がそのクエストを早々に解決させ、そればかりか調査団を助けた大立ち回りに関わっている事はさすがに知らないようであった。
「ちょっと想像以上の強敵でしたけど」
タウロはセトの活躍で仕留めた吸血狼とその上位種である吸血狼王・亜種の死骸をその場に出す。
受付嬢はタウロ一行の人数が増えている事に気づき、それが人形であるとわかり、興味津々でセトを見つめていた。
「タウロさん、その人形は一体……?」
受付嬢は、セトに釘付けになっていたから、タウロが仕留めた魔物にも気づくのが遅れる。
「ああ、僕、人形使いの能力を覚えたので作りました」
タウロは詳しく話す必要も無いかと思い簡単に説明する。
「……凄いですね。ずっと操作していて魔力の方は大丈夫ですか?」
受付嬢が心配するのも当然だ。
通常の人形使いは魔力を消費して人形を操る。
だが、タウロの人形であるセトをはじめとしたアダムとイヴ、ロックシリーズは動力源があるからその必要がないのだ。
「その辺は大丈夫ですよ」
タウロがそう応じると、セトは受付嬢にお辞儀をする。
「流れるような動きですね、凄い……。──あ。討伐した魔物の鑑定でしたね!」
受付嬢はセトが余程気になるのか、仕事が手に付かない感じであったが気を取り直してタウロが出した魔物の鑑定を行う。
そして、
「えっ? 吸血狼?? これ初めて聞く魔物です……! これまでの冒険者達の失敗を鑑みて、少なくともBランク帯の魔物に該当すると思います。──それにこっちは吸血狼王・亜種!? ちょ、ちょっと待って下さい! Bランク帯魔物の『王』で、その亜種となると……、おそらく軽く見積もってもこれ……、Aランク帯の魔物ですよ!?」
と受付嬢は激しく動揺すると他の職員に支部長を呼ぶように伝える。
「あ、それとその後に薬草採取クエストの『虹色草』も入手出来ました」
タウロはマジック収納から虹色草を取り出して提出すると、受付嬢を落ち着かせるように、他のクエスト完了も報告した。
「この一年、未達成が続いていた『虹色草』採取もですか!?」
どうやら落ち着かせるどころかまた、慌てさせる結果になったようだ。
今度は職員に依頼主に報告するように告げる。
「……なんだか大騒ぎだね?」
タウロはエアリス達に振り返ると苦笑した。
「この後、調査団救出の報告したら、失神するんじゃない……?」
エアリスはタウロに小声で耳打ちすると同じく苦笑いするのであった。




