第575話 クエスト情報
村外れの森。
魔物達の遺骸を前にタウロの回復を待って、今回のクエストの完了を確認していた。
タウロを苦戦させた大きな狼の魔物は、他の三体が吸血狼という種類であったのに対し、能力である『真眼』で確認すると、その表示では『吸血狼王・亜種』となっていた。
詳しく鑑定すると、
「吸血狼の王であり、さらにその突然変異で生まれた特殊個体。知能が高く、その牙は魔法防御を無効化して貫く」
と追加された。
「吸血狼が強制的に生み出されたものみたいだから、これはその中でさらに低確率で生まれた魔物みたいだね……」
タウロは吸血狼王の説明をエアリス達にすると、そう感想を漏らした。
そして、続ける。
「──運が良かったのはこの吸血狼王には首輪が付いていたんだけど、これを鑑定したところ……、この首輪は『帝国アンタス山脈地帯魔物研究所・特殊開発部門製・特級実験体魔物用首輪』と表示されるんだ」
「それって、裏で帝国が絡んでいるって事よね?」
エアリスが眉根を寄せ深刻な表情でタウロに聞く。
「……うん。鑑定を誤魔化す技術がある帝国が普通なら、これだけ首輪に情報を残すわけがないと思うんだけど、首輪の付け根に鎖が少し残っているところを見ると、この魔物はそこから逃げてきたのかもしれない」
タウロは状況証拠からそう推測した。
「帝国はとんでもない魔物を作ってやがるな……」
アンクが呆れる素振りを見せて言う。
「この魔物はその帝国も手を焼いたのかもね。情報を持って逃げられたのだから」
タウロは首輪を指し示しながら答えた。
「こうなると新種の魔物であるオログ=ハイの件も帝国絡みだと考えた方がいいのだろうな」
ラグーネが今回の件と結び付けて結論付けた。
「帝国は何をしたいのでしょうか?」
シオンが首を傾げる。
「戦力として開発していると考えるのが妥当かな。この魔物は言う事を聞かず逃げたのかもしれないけど強力な魔物だったし、これには強さで劣っても集団戦闘に優れて知能も高そうなオログ=ハイは、装備を充実させれば兵士として危険な場所にも向かわせる事が出来るし、使い勝手はかなり良いと思う」
「あんな魔物が軍隊並みに沢山いるとは思いたくないが、実際、古代地下遺跡では二百体以上いたわけだし可能性は高いな」
アンクが地下遺跡から脱出する際、タウロが最後に確認したオログ=ハイの群れとそれを指揮する謎の集団の事を思い出して言った。
「罠があるかもしれない未知の古代地下遺跡探索に、人ではなくオログ=ハイを試験的に使っていたとも考えられるわね」
エアリスもアンクに賛同するように指摘する。
「……そうなると古代地下遺跡の調査団は大丈夫でしょうか?」
シオンが心配するようにつぶやく。
「……一応、帝国の可能性については伝えてあるし、オログ=ハイ対策として領兵と冒険者を沢山集めてあったから大丈夫、……だよね?」
タウロは少し、心配になってエアリスに聞く。
「……私達は私達のクエスト完了に集中しましょう。もう、吸血狼はいないと思うけど、数日はこの村に滞在して様子を見ないといけないと思うし」
エアリスは現実的な事を口にした。
エアリスの言う通り、他所のクエストの事を心配しても仕方がない。
依頼主がいる以上、自分達は自分達の仕事を全うするだけである。
「それじゃあ、夜も明けて来たし、村に戻って討伐報告しようか」
タウロはそう言うとマジック収納に討伐した魔物を回収し、村に戻るのであった。
村では子供型自律思考人形のセトが放った衝撃波によって木々をなぎ倒した大きな音が響いていたから、村人達は夜中の間、怯えて過ごしていたようだ。
村の入り口にいるタウロ達を村中の者達が家から出てきて見ている。
「結局、僕達が大きな音を立てちゃったから、村のみなさん寝れなかったみたいだね……」
タウロは苦笑すると村の入り口で門番に音について簡単に報告しようとした。
そこに、村長が急いでやってきたから、丁度良いとばかりに討伐した魔物達をマジック収納から出して本格的に説明する。
「それでは夜中の大きな音はその時の戦いの音だったのですね! あまりの音に村の者達はみな目覚め、この世の終わりだと怯えておりましたが、これでようやく安心できるというものです。みなさん、ありがとうございます!」
村長は笑顔で応じると他の村人達に聞こえるように大きな声で感謝した。
それは村人達を少しでも安堵させる為だろう。
村人達も村長のその言葉でようやく魔物に怯える日々が終わったとわかったようだ。
口々にタウロ達に感謝の言葉が掛けられる。
「一応、他にいないか数日程周囲を調べてから完了にしますので、ご安心ください!」
タウロも村長と村人に聞こえるように大きな声で答えると、村人達からはより一層感謝の声が上がるのであった。
それから二日間、タウロ達一行は村の周囲を調査し、吸血狼達の巣になっていたと思われる洞穴も発見、それも塞いだ。
他にも大きな魔物一体に遭遇したのでそれもついでに討伐して、村の安全は確保できたと判断してクエスト完了のサインを村長からもらう。
「ここまでしっかりやってくれてありがとうございました!」
「いえ、僕達も冒険者として仕事しているだけですよ。──そうだ。僕達、他のクエストもやっていて情報が欲しいのですが、この薬草って知っていますか?」
タウロはアンタス山脈のこの麓の村なら依然引き受けてまだ未達成である薬草採取クエストの用紙をみせて詳しい情報を求めた。
「どれどれ……、ああ、虹色草ですね?我々も中々遭遇する事がない薬草ですが、以前、うちの村の狩人があの山のあそこにポッコリ出た岩があるでしょ? あの辺りに見つけたけど、足場が悪く危険だから取れなかったと言ってましたよ」
「本当ですか!? 貴重な情報ありがとうございます! ──みんな、帰る前にあそこに行くよ!」
タウロは思わぬ目撃情報に歓喜するとエアリス達に声を掛ける。
「あのクエスト、達成できるか怪しかったから、助かったわね!」
エアリスもこの情報にタウロと一緒に喜ぶ。
「運が回ってきたではないか!」
ラグーネもそう言うと、
「仕方ない、それじゃあ、とっとと行こうぜ!」
とアンクも承諾する。
「それではみなさん、また、困った事があった時は冒険者ギルドに依頼してください」
タウロが去り際、村長に宣伝すると、薬草を求めてアンタス山脈をまた登山する為に向かうのであった。
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