第570話 続・同じ道すがら
スウェンの街を発ってから四日目の夜。
アンタス山脈地帯を目指して旅をする古代遺跡調査団の野営組冒険者や領兵達の間では、タウロ達の存在はとてもありがたいものになっていた。
低価格での美味しい料理の提供から、野営で助かるアイテムの販売、とても使いやすく大人数でも困らない数の仮設トイレ設置、希望者に対して水浴び代わりに魔法で『浄化』してくれるサービスなどは行く先々での村や街にも迷惑が掛からないものだから、重宝されたのだ。
その為、狙い通りにタウロ達『黒金の翼』の人気はうなぎ上りで、偽者チームの存在によって変な名の知られ方をしていた当初と比べて、かなり好意的なものになっていた。
「十五歳で名誉子爵というから、態度が大きな子供かと思っていたんだが、偉ぶってないし、一流冒険者としても尊敬できそうなチームだよな」
「美女もいるしな!」
「それな! 俺はラグーネちゃんのあの抜群のスタイルがたまらん……!」
「俺は正統派美人のエアリスかなぁ」
「男どもはこれだから! 私はボクっ娘のシオンちゃんの浄化に癒されるわ」
「あたしはリーダーのタウロ君が凄いと思うわ。だってマジック収納持ちの上にあの人形を手足の如く操る才能。それに色んな魔道具を開発した天才少年なんでしょ? 将来の旦那に持って来いよ!」
「女どもは結局金かよ!」
といった具合に、タウロ達の評判はとても良くなっているのであった。
「……俺の名が出てこないんだが?」
タウロの調理の手伝いをしていたアンクがいじけて、同じく手伝いをする為にマジック収納から出されていたタウロ制作の子供型人形である「セト」に愚痴を漏らした。
そのセトはアンクを慰めるように、その背中をポンポンと叩く。
「……ありがとうな、セト……」
自律思考人形であるセトの優しさにアンクは癒されるのであった。
「何してるのよ、二人共。アンクは若手冒険者に戦闘でのアドバイスをしたりして慕われているじゃない」
エアリスが隅っこでいじけるアンクとそれを励ましていたセトを呆れた表情で指摘する。
「……そうなのか!? ──確かに俺は実戦経験は豊富だから日中、アドバイスはしてやってたが、慕われてたか! そうか、そうか! ──セト、材料の皮むきやるぞ!」
アンクはエアリスの言葉に元気を取り戻すと子供型人形のセトに包丁を渡して芋の皮むきを始めるのであった。
「ふふふ、アンクは現金ね。──タウロ、こっちのコロッケ出来たわよ?」
「うん、ありがとう! こっちも出来たから、今晩の食事販売始めようか。──お待たせしました! 今晩の食事はコロッケ定食です。サラダ、スープ付きで銅貨六枚。ご飯の大盛りやお替りは銅貨一枚です。コロッケの追加は銅貨一枚につき一個です!」
タウロが野営の人々に声を掛けると、冒険者や領兵達が殺到してきた。
「俺その、コロッケ定食? ご飯大盛りと、追加二個で!」
「こっちも同じのを人数分頼む!」
「ちょっと、あんた達並びなさいよ!」
「俺はご飯に焼肉のタレってやつを掛けてくれ!」
タウロ達の前に殺到した人々はいつもの通り、楽しみとなっているタウロの作る初めて見る料理に迷うことなくお金を出す。
それだけこの数日で、タウロ達が信用されているという事だ。
タウロ達は次々に準備した料理を販売していく。
しばらく戦場のような状態が続いて来たが、ようやく落ち着いて来た。
そこに遺跡調査団のお偉いさんと思われる一団がやってきた。
「君達か? 連日、うちの雇った冒険者達相手に小銭を稼いでいる商人というのは?」
代表者と思われる眼鏡をかけた役人面の男がタウロに声を掛けて来た。
「途中までは道中一緒なので、商売させてもらっていますが、どちら様ですか?」
タウロは悪びれる事無く答えた。
「私はスウェン伯爵の代理としてこの古代遺跡調査団を指揮しているネガメだ。勝手に困るな。これ以上は私も見過ごすわけにはいかない。もし、続けるのであれば、こちらに儲けの三割、いや、四割は入れてもらわないとな」
ネガメと名乗った眼鏡の男は、タウロにお金を要求してきた。
「そういう事なら、ご安心ください。旅程も明日からは別々なので今日までです」
「むっ! では今日の分までを支払え!」
ネガメは金蔓になると思ったタウロがあっさり引くと知って慌ててこれまでの分を請求してきた。
「……ここまではそういう取り決めしていなかったですよね? それで払えというのは無理がありますよ?」
タウロはネガメの言い分に真っ向から反論する。
「調査団に寄生するように付いて来ていたのだ。そのお陰で道中も魔物から安全を確保できていたのだから、その分だけ支払うのが筋だろう!」
「安全? この数日間の野営組の安全はうちの結界師が結界を張って守っていました。それに道中の村々や街に迷惑をかけないように簡易トイレなどを設置して問題を起こさないようにしていたのはうちですよ? 本来なら調査団を率いる者の責任で対処しなくてはいけないと思いますが? その為の予算も出ているはずでしょ?」
タウロは道中、冒険者達から今回のクエストについての不満を聞いていたから、それらをタウロの意見として指摘する。
どうやら、このネガメが節約のつもりなのか預かってきた予算を出し渋っているようだとタウロは睨んでいた。
「! ──我々はこれから何日もかけてアンタス山脈地帯の奥深くに分け入って古代遺跡までの安全な道を通す予定なのだ。それがどのくらいお金がかかるかわからないのだぞ? それだけにお金は銅貨一枚でも惜しいところなのだ! だから人を守銭奴のように言うでない!」
ネガメは図星だったのか激高してタウロに反論する。
「お互いの事情も知った事ですし、もういいですよね?」
タウロはそんな興奮気味のネガメを相手にも冷静に対応する。
ちょっと脅し程度に能力の『威圧』でも久し振りに使おうと思ったタウロだったがそれはさすがに止めるのだった。
「! ──……二度とこんな真似は許さんからな……!」
ネガメはタウロの淡々とした対応にそれ以上は何も言えなくなる。
「それでは、お休みなさい」
タウロがそう告げると、ネガメは腹立たし気に領兵達を連れて自分の寝床に戻っていくのであった。
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