57話 意外な展開
今日はFランククエストの定番であり、タウロの得意中の得意分野、薬草採取に来ていた。
タウロには文字化けスキルで覚えた『真眼』がある。
元は物専門の鑑定眼だった。
そこに『植物の知識』の能力を得て、真眼とリンクする事で指定された薬草をみつける事もできるようになった。
さらには同じく覚えた『気配察知』にもリンクしていて一定の範囲にいる人や魔物に反応する力もある。
真眼が進化してるのかそれとも元々の能力の一部が解放されただけなのかはわからなかったが、とても便利なのは確かだった。
タウロは真眼で順調に薬草を採取していたら気配察知に複数の人影が映った。
1人は人、その背後の4体はシルエットからゴブリンだろう。
追われている様だ。
タウロは『気配遮断』で気配を消して、すぐに急行した。
追われていたのはボブだった、フラフラしながら意識朦朧といった感じだ。
タウロは危険と判断してゴブリンを弓矢で立て続けに2体倒した。
すぐさま『威光』を使って立ち竦む残り2体のゴブリンにとどめを刺した。
「ボブさん大丈夫ですか!?」
振り返るとボブはその場に倒れていた。
ゴブリンに刺されたようだが、それだけではない様だ。
ゴブリンの手に握られていたナイフには毒らしきものが塗ってあった。
恐らくそれで傷を負わされたようで、先ほどまで保っていた意識も今は失っている。
タウロは慌ててマジック収納からポーションを出して傷口にかけて出血を止め、毒消しのポーションを口に流し込んで無理やり飲ませた。
「これだけじゃ心配だから念には念を入れるか…。」
そうタウロはつぶやくと『状態異常回復』魔法を唱えた。
他人に試すのは初めてなので効果がどんなものかわからないので心配だったが、毒消しポーションと合わせて使えば少しは効果があるだろうという判断だった。
しばらくすると呼吸が安定した、効果はあったようだ。
タウロは確認するとボブを背負って村に戻る事にした。
11歳の子供が大人の冒険者を背負って森から帰還した。
普通ならそれだけで、褒められそうなものだが、この村の反応はちょっと違った。
よそ者冒険者がクエストを失敗して死にかけ倒れてたのを、よそ者の子供冒険者がみつけて連れて帰ってきた茶番劇、という話になったのだ。
「よそ者同士で何をやってるのやら。」
「死ななくて良かったとは思うけど、ホントそうだよね。」
「やれやれ、人騒がせな。」
村人達の中には心無い発言をする者もいた。
自分が助けましたと言うのも憚られる雰囲気にタウロも内心驚いた。
よそ者に警戒心が強いだけの問題ではない気がする、と思った。
この村は何か全体的に雰囲気がささくれ立っていて、それがよそ者に対して強く向けられている気がした。
タウロはそんなものは無視して医者にボブを診て貰った。
医者が言うには、処置が早くて出血も少なかったようなので問題はなさそうだとの事だった。
今は寝てるだけだから、起こして帰りなさいと付け加えられた。
医者にもとげがある。
これはいよいよこの村の雰囲気は酷いと思ったタウロだったが、言われた通り肩を叩いて呼びかけて起こすと朦朧とするボブを宿屋まで引っ張って帰った。
「…あれタウロ?俺はゴブリンに毒でやられてそれから…」
「倒れてるところ僕が発見して連れて帰りました。安心して下さい、傷も毒も治療したので問題ないです。」
「そうだったのか…、すまん。迷惑をかけた。」
「いえ、薬草採取をしてたところでたまたま見つけただけなので。…ところでボブさんは何のクエストをやってたんですか?」
「俺か?祠周辺の魔物退治だったんだが…。」
「祠?」
「この村の昔から祀られている氏神がいてな。魔物が増えてからはその氏神を讃えるお祭りも中止されているらしいんだ。」
「それで、周辺の魔物退治ですか?」
「ああ、魔物退治は順調だったんだが、ついきな臭さが気になってそれを調べてたら夢中になって油断したんだ。」
「きな臭い?」
「俺は犬人族だから、鼻と勘には自信があるんだ。その鼻があの祠は怪しいと警告するんだよ。もちろんクサいとかじゃないぞ。この村からも同じ臭いが微かにするんだが、それを凝縮させた臭いがあの祠からするんだ。」
村の異様な雰囲気の元がその祠が原因かもしれないと、タウロも感じるのだった。