第565話 自律思考人形
タウロが森の中で新たな戦力である人形、十四体目を完成させた頃、竜人族の村へお使いに行っていたラグーネが『次元回廊』で戻ってきた。
「あ、お帰りラグーネ。あれは入手できた?」
タウロがラグーネに希望の品が手に入ったか確認した。
「ああ。タウロが欲しがっていると言ったら、倉庫の奥から在庫をみんな出してくれたよ」
ラグーネはそう答えるとマジック収納からダンジョン産の物質で出来た、何の目的かわからない塊を積み上げて出して見せた。
「意外に量集まったね!」
タウロが嬉しそうに応じる。
「私のマジック収納の空きスペースではこのくらいの量が限界だったが、足りるか?」
ラグーネが積み上げたの物質の山に手を置いてタウロに確認した。
「うん、大丈夫。これなら、残りの核三個を使って人型三体は簡単に作れそう。余った分は他の人形の補強用でいけそうかな。ラグーネ、ありがとうね」
タウロは早速、塊の一部を人一人分の量を別に積み上げる。
「人型ってその量だと、私達と同じくらいの大きさのを作るの?」
エアリスが興味を持ったのか聞いてきた。
「うん。大きすぎると目立つでしょ? 僕らと同じくらいなら偵察にも使えるし、ダンジョン産の物質なら岩人形以上の強度で、そう簡単に壊れないものが作れると思うんだよね。それに、今まではぺらに僕も守ってもらっていたけど、『守護岩人形』の衝撃波のように防御魔法を貫く強力な攻撃はいくら丈夫なぺらでもダメージを受けそうだと思ったから、代わりの盾になりそうな人形を作れればいいかなと」
タウロは仲間達の防御魔法を突き破る程の攻撃である衝撃波の威力を身を以て知ったからこそ、製作を思いついたようだ。
ぺらは擬態を解き、タウロの肩に乗ると頬ずりする。
「……そうね。いくら物質、魔法両方に強力な耐性を持つぺらとはいえ、強力な攻撃に対して絶対ダメージを受けないという保証はないものね」
エアリスもタウロに理解を示すとぺらを撫でた。
「確かにな。あのオログ=ハイをなぎ倒していた衝撃波はとんでもない威力だった。あんなのを直撃で受けたら、どうなるかわからないよな」
アンクも地下神殿での戦闘を思い出してぞっとする。
「それじゃあ、早速、この塊を人型に形成しようと思うのだけど……。何か希望はある?」
「「「「希望?」」」」
エアリス達はタウロの意図が分からず聞き返す。
「例えば、男性型、女性型、子供型、亜人型、などなど……。みんなの親しみやすい形に作る事も出来るけど?」
「ああ、そういう事か! ──やっぱり用途を考えると子供型にして見つかりにくくするのがいいんじゃないか?」
アンクがタウロの説明から偵察という言葉があったので、そう提案した。
「だが、それだと脆くならないか?」
ラグーネが疑問を口にした。
「偵察には良くても、戦闘には使えなくなりそうな気もしますね」
シオンも多少の大きさと重さが戦闘では大事になる事を、小さい本人は身を以て知っていたから、そう指摘した。
「でも、ダンジョン産の丈夫な謎物質でしょ、大丈夫じゃない?──一体は偵察用特化にして子供型に。残りの二体は戦闘も兼ねて汎用性の高そうな大人の男女型にすれば?」
エアリスがみんなの意見の間を取る提案をした。
「それいいね! ──それじゃあ、エアリスの案で作ってみよう!」
タウロはエアリスの意見に賛同すると、壊れた守護岩人形をマジック収納から一体出し、それとダンジョン産の物質を創造魔法で子供型に生成する。
辺りが一瞬創造魔法の光に照らされ、輝くがすぐに、その光も収まった。
そして、そこに守護岩人形が無くなっており、謎物質の塊が変化して、男の子供を模った大きさの人形が横たわっている。
その容姿は顔に目と鼻はあるが全体的にのっぺりしているし、髪もないからマネキンのようだ。
そして、その胸には『守護岩人形』が両肩に備えていた衝撃波を放つ機構が施されている。
「……ふぅ。第一段階は成功……っと」
タウロは魔力がごっそり持っていかれたのか、疲労困憊の様子で額に書いた汗を拭う素振りを見せた。
そして、魔力回復ポーションを飲み干す。
「なんだ、完成じゃないのか?」
アンクが当然の疑問を口にした。
「一度で完成させる事が出来る程、僕の魔力は膨大ではないし、創造魔法も万能ではないからね。エアリスが思いついた段階を踏んで完成させる方法を使っているよ」
タウロは笑みを浮かべると、今度は、マジック収納から『核』を取り出した。
「それって、壊れた二体の『守護岩人形』の『核』から作った特別製のものよね?」
エアリスが一目見て気づいて指摘する。
「うん。とっておきだからね。こっちに使おうと思っていたんだ」
タウロは答えると、子供型の人形の腹部に左手を添え、右手に『核』を持った状態でまた、創造魔法を使用する。
また、光が一体を包みこみ、すぐに消えた。
タウロの右手から『核』は消えている。
「……それでは」
タウロが短くそう言うと、立ち上がる。
すると子供型の人形もすくっと立ち上がった。
「成功みたいだね。……視界も共有できているし、うん? こ、これは……? 驚いたな……。この人形、かなり複雑な思考が出来るみたい……。自立思考人形ってやつ?」
タウロは能力の『真眼』で鑑定した結果に、軽く目を見開くと驚く。
そんな子供型人形はエアリス達にお辞儀するとタウロ個人に跪いた。
どうやら、忠誠を誓ってくれるようだ。
「おいおい、マジかリーダー……。創造魔法で『核』を作り直す時、何を想像したんだよ?」
アンクが呆れてタウロに聞く。
「うーん……。そういえば、あの時、アニメで見た自律思考型ロボットのイメージを思い浮かべたかもしれない……。けど、それがしっかり形になるとは……」
タウロは前世の記憶からイメージして『核』を作ってしまったようだ。
「アニメ?自律思考型……何だって?」
アンクはタウロの言葉を全ては理解出来ず聞き返す。
それはみんなも同じで頭の上に疑問符が浮かんで見えそうな表情だ。
「……あはは。とにかく、成功みたいだから残りの二体も作るね」
タウロは言葉を濁すと、男女の大人型も魔力回復ポーションを飲みながら作ってしまうのであった。
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