第563話 人形作成の実験
スウェンの街の冒険者ギルドに『青の雷獣』が古代遺跡とその証拠となる財宝の数々を提出した事で、街はこの世紀の大発見に大騒ぎになった。
冒険者ギルドは支部長が中央に報告する為に使者を出したり、地元の歴史研究家や有名な学者を招集して『青の雷獣』が持ち帰った貴重な資料と言うべき、財宝の数々の鑑定がすぐに始まった。
スキルの鑑定はもちろんの事、それではわからない古代遺跡の背景についても知る為に、直接その場所に学者達が向かう必要がある。
その為に、冒険者ギルドを中心に大規模な調査団が結成されそうな勢いであった。
そんな騒ぎを脇目に、タウロは今回のクエストで入手した今は動かない『守護岩人形』の一体とその内部から取り出した魔石、そして、報酬として貰った魔道具を街の郊外の人目の付かない森の中でマジック収納から出して研究をはじめていた。
そこにはいつもの通りエアリスが傍にいたが、この日は、ラグーネも同行していた。
「私は何をすればいいのだ?」
ラグーネは核を取り出して動かなくなった『守護岩人形』の傍に立つと不思議そうにタウロに用件を聞く。
「ラグーネには竜人族の村に行って、ダンジョンの宝箱で入手される使用目的のわからないハズレアイテムを出来るだけ多く買ってきて欲しいんだ」
「ハズレアイテムというと、タウロの籠手と脛当てに使用されている謎物質の塊の事か?」
タウロの籠手と脛当ては、元々ダンジョンで入手された謎物質が丈夫な事から、竜人族の村で鍛冶屋を営むランガスが防具に仕立てた代物である。
だが、都合よく形を変えられる代物でもないので使い勝手が悪く基本的にはガラクタ扱いされる事が多い。
「うん。それを出来るだけ買ってきて欲しいかな」
「それならお安い御用だが、何に使うのだ?」
「今は出来るかわからないから、秘密という事で」
「秘密か。……了解した。それでは行ってくる」
ラグーネはタウロからの謎のお使いを引き受けると『次元回廊』で故郷に戻っていくのであった。
「……それじゃあ、こっちも始めようか」
タウロはそう言うと目の前に広げて置いていた『守護岩人形』の核である魔石のような石の数々を手に取ってその仕組みを調べ始めた。
『真眼』で鑑定してみたところ、それが『守護岩人形』の核である事は確かである。
そして、それは『守護岩人形』の頭脳部分であり、動力部分でもあるようだ。
だからこれを『守護岩人形』の腹部に戻せばまた稼働するが、今のままだと古代遺跡を守護する為に動く設定なのでそのまま戻すわけにはいかない。
そういう理由から、まずはこの石の構造を理解し、その上で『創造魔法』で上書きしてタウロ専用の人形にしようと考えていた。
なにしろ生物ではなく人形だから持ち運びはマジック収納で出来る。
タウロはそれをエアリスに説明した。
「驚いた……! あんな危険なものを使えるようにしようと思うなんてタウロくらいじゃない?」
エアリスは散々手こずらされた『守護岩人形』だったから、呆れるのも仕方がなかった。
「……そうでもないよ。僕の読みが正しければ、地下古代遺跡で遭遇したオログ=ハイの集団を指揮していた相手も同じ事を考えていたんじゃないかなと思っているからね」
タウロは真剣な表情でエアリスに応じた。
「タウロが言っていた謎の魔物使い集団ね……。それが事実だとしたら、その相手って──」
エアリスが敵となりそうな名前を告げようとするとそれをタウロが止めた。
何者かの気配を感じたのだ。
「……このシルエット、……なんだ、アンクとシオンか」
タウロは『真眼』で近づく二つのシルエットを確認して安堵した。
どうやら、二人も暇だったのかタウロのいつもの実験を見学に来たようだ。
「おう、二人共やってるか? って、あら? ラグーネはどうしたんだ?」
アンクが茂みをかき分けてタウロとエアリスを発見すると声を掛けた。
「アンクさん、ラグーネさんはきっと二人の時間を邪魔しちゃ駄目だと思って席を外したんですよ」
とシオンがお邪魔した事を申し訳ないとばかりにアンクの袖を引いて諫めた。
「はははっ、そうじゃないよ。ラグーネにはお使いを頼んだだけだから」
タウロは仲間に気を遣わせている事がわかってそれを訂正した。
「そうよ。みんな私達二人に対して気を遣わないで。タウロも私もいつも通りの対応でいいんだから」
エアリスもアンク達が気を遣う事を嫌がった。
「それならいいんだが……。それにしてもこんなでかい岩人形をどうするんだ?」
アンクはエアリス達と同じ質問をしたので、タウロは再度二人に同じ説明をする。
「……マジかよ、リーダー。──これが戦力になると心強いが本当に大丈夫か?」
アンクがみんなを代表して当然の確認をする。
「大丈夫だと思う。その為に構造を調べている最中だから」
タウロはそう応じると、遺跡で討伐した『守護岩人形』二体をマジック収納から新たに出して創造魔法で、壊した核の部分を体内から取り出す。
それらはタウロが矢で射抜いたから砕けていたが、そのお陰で内部構造までよくわかる。
「……これなら、仕組みがよくわかるよ! まさか、石の内部にも魔法陣が立体的に組み込まれているなんてすごい技術だ。こんな事今の技術では多分不可能だよ」
タウロはそう言うと、その不可能な技術である砕けた石を手の平に乗せて二体分を早速、一つにするべく創造魔法を唱える。
周囲に光が漏れ、エアリス達はその眩しさに目を細めたがそれも一瞬であった。
「これで欠けた分を補いつつ、僕を主人と認識して命令に従う魔法陣を組んだ『核』が出来たはず……。あとはこれと同じ事を回収した残り十六体分の『核』もやっていくよ」
タウロはそうつぶやくとマジック収納から核を一つ取り出し、また、創造魔法で上書きをしようとした。
すると今度は、創造魔法が反応しない。
「あれ? ……魔力は足りているはずだけど。……考えられる事と言ったら、何かが足りないという事か……。さっきのは壊れているとはいえ二個分使ったのが良かったのかな?」
タウロは首を傾げる。
そして、何を思ったのかタウロはマジック収納から今度は竜人族の村で入手した高価な魔石をいくつか取り出す。
「それをどうするの?」
エアリスがタウロの行動に疑問を口にする。
「足りない部分を魔石で補えないかなって」
タウロはそう言うと、『核』と高価な魔石を手にするとまた、『創造魔法』を唱える。
すると今度は成功なのか、まばゆい光がタウロの手から漏れて一帯を照らすのであった。




