第560話 調査開始
今回のクエストリーダーである『青の雷獣』を中心に地下古代遺跡の調査は翌日から行われた。
この遺跡の調査は、守護岩人形が守っていた大きな建物から始められたのだが、その時点で現在の文明よりも進んでいたと思われる物が多数発見された。
しかし、それは長い年月が経って風化してボロボロか、全て人為的に破壊された跡があり、復元は不可能と思えるものばかりだった。
「この遺跡は研究者にとってとても貴重な文化遺産だが、お金になりそうなものはほとんどないな。一つわかる事は、魔法文化がかなり進んでいた事。そして、ある時、この地から突然住人達が去ってしまった事かな。あとはやはり、守護岩人形が動いていた事が最大の驚きだったわけだが、これについては、全員、口外厳禁だ。悪用された時の事を考えると、とてもじゃないがその後の責任を取る自信がない」
『青の雷獣』のリーダー・ジャックが中心の建物内を各自で探索しながら、一緒に回っていたタウロ達に再度念を押すようにそう漏らすと続けて話す。
「この遺跡の文字も古代文字なのはわかるが、読めるようになるには研究が必要だな。あまりに古い文字のようだから専門の研究者も読めないかもしれない」
ジャックは建物の中心となる守護岩人形達が鎮座していた大広間の墓所に戻ると、一番大きな墓石に彫られている消えかけた文字も読めない事に溜息を吐いた。
「……『ここに王朝最後の王、ギフ永眠する』と書いてますね。──そうなると最後の王が亡くなった後、ジャックさんの推測通り、この遺跡は放棄されたと考えられるかもしれないです」
タウロはしれっと墓石に刻まれた風化で消えかけている文字を読んで素直な感想を漏らした。
「なっ!? タウロ君!君、読めるのか!?」
ジャックは一応、こういった遺跡を探しだす事に力を注いでいる冒険者であり、古い遺跡の調査や研究もしているから、多少の昔の文字なども読める。
しかし、この遺跡は古すぎて文字自体初めて見るものだったから、ジャックは全く読めない。
それをタウロがあっさり読んだのだから、驚かないわけがなかった。
「あ……!(これって、こちらに転生して記憶が戻った時に、こちらの文字の読み書きが急に出来るようになった事に関係しているよね? ……読めるのは古代文字もだったのかぁ……)──なぜでしょうね? 何となく読めました。あははは……」
タウロはどうやら、自分がこの世界の文字の読み書きどころか古代文字までも読めるようになっていたらしい事にここで初めて気づくのであった。
「どこで学んだのか知らないが、君はつくづくとんでもないな……。他の文字も読んで欲しいが、他のはほとんど風化して読むどころではないな……」
ジャックはタウロの才能に驚くのであったが、それよりも目の前の遺跡の調査を優先していたから、余計な追及はしないのであった。
「……タウロ、まだ、秘密にしている事あるの?」
エアリスはタウロの意外な才能に呆れて聞く。
「いや、僕もこんな才能があるとは思ってなかったから、びっくりしているんだよ……」
タウロはエアリスに隠し事は無い事を示す為に両手を上げて首を振った。
「リーダーだから仕方ないって」
アンクが間に入るようにエアリスの肩に手を置いてタウロを珍獣のような言い方で宥める。
「そうだぞ、エアリス。タウロは元々変なんだ。そもそも文字化けスキルを持っている時点で貴重だし、それを開眼している事が前代未聞。そういう意味では、スキルのせいと言えばすぐに解決しそうだが……」
ラグーネもエアリスに納得できそうな説明をして見せた。
「……そうね。タウロだものね!」
エアリスはスキルではなくタウロという時点で妙に納得する。
「納得するのそこ!? 文字化けスキルだからとかじゃなく!?」
タウロは心外とばかりにエアリスにツッコミを入れた。
「落ち着いてください。ボク達はみんなタウロ様ならなんでもあり得ると、最初からそう思っていますよ!」
シオンがフォローになっていないフォローを純粋な気持ちでしてきた。
「……。もう、いいよ。とにかくこの墓石はこの遺跡の最後の王のものって事くらいしかわからないから」
タウロが大事な事を言う。
「……そうだな。罠が無いかチェックしてちょっと中を見てみるか。他に何かわかるような情報があるかもしれない」
ジャックは大きな墓石の周囲を回って罠を調べ始める。
ジャックは元々、爪剣使いと同時に、盗賊スキルの上位スキルである『野伏』も持っているから、罠を見抜く能力にもとても優れている。
同じく『銀の双魔士』の野伏兼薬師のブーダーも協力して墓石の周囲を調べ始めた。
タウロも独自にこの墓石を調べる事にした。
『真眼』で隅々まで確認する。
しかし、その『真眼』でも中が確認できない。
つまりそれは、何かの防御魔法が掛かっているという事だろうか? タウロには『アンチ阻害』能力がある事を考えると阻害魔法とはまた違う何かなのは確かだ。
墓石の蓋部分はそれこそ、巨大で全員で動かす事が出来るのか? という大きさである。
「……怪しいところはないな。これだけ未知の技術を持っていたと思われる文明の墓が盗掘防止の魔法も掛けていないのか?」
ジャックはブーダーと目を合わせて大丈夫そうだと確認し合った。
「あ、ジャックさん。この墓石。内部に魔法が掛けられていると思います。外からだと分からない仕組みなのかなと」
「内部に? 君にはそれがわかるのか? ──ふむ……。確かにそういう仕組みの前例もあるな……。すぐに開けるのは危険か」
ジャックが残念そうな表情をした。
「いえ、僕のマジック収納でこの墓所を全て回収するという手もあると思います」
タウロはとんでもない提案をする。
「本気か!? ……いや、確かに守護岩人形を丸々回収できる容量のマジック収納を持つタウロ君ならできる事なのか……。他の者には真似できないし、思いつかない発想だな……」
ジャックはタウロの案に呆れるよりも感心した。
「それでは、やってみます。『収納』」
タウロはそう言うとマジック収納を発動した。
するとそこにあったとんでもない大きさの墓石が一瞬で消える。
「「「!」」」
その場にいた一同は眼前にあった大きな石の塊が消えた事に唖然とした。
「こ、これで、安全に持ち帰ってじっくり調べる事が出来るな」
ジャックは改めてタウロの想像以上の能力に驚愕しながら現実的な感想を漏らす。
そこへ、
「ジャック、大変だ! 魔物の群れがこちらに向かって来ているぞ!」
と外の警戒と探索をしていた長剣使いのロンガと戦斧使いのアック、爆炎の魔法使いボマーヌが慌てて室内に飛び込んできて危険を知らせるのであった。
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