第559話 人形の扱い
守護岩人形が守っていた大きな建物は、結果的に墓所のようであったが、そこにある技術力、いや、魔法技術と言った方が良いだろうか?
特に守護岩人形を稼働させていたその技術だけでも現在とは比べものにならないものである事は容易に想像が出来た。
「──それにしても残念だな。あんな守護岩人形が守っているようなところだから、きっととんでもないお宝があると思ったんだがな」
『青の雷獣』リーダー・ジャックは守護岩人形の技術には触れずにぼやいた。
「この守護岩人形は魔法技術で動いていたのは凄いが、持って帰れる大きさでもないし放置するのも危険だし困ったな」
同じく『青の雷獣』の回復役でチームの頭脳の森の神官フォレスが、ようやくそこに触れた。
そうオログ=ハイの集団がここを狙った理由もわからないところである。
先程は遭遇戦だったのか、それとも、この守護岩人形の技術を欲したのか? 魔物だからそこまでの頭脳があるとは思いたくないが、可能性としてフォレスの言う事も頭の片隅にはおいておかないといけないところだ。
「あの……。それだったら、壊れた守護岩人形は僕が引き取ってもいいですか?」
ここぞとばかりにタウロが広場と出入り口付近で崩れ落ちている二体を持ち帰る交渉に出た。
最初の一体は発見したのは、一行を率いる『青の雷獣』に権利がある。
止めを刺したのはタウロであるが、そういったものは魔物などに対してであり、このような「物」の場合、所有権は発見者に優先権があるのだ。
二体目も全員で確認したという事もあり、所有権は微妙なところであった。
「タウロ君もマジック収納持ちなのは聞いているが、こんな四メートル級の岩の塊を二体も入れて容量は大丈夫なのかい?」
ジャックが驚いてタウロに聞き返した。
「ええ、まだ、余裕があるみたいなので、貰えるなら頂きたいです」
タウロのマジック収納にはすでに十六体の守護岩人形が納められているから、いまさらな話ではある。
「それなら、広場と出入り口のもの二体と代わりに、君達が中で回収したうちの無傷の一体と交換と言いたいところだが……、俺達のマジック収納でも運べないからどちらにせよ諦めるしかないないんだよな……。──どうだろうか?オログ=ハイの死骸も回収してギルドまで運んでくれるなら、守護岩人形の件は全て君達に権利を譲るよ」
ジャックは交換条件とばかりに、そんな提案をした。
オログ=ハイの死骸とは守護岩人形に倒された数十体の事だ。
この新種の魔物はまだ、研究対象として遺骸にも高い買取報酬が付く事や、『銀の双魔士』の手柄の為も、雇い主としては確保してあげたいところだったから、この提案であった。
「そんな事で良かったらいくらでも回収しておきます。守護岩人形についても動かない物で良ければ、各チーム一体ずつ分運んで、ギルドに戻ったらお渡ししますよ?」
タウロは太っ腹な返答をした。
「それは個人的にはお金になりそうだから嬉しいんだがな……。正直、この守護岩人形の技術が表に出して良いものかとも思えてな……」
ジャックの言う表といのは、ギルドに売り渡した後、それらはオークションに掛けられる事になるのが一般的なのだ。
これを誰に買われるかわからないが、その圧倒的な強さを目の当たりにした今となっては、その技術が個人の誰かに渡り悪用される事が一番危険である。
ジャックはそう考えると、タウロにこう提案した。
「俺達の分の守護岩人形は君に譲っても構わない。その代わり交換条件として誰にもその技術を譲らないと誓ってくれるか?この技術は悪用されたら危険だ。それだけは避けないといけないと思う」
「……わかりました。──実は僕も他人に譲るのは危険だと思ってました。だから、みなさんに譲る分の守護岩人形は、仕組みの一部を取り除いて渡そうかと思ってました」
タウロは苦笑すると密かに行おうとしていた事を隠すことなく話した。
「はははっ! 考える事は同じだったか。タウロ君に全てを託すことになるが……、それにしてもマジック収納の空きは本当に大丈夫か?」
ジャックは守護岩人形一体だけでもかなりの重量のはずだから、それを複数体も入れるとなるとマジック収納内を圧迫するのではないかと心配したのだった。
「今のところ大丈夫みたいです。──それでは交渉成立ですね」
タウロはニッコリと笑顔でジャックと握手する。
森の神官フォレスも二人の交渉に納得して握手を交わす。
「『銀の双魔士』のみなさんは大丈夫でしょうか?」
タウロが離れからこちらを見ているリーダーのジェマ、ジェミスの双子姉妹に気づいて言った。
「あいつらは、雇い主の俺に判断は任せると言っていたから大丈夫だ」
ジャックはニヤリと笑う。
そして、続ける。
「──それに、この古代遺跡はまだ、俺達にとって手付かずのところがほとんどだからな。これから数日探索して色んな発見をするさ」
ジャックの言う通り、当初の目的は守護岩人形を討伐後、遺跡全体の探索である。
それらで得た成果はジャック達『青の雷獣』のものだし、そこから生まれた利益の一部は報酬として『黒金の翼』と『銀の双魔士』にも分配される予定だから、お互い良い思いをするのは確かであった。
「はははっ! そうでした。それではオログ=ハイの遺骸を回収しておきます。その後夕食にしましょう。どうやら、この遺跡の天井の灯りは地上の太陽の動きと同じようなので」
タウロが天井を指差しながらそう答えた。
確かにタウロの指摘の通り、天井の灯りが最初来た時に比べて暗くなりつつあった。
どうやら、夜には暗くなるのかもしれない。
「そういう仕組みか……。──わかった。ならば、そうするか! ──おい、みんな、暗くなる前に夕飯の準備をするぞ」
ジャックは一同に声を掛けると、広場の片隅で休憩を取る仲間の元に戻っていく。
「じゃあ、僕達も夕飯の準備しようか!」
タウロはエアリスにそう言うと、近くで待機していたラグーネ達仲間の元に二人で戻っていくのであった。




