第558話 残された人形
タウロ達『黒金の翼』一行は、守護岩人形が守っていた大きな建物に先行して入る事にした。
出入り口は守護岩人形が出入りできるぐらいだから、その高さは五メートルほどあり、横幅も三メートルはあるだろうか。
一行は罠や三体目の守護岩人形が飛び出して来ないか警戒しながら足を踏み入れる。
守護岩人形は生命体ではないから、タウロの『気配察知』でも、気づく事が出来ないから厄介なのだ。
中に入ると、古代遺跡の天井全体のように発光して地面を照らす技術とは違う、照明と思われるものが何か所かで光って室内を照らしている。
ただ、暗い場所も所々あり、それは故障しているようだ。
そんな広い室内を確認してみると、大きな墓所のようになっており、両方の壁には抉れるようにくぼみがある。
そこには、なんと動いていない守護岩人形が複数収まっていた。
「タウロ!これが全部動き出したらさすがに危険よ!?」
エアリスが傍のタウロの背中に手を当てて警告を発した。
「……よく見て。左側の守護岩人形の頭上の石が点滅しているでしょ?多分あれが次に動き出す為の準備をしている最中なんだと思う。動力となる魔力なり、何かしらのエネルギーを流し込んでね」
「それってマズいだろ、リーダー!」
アンクが、タウロの推論を聞いて慌てる。
「……うん。だからそれを僕が止める」
タウロは次に動き出すと思われる守護岩人形の足元まで走り寄ると、
「足場をお願い!」
とラグーネに土魔法をお願いした。
「わ、わかった!」
ラグーネは魔槍を構えて魔法を唱えると、タウロの立つ地面の土が盛り上がり、守護岩人形の腹部の高さまで、届くようにした。
「『創造魔法』!」
タウロは守護岩人形の腹部に手を当ててそう唱えると、腹部に一瞬穴が開き、そこから小さな魔石のような石が零れ落ちてタウロの手許に転がった。
すると、先程まで守護岩人形の頭上で点滅していた石が、光を失う。
「……止まったのか?」
ラグーネがタウロに聞く。
「いや、多分──」
タウロが答えようとした時だった。
他にも並んでいる守護岩人形の頭上の石が、二か所点滅を始めた。
「……やっぱりか。ちゃんと故障時の対応もされてるよね。──ラグーネ、他の守護岩人形の前にも足場を作ってくれる?」
「わ、わかった!」
ラグーネはタウロがやりたい事がわかったので、急いで上部が点滅している守護岩人形から優先して足場を作り始める。
タウロはすぐにその足場を駆け上がり、先程と同じように、『創造魔法』で守護岩人形の動力源、もしくは稼働の為の頭脳部分?と思われる石を取り出していく。
この作業を広い室内に鎮座する守護岩人形合計十六体で行う。
この頃には何度も魔力切れを起こしかけたタウロは魔力回復ポーションを何度目か飲み干していた。
「……これで、もう、大丈夫のはず……」
最後の守護岩人形の腹部から石を取り出してから、タウロは汗を拭ってそう漏らした。
その時であった。
またもや、脳内に『世界の声』が聞こえてきた。
「特殊スキル【&%$#】の発動条件の一つ<守護者達の核を無傷で取得し者>を確認。[人形操作]を取得しました。……[人形の心臓]の能力の存在を確認。……二つを統合します。……[人形使い]に統合。──新たに[人形使い]を取得しました」
「おお?」
タウロが新たな能力取得に思わず声を上げる中、
「いつ、動き出すんじゃないかと冷や冷やしたぜ」
と、アンクが周囲を警戒したまま、そう漏らす。
「あ、もう大丈夫だと思うよ。──そうだ! みんなが来る前にこの守護岩人形を何体か回収しておこうかな」
タウロは新たな能力『人形使い』が想像通りなら、自分でこの守護岩人形が使えるはずと想像したのだ。
「もう動かないんでしょ? 回収しても意味ないんじゃないの?」
エアリスがもっともな疑問を口にした。
「それがね? 僕なら動かせるかもしれないみたい」
と、曖昧な答え方をタウロはした。
「……まさか、また、何か能力を覚えたの?」
エアリスが冴える勘で指摘した。
「うん。『人形使い』らしいから、多分、操れると思う」
タウロは苦笑して頷くと、合計五体もの守護岩人形をマジック収納に回収した。
「タウロ様のマジック収納はこうしてみると限界が無くてびっくりですよね」
シオンが四メートルもある守護岩人形を次々とポンポン回収していくタウロに、改めてその凄さに感心する。
「回収できるなら、全部回収した方が良くないか? ここに置いておいたら、悪用する輩に渡るかもしれないぞ?」
ラグーネがそう提案した。
「……確かに。出入り口の一体も回収しておいた方がいいかな? 広場の一帯は、第一発見者の『青の雷獣』さんに権利はありそうだけど。こっちにあるのは、無傷だし他人に渡るのは危険な気がするね」
タウロはそう判断すると、合計十六体の無傷の守護岩人形を全て回収する事にするのであった。
タウロ達はその後、大きな建物内の安全を確認する為、見て回る。
その結果、わかった事は、どうやらここは、この遺跡のお墓のようで、守護岩人形はそれを守っていたようだった。
そして、興味深いのは、そこにあった設備の数々なのだが、風化して壊れたというより、破壊された痕跡があった。
「守護岩人形はこの場所を荒らされない為に、稼働していたわけだから、設備の数々が破壊されているという事は……、当時の管理者自身が破壊したという事かな?そうでもないと守護岩人形が侵入者を駆除していただろうし」
「そうね。なぜかはわからないけど、この場所を去った人達が、ここを守護する守護岩人形の設備以外は破壊したと考えるのが理屈に合っているかもしれないわね」
エアリスもタウロの憶測に賛同する。
「これだけの文明を持っていた一族はどこに行ったんだろうな?」
アンクが過去に思いを馳せるようにつぶやく。
「やっぱり滅んだと考える方が、無難だと思いますよ」
意外に現実的なシオンの発言でアンクは苦笑する。
「それより、みんなのところに戻って報告しましょう」
エアリスがそう提案すると、タウロ達は広場にいるジャック達の元に戻るのであった。




