第557話 再度の危機
今回のクエストを指揮する『青の雷獣』のリーダーの提案で、守護岩人形が守護する建物の入り口には、負傷者の治療が終わるまで敢えて近づかない事で意見が一致した。
これは抜け駆けを許さないという意味合いと共に、罠や新たな敵が出現する可能性を考え、万全の体制で臨む為である。
それに今回のクエストの主力であるA-チームの前衛が三人も負傷したとあっては慎重になるのも当然だ。
治療にはエアリスとシオンが重体だったロンガとアックの二人と重傷のジャックをそれぞれ安全な状態になるまで治療し、それを『青の雷獣』の治癒担当である森の神官フォレスと、『銀の双魔士』の治癒担当薬師のブーダーに引き継ぐ形で譲る。
「二人共お疲れ様。三人の容態はもう大丈夫そう?」
タウロがエアリスとシオンの労を労い、確認する。
「アックさんがちょっと内臓までダメージを受けていて重体だったけど、安全なところまで治療しておいたわ。──それにしてもあの守護岩人形、強かったわね。私、とっておきの魔法、使おうかと思ったもの」
エアリスは自分の治癒技術をさほど誇ることなく答えると、奥の手があった事を臭わせた。
「エアリスのとっておきは、他のチームがいると巻き込み事故が起こりそうだから、僕達メンバーがいる時だけでお願いね?」
タウロはそう言って、軽く注意しておく。
「もう!私、そんなミスして巻き込まないわよ、……多分。……でも、気を付ける」
エアリスはタウロの言葉に心外とばかりに反論しかけたが思い留まり、タウロの意見を聞き入れた。
この時、二人の間に甘い空気が一瞬流れるが、それもすぐ収まる。
タウロとエアリスは交際宣言をしてからこっち、チームでいる時は甘い雰囲気を一切出す事がない。
二人で話し合って、みんなの前では仲睦まじさを出さないようにしているようだ。
「……やれやれ、まだ、二人共若いんだ。少しくらいイチャついてもおじさん気にしないぞ?」
そんな二人の雰囲気を察してアンクが茶々を入れる。
「クエストや冒険の間は途中何が起きるかわからない。二人はそれをよくわかっているのだ」
ラグーネがタウロとエアリスの性格を考えてそう指摘する。
「油断大敵ですよ、アンクさん」
シオンが甘い雰囲気を促すアンクを注意する。
「俺は二人の事を考えてだな? ……まぁ、確かにその通りだな」
アンクも状況が状況だから二人に茶々入れるのを止める事にした。
「守護岩人形のような物質体は、『気配察知』にかからないから、かなり慎重にしておいて損はないよ」
タウロが反省するとアンクに言い聞かせるように忠告する。
「そうだな。──まだ、治療も時間が掛かるようだし、周囲を警戒しておくか」
アンクがそう言うと、怪我人の治療にあたる場所から円を描くように、全員が展開し周囲を警戒にあたった。
建物などの陰から現れる可能性もあるから、曲がり角は特に警戒する。
その時であった。
ブゥン!……ズシン、ズシン──。
守護岩人形が守っていたと思われる建物の中から、微かな音が外に漏れ聞こえてきた。
傍には丁度、タウロがいる。
「警戒!──エアリス、ラグーネ、シオン!僕に防御魔法!」
タウロは大きな建物の中から何者かがやって来るのに気づき、その出入り口に急行しながら仲間に支援を頼んだ。
タウロのその言葉に何事かと『青の雷獣』、『銀の双魔士』のメンバーは振り返る。
だが、エアリス達『黒金の翼』のメンバーはそんな反応をする時間も勿体ないとばかりに、すでに詠唱を終えて、タウロに魔法を掛けていた。
アンクはその敏捷性に加え、風魔法で速度を上げてタウロの元に向かう。
建物の大きな出入り口から、先程倒したばかりの守護岩人形と同じものが、ぬっと現れた。
タウロはそれに動ぜず、すでにアルテミスの弓に矢を番えていた。
その矢には先程仕留めた時と同じ、『極光の矢』魔力MAX版と思われる魔力が宿っている。
建物の出入り口から一歩踏み出したところで、目の前に弓矢を持って立ちはだかるタウロを確認して、敵と判断した守護岩人形が殴りかかった。
「──弱点はすでに把握済みだよ」
タウロはそうつぶやくと攻撃を躱す素振りを見せる事無く、矢を放つ。
殴りかかっていた守護岩人形の拳はタウロに掛けられた仲間の魔法によって弾かれるのと、矢が守護岩人形の『核』がある胴体腹部に深々と突き刺さるのが、同時であった。
守護岩人形は機能を停止するが、タウロに襲い掛かった状態だったから、そのままタウロを潰すように倒れ込む。
そこに駆け付けたアンクがタウロの胴を掴んだまま脇に飛んで、その事態を防ぐのであった。
「ふぃー、危なかったぜ」
アンクが抱きかかえて一緒に倒れた状態のタウロの背中をポンと叩き、一言漏らす。
「ありがとう、アンク。僕のこの技は放った後の硬直が弱点だね」
タウロは苦笑しながら立ち上がり、手を差し出してアンクも立たせる。
そんなタウロの脳裏に『世界の声』が聞こえてきた。
「特殊スキル【&%$#】の発動条件の一つ<一矢で古代文明の守護者の核を射抜き者>を確認。[人形の心臓]を取得しました」
びっくりした……。でも、人形の心臓?
急な『世界の声』と、新たな取得能力の意味が分からず、頭に疑問符が浮かぶ。
「大丈夫か、二人共?」
そこに一番近くにいたラグーネが駆け付けてきた。
そこに続いてシオン、エアリスも合流する。
「タウロ大丈夫!? ──ほっ……、無傷ね。でも、守護岩人形が他にもいるなんて……。中にもまだいるのかしら?」
エアリスがタウロの無事を確認して心の底から安堵すると、次の事態を警戒した。
「みなさんの回復を待っていたら、また、現れるかもしれないですね」
シオンが当然の可能性を口にした。
「ジャックさん! 見ての通りなので、警戒の為、中を一足先に確認しても良いですか?」
タウロはそう確認しながら、マジック収納から魔力回復ポーションを取り出して飲み干す。
「わ、わかった! ──こっちは二人が目を覚まし次第全員で向かうから、気を付けてくれ!」
ジャックは弱点を知った後とはいえ、あんなに苦戦した守護岩人形を一瞬で倒したタウロに驚いていたから、思わず申し出を承諾した。
本当なら最初に足を踏み込むのは自分達でありたかっただろうが、実力を示された分、その実力なら守護岩人形が現れる前に中を確認してもらった方が良いという判断でもある。
「──それでは、中を確認してきます!」
タウロはジャックにそう答えると、エアリス達と建物の中に入るのであった。




