第556話 守護岩人形戦決着
負傷したタウロが治療を受けている間、引き続き『青の雷獣』が守護岩人形の標的を取りながら戦っていた。
少しずつ守護岩人形の関節への攻撃は効果を出していて戦闘当初から『青の雷獣』のリーダー・ジャックが繰り返し右膝裏を攻撃していた事が功を奏し、見た目に寄らず早い動きをしていた守護岩人形も右足の動きがぎこちなくなり、攻撃がワンテンポ遅くなり始めた。
そのお陰で味方はギリギリで躱していた攻撃を余裕を持って躱し始めた。
「……よし、いけるぞ!これなら次の衝撃波を出される前に、こちらの大技を叩き込んで畳みかけるチャンスがあるかもしれない!」
ジャックはそう言うと、再度、守護岩人形の右膝裏を攻撃した。
すると、守護岩人形が膝を突く。
守護岩人形は、その状態からジャックを右拳で攻撃するが、それをジャックが難なく交わして標的を取った。
その瞬間が、決定的な好機とばかりに、長剣使いのロンガ、戦斧使いのアックは武器を振りかぶってタメの姿勢に入る。
爆炎の魔法使いボマーヌは仲間が大技に入る姿勢を見せたので、順番を飛ばして標的を取る為に爆炎魔法を唱え、守護岩人形の胴体にぶつける。
一見すると魔法攻撃の効果は薄いようにも見えるが、守護岩人形の表面には無数のひびが入り始めていたから、これも効いてはいるのだ。
そんな中、ジャックが次の攻撃とばかりに、守護岩人形に攻撃を加え、標的を取った次の瞬間、大技の為のタメを作っていた長剣使いのロンガと戦斧使いのアックが守護岩人形に対して大技を放った。
「大回転兜割り!」
「大旋風胴砕き!」
二人はそれぞれ頭部と胴体に回転しながら、必殺技を叩きむ。
その次の瞬間だった。
ジャックを標的にしていた守護岩人形の胴体が突如反転して、ロンガとアックの方に向き直る。
「何!?」
ロンガとアックは標的が二人に変更された事がわかったが必殺技を繰り出した直後である。
その手を止める事無く守護岩人形に叩き込む。
だが、守護岩人形は戦闘の中で経験を積んだかのように、ロンガの大回転兜割りを左腕の太い部分を盾にして防ぎ、アックの大旋風胴砕きに対しては右の拳でカウンターを合わせるように殴り返した。
守護岩人形の左腕には長剣により大きなひびが入ったが、その太い左腕で振り払うようにロンガを建物の壁まで吹き飛ばし、アックは必殺技の勢いに合わせたカウンターを体に食らった事で、血を吐いてこちらも建物の壁に吹き飛ばされた。
「ロンガ、アック!」
ジャックがすぐに危険な状況だと判断して標的を取るべく、守護岩人形に攻撃を再度仕掛ける。
だが、守護岩人形はここが勝負どころと判断したのだろうか?
ジャックの攻撃を左腕を振って牽制するだけに留めると、壁に吹き飛び、失神しているロンガに止めを刺す為のようにそちらに向かっていく。
どうやら、二人の必殺技が自分へ致命的なダメージを与えるものと判断、倒す優先順位を切り替えたようだった。
「まずい!」
ジャックは、守護岩人形の前に回り込むように、移動する。
しかし、守護岩人形はそれを意に介さないように、ロンガに近づいていく。
その時であった。
支援に回っていた『銀の双魔士』の双子ジェマと、ジェミスが緊急事態と判断して攻撃に切り替え、守護岩人形の背中に得意の魔法攻撃を始めた。
だが、守護岩人形はびくともせず、目の前のロンガを庇おうと前に出たジャックを左腕の一振りで吹き飛ばして、ロンガに近づく。
そこでやっと『黒金の翼』が動いた。
アンクが大魔剣を振り被った状態でその赤い髪と黒一色の装備が二筋の光のように守護岩人形の背後に迫る。
すると、守護岩人形はそれを察知したのかまた、胴体を反転させ、アンクに対した。
どうやら、また、優先順位を変更したようだ。
アンクの攻撃がそれだけ危険だと判断したのだろう。
守護岩人形はアンクの高速接近での攻撃に左腕で防御態勢を取る。
アンクはそれに対してお構いなしにその大魔剣を叩き落とした。
その攻撃は先程ロンガが傷つけたところに吸い込まれるようにピンポイントで入る。
それにより、守護岩人形の左腕は斬り砕かれた。
アンクが次の攻撃を繰り出そうとすると、守護岩人形は右の拳で反撃する。
だがその拳はラグーネの『範囲防御』で作り出された光の壁を砕く形になり、アンクにワンテンポ遅れて届いた。
だから、アンクはそれを余裕を持って躱し、敵の壊れた左腕側に回り込む。
その間にシオンは守護岩人形の脇をすり抜けて、ロンガの元に駆け付け、治療に入る。
エアリスも緊急性の高いダメージを受けたアックの元に駆け寄っていた。
守護岩人形はそれらの動きに攻撃対象の優先順位に迷いが生じた瞬間だった。
タウロがアルテミスの弓を構え、その番える矢は冷たく鋭い光を発っしている。
「『極光の矢』魔力最大!」
そのタウロから放たれた矢は、優先順位を変更する一瞬の迷いによる守りの遅れを縫って、胴体腹部に吸い込まれて行く。
矢は人間でいうところの丹田部分を守護岩人形の右腕をすり抜けて、射抜いていた。
矢は深々と刺さっている。
守護岩人形は、バチッと音を立てると、頭部の目の光が急速に失われ、その動きを止めるのであった。
「……やった、……のか?」
ジャックは守護岩人形の動き止まった事に呆然としながら、そう口にする。
「よかった……。一瞬の隙に付け込む、ピンポイントでの勝負だったから、『精密』と新能力『狙撃』、そして、『豪運』など、諸々の能力と装備の力を駆使して勘で『核』部分を射抜けたよ……」
タウロは口元の吐血時の血を拭いながら、安堵して漏らした。
「さすがリーダー!ここぞというところの勝負勘はさすがだぜ!」
アンクが笑って親指を立て、タウロを賛辞する。
「あはは……。そんな事より、今は治療優先だよ」
タウロがそう指摘すると、それまで固まっていた『青の雷獣』の森の神官フォレス、『銀の双魔士』の野伏兼薬師であるブーダーが、ロンガとアック、そしてジャックの治療に加わる為に慌てて走り寄って行くのであった。




