第555話 とっさの判断
侵入者を拒む守護岩人形は、その広場の大きな建物の出入り口を守っているように見えた。
一見すると、建物出入り口のオブジェのようにピタリと止まって立っている。
そこに先陣を切って広場に躍り出る『青の雷獣』と、それを援護する為に後方から続くタウロ達『黒金の翼』、双子が主軸の『銀の双魔士』が早速、各身体強化、防御魔法などを唱える。
守護岩人形は、新たな侵入者に即座に反応し、動き出した。
『青の雷獣』の先陣を切ってリーダーのジャックが魔法で強化された爪剣を構えて守護岩人形の懐に飛び込み、弱そうな関節部分である膝裏に攻撃を加えて、一撃離脱する。
守護岩人形はそのジャックの早い動きにも対応するように屈んでその硬い拳を繰り出した。
「!」
あまりに速い攻撃だったがそれをジャックは紙一重で躱して後ずさる。
そこに入れ替わるように、長剣使いのロンガ、戦斧使いのアックがそれぞれ守護岩人形の右肩の関節部分、左肩関節部分に攻撃を加えた。
守護岩人形はその攻撃によって、標的を二人に変更する。
どうやら、観察していた通り、最後に攻撃して来た相手に標的が移動するようだ。
ロンガとアックもジャックと同じように一撃離脱で一旦距離を取った。
守護岩人形はそこに追いかけるように拳を左右連続で振り下ろす。
二人はその攻撃を間一髪転げながら躱した。
そこに今度は、『青の雷獣』の火力担当、爆炎の魔法使いボマーヌが爆炎魔法を唱え、守護岩人形の頭部にぶつけた。
頭部は派手な爆音と共に爆発する。
「やったか!?」
そこにリーダーのジャックが念の為、ボマーヌに移行するだろう標的を自分に向ける為、守護岩人形の膝裏に再度、斬り込みながら確認した。
派手に上がった土煙が晴れると守護岩人形は何事もなかったように、最後に攻撃を加えてきたジャックにまた、攻撃を繰り出す。
「ちっ! ほとんど無傷かよ!」
ジャックは舌打ちして攻撃を躱すと、標的を取ったまま、守護岩人形の背後に回るように動く。
それにより、ジャックと他のメンバーが挟み撃ちにするような態勢だ。
この戦い方なら有利に戦えるかもしれない。
そこにまた、ロンガとアックが、守護岩人形の背後から、部位破壊を狙って、先程と同じ両肩関節部分を攻撃する。
守護岩人形は背後からの攻撃に即座に反応した。
それは上半身だけぐるっと百八十度回り、そのままロンガとアックに攻撃をしてきたのだ。
「「そんなのオログ=ハイとの戦闘では、やってなかっただろ!」」
ロンガと、アックは不意打ちのような動きの攻撃に体勢を崩しながら、横っ飛びして攻撃を躱す。
そこに、二人の危険を察してボマーヌが爆炎魔法で標的を取る為に、攻撃を加える。
そんな周期的に全員で標的を代わる代わる取りながら、攻撃を加えるというやり方で三十分程続いていた。
タウロ達はその間、支援に徹し、時には同じく仲間の支援に徹している『青の雷獣』の頭脳、森の神官フォレスに魔力回復ポーションを渡すなど、魔法と物理で援護していた。
それはチーム『銀の双魔士』も一緒で、持久戦になりそうなこの展開に代わる代わる魔法で支援する。
役割がはっきりしてきたところで気になるのが、守護岩人形の必殺技と思われる衝撃波だ。
標的は『青の雷獣』が取るから、自ずと衝撃波に晒されるのも『青の雷獣』になるだろう。
その時、どう動くかだ。
ラグーネは自慢の『鏡面魔亀製長方盾』による『魔法反射』、『範囲防御』などがあるが、さらに『竜の穴』の修行でそれらは強化されている。
だから防御面に関して絶対的な自信があった。
だが、衝撃波にどれほど効果があるのかは、試してみないとわからないところであったから、一発目の衝撃波は自分が標的を取って防いでみたいところだと、ラグーネは考えていた。
タウロも衝撃波を一番警戒していた。
ここまでの戦闘から、守護岩人形は魔法耐性、物理耐性どちらにも優れているようだ。
耐久力自体もあの大きさだから相当優れているだろうし、地道に同じ部分を攻撃して少しずつダメージを蓄積するしかなさそうである。
だが、そうなるとやはり、衝撃波は必ず一度は食らいそうだから、ラグーネはもちろんの事、エアリスの結界魔法、シオンの魔法防御に優れた障壁魔法に頼るしかない。
もし、それで防ぎれなかった場合、その時に標的を取っていた者と周囲にいる者が被害を被る事になる。
それを考えると『青の雷獣』の提案通りでは危険かもしれない。
『青の雷獣』提案では、全ての防御魔法を集中させてそこに全員が集まり、衝撃波をやり過ごすというのが対策であるから、防げない場合は全滅の危機だ。
この戦闘を見ていると、タウロは長期戦を考えてそのリスクは負うべきではないと考えた。
そこに、ジャックの声がした。
「アレが来るぞ!準備!」
衝撃波が来るという合図だ。
タウロはとっさに、
「エアリス、シオン、ラグーネ僕に防御魔法!ぺらはエアリスの元に」
と声を掛けると、一人だけ『瞬間移動』でみんなから離れて、弓を構え、即座に放つ。
タウロの各装備に付与された腕力上昇系能力によって放たれた剛弓の一矢である。
矢は綺麗に守護岩人形の頭に突き刺さった。
それにより、標的がタウロに移動する。
次の瞬間、タウロに向かって衝撃波が放たれた。
それはエアリス達の魔法が、タウロ個人に掛けられた直後であった。
守護岩人形の衝撃波は、空気を震わせる音と共にタウロに襲い掛かる。
次の瞬間、タウロの掛けられていたエアリス自慢の防御に優れた結界魔法が衝撃波によって、弾け飛ぶ。
それは立て続けにシオンの障壁魔法、ラグーネの防御魔法能力も同じように突き破るように破壊した。
タウロが一番恐れていた事がこれだった。
守護岩人形の必殺の衝撃波は、防御系魔法を破壊する攻防一体の可能性があるのではないかと頭を過ぎったのだ。
だから、念の為、ぺらも離れさせた。
タウロはその衝撃波をまともに食らう寸前、また、『瞬間移動』でエアリスの元に移動して、その直撃を避けたのだった。
しかし、完全には避ける事が出来なかったのか、タウロは目や耳、鼻、口などから血が噴き出す。
「タウロ!」
「タウロ様!」
驚いたエアリスとシオンが即座に治療魔法を唱える。
「馬鹿野郎、無茶しやがって!」
ジャックはタウロのダメージを脇目にそう言うと、タウロが追撃される前に守護岩人形を攻撃して改めて自分に標的を取った。
「……大丈夫。僕には『超回復再生』能力があるから、即死でもない限り簡単には死なないよ……」
タウロは「ごふっ!」と吐血しながら、エアリス達の治療を受ける。
「……だが、リーダーのとっさの判断であの衝撃波が見た目以上にヤバい事がわかった。持久戦はこっちに不利だ。リーダーが回復したら、俺達も参戦しよう」
アンクがタウロの傍で跪いてそう声を掛ける。
エアリス達はその言葉に頷き、急ぎタウロの治療を続けるのであった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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イラストレーターは「えんとつ街のプペル」でメインイラストレーターを務めていた六七質先生です!
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