第554話 両者の潰し合い
守護岩人形とオログ=ハイの戦いは、壮絶なものになっていた。
オログ=ハイの集団はその半数が殺られても退く素振りを見せず、その蛮勇を示して守護岩人形に襲い掛かっている。
オログ=ハイは守護岩人形を砕く為に、その得物をどこから入手したのか戦斧や、戦槌を持ち込んで対抗しており、完全に無策というわけでもなさそうだ。
その対応力を見て、タウロ達はただの魔物であるはずのオログ=ハイの知能の高さに背筋に寒いものを感じた。
『青の雷獣』の面々は一度戦闘でオログ=ハイの強さを確認している。
そこに、連携する動きも感じていた。
さらには相手によって武器を持ち変えるという知能があるという事は、冒険者相手への対策もすぐに行う可能性を示唆している。
そうなれば冒険者の被害は大きくなる可能性が高いし、村や街を襲われる可能性もあるから、討伐対象として優先する冒険者ギルドの考えが改めてわかる気がした。
タウロ達はオログ=ハイはもちろんだが、そんな強力な魔物を相手に圧倒的な強さを示す守護岩人形の動きを観察していた。
「どう思う、みんな」
タウロが守護岩人形対策について仲間に意見を求める。
「オログ=ハイが魔法で攻撃して効くかどうか確認してくれると助かるのだけど……。でも、この遺跡の守護者だし、あんな大きさの岩の塊、通常の魔法はあまりダメージを受けなさそう」
エアリスが冷静な回答をした。
「そうだな。あれだけの大きさだ、《《普通》》の魔法なら効かないな。それにあの岩人形の肩の部分、何か仕込みがありそうじゃないか?」
アンクが指摘した岩人形の肩の前面部分にくぼみがあったからだ。
「何でしょうね、あのくぼみ。デザインでしょうか?」
シオンが観察しながら、首を傾げる。
「オログ=ハイの殺られた半数のうち、破裂したように吹き飛んでいる遺骸が結構あるんだよね。あれって、岩人形に力で潰されたというより、強力な攻撃で四散したようにも見えない?」
タウロが、遠目にオログ=ハイの遺骸を観察して指摘した。
「……確かに。──私達が駆け付ける前に、何かが起きた可能性があるわけだな」
ラグーネが遺骸に注目したタウロに感心してその分析に理解を示した。
「あ!オログ=ハイが急に逃げるように散らばりだしたわ!」
エアリスが岩人形とオログ=ハイの戦闘に変化があった事に気づいて、みんなに声を掛ける。
丁度、岩人形が何か構えるような姿勢を取っていた。
オログ=ハイはそれに対して、恐れるように隊列を乱してバラバラに散っている。
「急にどうしたんだ?」
アンクが、先程までのオログ=ハイの集団戦に慣れた動きとその死を恐れぬ蛮勇からは想像できない動きに疑問の視線を送る。
その次の瞬間であった。
グァン!
という衝撃音と共に、散らばったオログ=ハイの数体が何か巻き込まれるように吹き飛んだ。
「なっ!?」
静かに戦闘を見守っていた『青の雷獣』のリーダー・ジャックが驚きに思わず声を上げる。
全員がこの光景を隠れて見ていたが、明らかに岩人形の肩の辺りから発せられた衝撃波による攻撃なのは間違いがなさそうであった。
さらに驚くのは、オログ=ハイがその衝撃波を警戒して散らばり、被害を最小限にした事だ。
タウロ達が駆け付ける前に、一度食らったのだろうが、すぐに対策を考え、散らばって見せた事にも驚かされた。
「こいつはとんでもないな……」
アンクがどちらに対してか感想を漏らす。
「どっちも凄いのは確かだね」
タウロがアンクに応じるようにつぶやく。
「今の攻撃でオログ=ハイの数が、十五体を切ったわ」
エアリスが数を数えてタウロに報告する。
エアリスの指摘のタイミングに合わせて、オログ=ハイは撤退を始めた。
岩人形はそれを追撃し、さらに五体のオログ=ハイを殴ったり、踏み潰しては仕留めていく。
「大きい分、トロいと思いきや追いかける足も速いな……」
アンクが岩人形のスペックの高さに呆れた。
「撤退する時も気を付けないといけないって事だね」
タウロは岩人形の対策を頭の中で練っているが、現状では今のオログ=ハイ戦での立ち回りを見る限り、やはり、岩人形の弱点である『核』を破壊する事が重要である事、あとは、衝撃波攻撃が連発出来るものではなく、溜めてから発するものである可能性がある為、次弾を放つまでの時間的猶予がありそうな事、そしてその動きは機械的でパターンがある事などいくつかわかった。
オログ=ハイの戦い方についても、人と変わらないくらい集団戦を心得ている事も理解した。
というより、自分達が遭遇戦をした時より、学習している気がした。
そのオログ=ハイ達はあの守護岩人形に対し、表面を削ろうと頭部や胴体を攻撃していた。
きっとオログ=ハイも『核』の存在を理解し、それを砕こうとしていたのだろう事が見て取れる。
「みんな、オログ=ハイを追撃していた守護岩人形が戻ってきた。今度は俺達が戦うぞ。基本は、時間の猶予がわからない次の衝撃波を、使われる前に仕留める事だ。その衝撃波対策は防御系の障壁魔法で対応できると睨んでいるが、どうだろう?」
「衝撃波がある時は、支援組である僕達の傍に退避してください。うちのエアリスが結界魔法、シオンが障壁魔法で対策します」
タウロがジャックの提案に応じて答えた。
「私達も障壁魔法を使えるわ」
『銀の双魔士』の双子のリーダージェマが負けじと言い募る。
妹のジェミスも応じるように頷く。
「……わかった。その時は頼む。オログ=ハイは被害を最小限にする為に散っていたが、俺達は魔法圏内に固まってやり過ごす戦法で行く。──時間が惜しい。行くぞ!」
『青の雷獣』のリーダー・ジャックが戻ってきた守護岩人形を確認すると、全員に声を掛け、戦闘域である広場に飛び出していくのであった。




