547話 若手チームの実力
スウェンの街から旅立ち、初日は魔物に遭遇する事無く時間は過ぎた。
それは整備された街道を進んでいたから当然であったが、それから数日間は何事もなく、六日目には山道に入りアンタス山脈の奥地を目指して分け入った。
手強い魔物が多いアンタス山脈地帯である。
早速、オーガ五体の集団と遭遇した。
オーガは鬼の容姿をした物理攻撃耐性持ちで、剣だけで戦おうしたら、Bランク帯レベルの強さを誇る魔物だ。
タウロはその手強さをよく知っているが、それはA-ランクチーム『青の雷獣』、B-ランクチーム『銀の双魔士』も一緒だ。
最初、挨拶代わりにタウロ達が対応しようかと思ったが、『銀の双魔士』のリーダージェマとジェミスの双子姉妹が、
「「邪魔は不要!」」
という声と共に詠唱に入った。
そう言われるとタウロ達も手出し出来ない。
ジェマとジェミスは片手剣で盾持ちのジミンと野伏で薬師を兼任するブーダーを前衛にしてオーガとの距離を取り、まず、火焔の魔法使いと呼ばれる妹ジェミスがオーガの集団に向けて大きな火球の範囲魔法を落とす。
オーガはその威力に高熱にその身を焼かれる。
そこへ追い打ちとばかりに水流の魔法使いの異名を持つ姉のジェマが無数の水の槍でオーガを串刺しにした。
無数の水の槍は高熱に焼かれるオーガに無数に突き刺さり、止めを刺していく。
五体ものオーガは、あっという間にこの双子の魔法によって、無残な姿になるのであった。
「おお……!過剰攻撃な気はするけど、あのオーガが一瞬だね」
タウロは双子のコンビネーションに感心した。
「これが『銀の双魔士』の真骨頂よ!」
双子の姉ジェマが自慢げに言う。
きっとこれを見せたくて、過剰攻撃による討伐をしたのだろう。
普段行っている大物討伐での勝ちパターンを見せたと思われた。
「スウェンの冒険者ギルド期待の若手チームなのはよくわかったけど、あのやり方だとこの先、もたないんじゃない?」
エアリスが当然とも思える指摘をした。
威力の高い魔法はそれなりの魔力を使う。
いくら才能あふれる双子の魔法使いといえど、魔力が切れたらただの役立たずである。
強力な魔物が多いアンタス山脈地帯で魔力の管理は大事な事だ。
「ふふふ。うちには優秀な薬師がいるのよ!」
姉のジェマはエアリスから当然の指摘をされる事はわかっていたとばかりに、傍に居る野伏兼薬師のブーダーに手を差し出す。
すると、ブーダーが腰の荷物入れから二人に魔力回復ポーションを手渡した。
「どう?うちのブーダーはとても貴重な魔力回復ポーションを作れる能力持ちなのよ。これがあるあから私達姉妹に弱点はないの。凄いでしょ!」
ジェマはそう言うと、その魔力回復ポーションを飲み干す。
「その魔力回復ポーションの色は、見たところまだ未完成品のようだね。でも、懐かしいなぁ。僕もダンサスの村で作っていた当初は、同じ未完成品しか作れなかったんだけど、あると便利なんだよなぁ」
タウロは『黒金の翼』結成時の場所であるダンサスの村を思い出して、一人遠い目になっていた。
「確かにあの頃は、今と比べるとタウロの魔力回復ポーションはまだまだだったわね」
エアリスも同じように遠い目になる。
「み、未完成品!?」
姉のジェマはタウロの指摘に薬師のブーダーに視線を送って確認する。
ブーダーは驚いて、ジェマに首を振る。
彼にとって魔力回復ポーションは『銀の双魔士』入団テスト合格の決めてであり、ブーダー自身、自信を持っている品であったから、未完成品のつもりはなかったのだ。
「馬鹿を言うな! 魔力回復ポーションを作れる薬師なんてそうはいないのだぞ? それを未完成品などと!」
ブーダーは自分の誇れるものを否定された事に憤慨した。
「あ、すみません。実は僕も魔力回復ポーション作れるんです。ちなみにこれが、あなたの作成したもののランクが上の完成品。そしてこちらが、その上位互換のものになります。参考にしてみてください」
タウロとしては数少ない魔力回復ポーションを作れる薬師がいる事が嬉しかったから、比べられるようにマジック収納から出して見せた。
「! ……私のものと比べて、色が透き通っていて純度が高いのがわかる……。それにこの上位互換? なんという艶のある輝きを持った液体なんだ……。見ただけで効能が高そうなのが伝わってくる……!」
薬師として優秀と思われるブーダーはタウロの出した魔力回復ポーションにショックを受けたのか固まっている。
「くっ! か、勝ったと思うないでよ! 魔法に関しては私達双子には勝てないんだから!」
姉のジェマはチーム自慢の薬師ブーダーがどうやらタウロの作った魔力回復ポーションの出来に完敗したらしい事がわかって負け惜しみを言った。
「別に勝ち負けを決めようと思ってないよ。ブーダーさんと薬師談議が出来れば嬉しいだけなんだけど……」
タウロは日頃、地味な努力で磨き上げてきたポーション作りについて人と話すきっかけがなかったから、しゃべりたかっただけであった。
「Bランク帯の魔法の基準がどの程度かわからないけど……、二人は十分凄いんじゃないかしら? でも、まだ、魔力操作が甘いし、過剰攻撃で魔力を激しく損耗するのは駄目よ? もっと、敵を見極めてそのレベルに合わせた魔力調整が必要よ」
エアリスも優秀な魔法使いを何人か知っている。
竜人族の真聖女マリアをはじめ、同じく竜人族の天意魔導士スレインなどは、広大な範囲を焼け野原に出来るだけの究極魔法を使えるが、それを使用する事はない。
あのレベルになると、いかに効率よく丁度いい魔力量の魔法で敵を無駄なく倒すかを見定める目と魔力操作を要求してくる。
エアリスはそれをよく説教され、求められたものだった。
だからつい、この才能豊かな双子に過去の自分を見ているようで説教臭く言ってしまう。
「う、うるさい! そういうからには次、魔物が現れたらあなた達が倒しなさいよ! その時は私達がその実力を査定してあげるわ!」
双子の姉ジェマが負けん気を見せてそう答えると、妹ジェミスも頷く。
「おいおい、今回の依頼は競争してもらう為じゃない事を忘れてくれるなよ?」
ここでやっと、『青の雷獣』のリーダー・ジャックが仲裁するのであったが、『銀の双魔士』チームは気を遣って閉口する。
そして、『黒金の翼』と距離を取って先を進み始めた。
タウロとジャックは視線が合って苦笑すると、
「では先に進もうか」
とだけ言って、進み始める。
タウロ達はそれに頷くと『青の雷獣』後に続いて最後尾を歩くのであった。




