542話 二人の報告
タウロとエアリスはその日の夜、宿屋の一室でみんなを集めて結婚前提の交際報告をした。
二人共、少し頬を赤らめ、気恥ずかしそうにしながらであったが、ラグーネ達はそれをもちろん歓迎した。
「ようやくかよ、リーダー!エアリスも朴念仁のリーダー相手に一途でいたな、偉いぜ」
アンクは笑って二人の肩をバンバン叩く。
「二人の交際は時間の問題だったが、エアリスもこれで安心だな!」
ラグーネも普段からエアリスに相談を受けていたから、満面の笑顔で自分の事のように喜んでいた。
「お二人共、婚約おめでとうございます!そうなると、実家への報告をしないといけないですね!」
シオンもその場でぴょんぴょん跳ねて浮かれると大事な事を指摘した。
「シオンの言う通り、ヴァンダイン侯爵領まではラグーネが『次元回廊』を繋いでいるから、報告くらいはしておいた方が良いかもな。……リーダーの実家のグラウニュート伯爵には、侯爵に言伝してもらえばいいか?」
アンクが両家への対応について意見した。
「……そうだね。つい浮かれちゃって忘れていたよ……。──エアリス、それでいいかな?」
普段冷静なタウロもこの時ばかりはそこまで思いつかなかったようだ。
「うん。──明日、パパのところに行きましょう。弟妹達にも一年振りに会いたいし」
エアリスは心の隅にあったのかタウロの意見に賛成して頷いた。
「初めて来た北部の地が二人の特別な場所になるとはな!わははっ!」
アンクは帝国絡みの偽者騒ぎなど、北部ではあまり良い事がなかっただけに、二人のおめでたい話題に嬉しそうだ。
「……ふむ。という事は、エアリスの薬指に嵌めてある指輪は婚約指輪なのだな?」
ラグーネが先程から気になっていたのかエアリスの手許をチラチラと見て指摘した。
「ふふふっ。その場でタウロが創造魔法で作って私にくれたの♪」
エアリスが嬉しそうにその指輪をみんなに見せた。
「黒い金属の指輪って珍しいですね」
シオンが指輪に顔を近づけてまじまじと見つめる。
「竜人族の村のランガス鍛冶屋にあった隕鉄なんだ。少量だから使いものにならないと譲ってもらったんだけど、指輪には丁度良かったよ。それにこの指輪には色々な魔法が付与されているから、エアリスを守ってくれると思う」
タウロは会心の出来とばかりに誇らしげだ。
「へー!何の魔法が付与されているんだ?」
アンクも祝福ムードから一転、冒険者としてその価値について興味を持つ。
「え?これただの指輪じゃないの?」
エアリスもタウロの言葉に驚いてその指輪を見つめる。
「えっと……、黒色の指輪に金の模様で変形させた魔法陣を描いているんだけど、赤い魔石の能力と隕鉄の力を引き出す仕組みにしてあるんだ。『真眼』で確認したけど、赤い魔石は力の強化と魔除けを、隕鉄からは魔法無作為反射の結界が装備者に張られるみたい」
「「「おお!」」」
タウロの説明にラグーネ達は驚きの声を上げる。
「相変わらず、リーダーの作る物はチート過ぎるぞ!」
アンクは呆れ気味に賞賛した。
「こんな小さい指輪にそんな高等技術を付与できるのはタウロの創造魔法くらいだろうな」
ラグーネも呆れ気味に嘆息すると、その完成度を褒める。
「さすがタウロ様です!」
シオンは相変わらずタウロ信者として惜しみない賞賛を送った。
「普通の指輪で良かったのに……、嬉しいけどね」
エアリスも超高額な指輪かもしれないと脳裏を過ぎったのかそう漏らした。
「えー?やっぱり特別なものにしたいじゃない?」
タウロは心外とばかりに答える。
「リーダーの場合、特別の域を越えているんだよなぁ」
アンクが笑いながら、指摘した。
「エアリス、タウロの愛が重いな」
ラグーネは幸せそうなエアリスを茶化すように冗談を言った。
「タウロにとっては、重いつもりがないみたいだけどね」
タウロがアンクに反論している横顔を見ながら、エアリスは微笑んでラグーネに答えた。
「そうだな。それがタウロだ。私達にもみんなの為にと武器や装備一式、命を削って作ってしまうような男だからな」
ラグーネはタウロの偉大さを語る。
「タウロ様はみんなが強くなる事がチームの為になるから、投資だと言ってましたよ。だからボクもタウロ様の期待に応えられるように頑張るだけです!」
シオンは恩人であるタウロに対しての姿勢は変わらない。
「ふふふ、そうね。特別な指輪を貰ったけど、これもその一つかもね」
エアリスはタウロに温かい視線を送る。
「「それは違う(います)」」
ラグーネとシオンは即座に否定した。
「その指輪に関してはタウロがエアリスに対して、『あなたは私の特別です』という表れだからな?」
ラグーネが指輪の意味を伝える。
「そうです!タウロ様の特別はエアリスさんという証です!」
シオンもタウロの気持ちを力説した。
「ありがとう、二人とも。でも、それはそれでこの指輪は特別過ぎて想いが重くない?」
エアリスは冗談気味に言うと、三人は一緒に笑うのであった。
「何々、三人とも何を話していたの?」
タウロがアンクの話を切り上げて、エアリス達の元にきた。
「タウロの愛が重いという話さ」
ラグーネが今度はタウロを茶化すように言う。
「それはあるな!」
アンクもタウロの肩に手を回すと、大笑いする。
「え?僕って重いの!?」
タウロはその言葉に驚き、エアリスに確認の視線を送る。
「ふふふっ。大丈夫よ、私の方も重いから丁度いいんじゃない?」
エアリスはタウロにそう笑って答えた。
「「「ご馳走様です」」」
ラグーネ達三人はタウロとエアリス二人の熱々ぶりを茶化すとまた、大笑いするのであった。




