534話 本物と偽者(2)
タウロ一行は道中でタウロ(偽者)一行の情報を集めながら国境付近に向かっていた。
その情報だとメンバーは六人。
その中には帝国出身者も含まれており、それだけでも、色々と疑われてもおかしくないところなのだが、リーダーのタウロ(偽者)が直接国王から叙爵された名誉子爵であり、一流冒険者、そして、王家直轄地の施設等に自由に出入りできる許可を持っている事から、それらをチラつかせる事で誰からも不思議と疑われる事なく、この北部で好き放題やっているようだ。
その割に評判が良いのは、きっと『魅了』によって、悪感情を抱かれにくいからだろう。
前世風の表現をすると主人公補正みたいなものだ。
「『魅了』かぁ。僕も少しはそういったモテ要素が欲しい人生だったよ」
街道を進みながらタウロは冗談で同じ男であるアンクに言った。
「確かになぁ。モテてたら人生楽しいだろうな」
アンクもその冗談に乗って応じた。
「馬鹿な事を言ってないで。『魅了』を使ってモテたところで、それが真実の愛じゃなければ意味がないわ。好きな人を振り向かせるだけでも大変なのに他の異性に好意を持たれても嬉しくないでしょ?」
エアリスは男性陣を注意して溜息をつくとタウロ恨めしそうにじっとり見つめる。
「エアリスは『魅了』の能力覚えたのに使用しないのはそういう理由なの? エアリスは一途なところが素敵だね!」
エアリスの言葉を聞いて、タウロは素直に褒めた。
「ば、馬鹿……!ごにょごにょ(……私が使用したところで、『状態異常耐性』持ちには効かないじゃない……!)」
エアリスは当の本人から素敵と言われて顔を赤くして、タウロに聞き取れない声で愚痴を漏らす。
「?──そうだ。その偽者一行は腕が立つのかな? 一応、上級クエストもこなした形跡はあるみたいだけど」
タウロはエアリスが顔を赤くしている事に「?」となりながら、疑問を呈した。
「受付嬢の話ではタウロ様の偽者が仲間の一人と相談しながら周囲に指示を出し、数チームの雇った冒険者チームを操ってクエストを攻略していたらしいです。一緒にクエストに参加したチームからの評判はとても良かったとか。話だと他のメンバーも一流に相応しい動きをしていたそうですよ」
シオンが冒険者ギルドでたまたま聞いた話をタウロにした。
「つまり、実力は十分あるという事かな。ただの偽物集団ではないって事かぁ。『魅了』自体、伝説級の能力らしいからね、それにふさわしい実力もあるという事なのかな。……そうなるとやはり、帝国絡み?」
タウロはシオンの言葉に、少し考える素振りを見せると、最悪の場合の想定をした。
「……帝国か、それは十分考えられるかもしれない。近年、動きが活発になっているらしいし、十分あり得るだろう」
ラグーネが、タウロの予想に同意した。
「街が見えて来たわ。あれが、国境の街ボーダね。近くの山に砦も見えるから間違いないと思う」
エアリスが丘を登り切った先に見えた街を指差して言った。
「偽者があの街にいたら話が早くていいんだがな」
アンクは暢気に言う。
「途中の村で聞いた偽者一行の最近の足取りを考えると十分あり得ますよ」
シオンが可能性が高い事を指摘する。
「入れ違いの可能性もあるからな。これから気を付けておこう」
ラグーネはタウロの偽者に対してはかなり敵意を持っているようだ。
そう言われると、タウロ達もすれ違う集団全てが怪しく見えてしまう。
実際、フードを目深に被った集団は時折いたから、タウロ達は凝視してしまうのであった。
タウロ達はボーダの街に到着すると、そのまま冒険者ギルドに直行する。
一番の情報源だからだ。
ボーダ支部に入ると奥の部屋から大きな声が聞こえて来た。
「何で下ろせないのさ!二日前は大丈夫だったじゃない!」
若い男性の声で文句を言っている声がした。
何か職員がそれに答えているようだが、ほとんど聞こえない。
だが、奥の部屋の扉が勢いよく開き、その声も聞こえて来た。
大きな声の持ち主が、開けたようだ。
「──すみません。とにかく大きな街で一度、再確認をお願いします。こちらでは詳しい事がわからないので……」
受付嬢は本当に申し訳なさそうにしていた。
「──もういいよ!」
男性はずっと同じ事を押し問答していたのか、ようやく諦めたようにふてくされて、支部を出ていった。
「感じ悪い人だなぁ……」
タウロが苦笑して第一印象の悪さを口にする。
するとタウロ達に対応した受付嬢が、その言葉に反応した。
「とんでもない!あの方はとても良い方ですよ!今日はお金を下ろす事が出来なくて困っていただけですから!」
「あ、……はい」
タウロは受付嬢の想像を超える反応に驚いて返事する。
「あ、すみません。ともかくタウロ様は悪い方ではないので……」
受付嬢は、声を落として先程の若い男性を庇うように答えた。
「へー、彼もタウロって言うんだ──」
タウロがそう応じかけるのだったが、次に瞬間には、
「「「「「……え?」」」」」
と驚きの声を全員で上げた。
そして、タウロはもちろんの事、エアリス達もまさかというように顔を見合わせた。
「──彼はもしかしてチーム『黒金の翼』のリーダーを名乗っている人ですか!?」
タウロは急いで受付嬢に確認を取った。
「え?……はい、そうですが?」
その答えに踵を返したアンクとシオンがその俊足をもって出口に直行し、先程のタウロの(偽者)の後を追う。
それに続いてタウロとエアリス、ラグーネも表に出た。
アンクとシオンはお互い左右に分かれて数十メートル走り周囲を見渡していたが、人混みの中で見失ったのか戻ってきた。
「こっちにはいない」
「すみません、こっちもです」
アンクとシオンはそう答えると苦々しそうな表情を浮かべた。
「まさか、いきなり会えるとは思わなかった……。──みんな、顔は覚えた?」
タウロは念の為全員に確認する。
「「「「覚えた!」」」」
エアリス達はしっかりと目に焼き付けた事で標的の顔を思い出して捕縛する事に燃えるのであった。




