531話 将軍との面会
タウロ達一行は、上位鑑定者によってその身分が確認されると早々に解放される事となった。
そして、尋問室から貴賓室に移動して今に至る。
「この度は部下の勝手な判断で失礼した!」
軍事施設を管理している将軍が直々に謝罪に来たのだから、よっぽどである。
ちなみに将軍は名誉伯爵という事で、タウロより地位的に上なのだが、王家の許可書を持っている点でタウロを丁重に扱う事にしたようだ。
「将軍、それよりも僕の偽者がこの施設を見て回っていたという事ですが、それはかなり大変な問題では?」
「……私もその報告を先程ようやく受けてな。非常に不味いと危惧して、早速、他の軍事施設にも伝令を出したところなのだ……」
将軍は軍の失態を認めて、ため息交じりに答えた。
「やはり帝国絡みなのでしょうか?」
タウロが申し訳なさそうな将軍に話を振る。
「……今の時点では何とも言えないが、部下の報告では、タウロ殿一行……、失礼した。偽者一行は失踪していた一年間は帝国に潜入し旅していたと嘯いていたらしい……。まだ、調べさせ始めたばかりで情報はほとんど部下達から聞いた話だけだが、帝国の間者である可能性は十分あるだろう……」
将軍にとっては、偽者一行の対応を部下に任せていたので寝耳に水の状況だったようだが、対応は早く情報収集もすでに始めていた。
「僕達も偽者については、この後追うつもりでいますが、その偽者一行が国境線を越えられないようにしてもらえると助かります」
「それはもちろんだ。王家直轄領の国境線にはすでに伝令を出している。だが、貴族領となると、また、領主の対応の差で時間差が生まれるから、これはどうしようもない。出来ればタウロ殿には隣のスウェン伯爵領の国境線を警戒してもらえると助かる。スウェン伯爵と私は犬猿の仲で、こちらから要請してもどうせ聞く耳を持たないだろうから、国境を越えるとしたらそこからの可能性が高そうだ」
同じ伯爵でも領地持ちの伯爵と名誉のみの伯爵とでは色々とそりが合わない事もあるのだろう。
将軍はその辺の事情をタウロに説明した。
「……なるほど、わかりました。僕達はどちらにせよ、スウェンの街には行くつもりでしたので、そちらで偽者を探してみます」
「そうか、そう言ってもらえると助かる。タウロ殿、改めて部下が先走って拘束、尋問をしてすまなかった」
将軍はまた、深々と頭を下げる。
背後に立っていた部下も、一緒に頭を下げた。
「本当に大丈夫ですよ。逆に上位鑑定のお陰で本物である事を証明出来ましたから助かりました。尋問の際の拷問については頂けませんが……。その事については、将軍に判断を任せるとして、幸いうちのメンバーは全員そういう事には慣れているので痛痒を感じた者はいない……、──よね?」
タウロはここまで、大人しく話を聞いていたエアリス達に話を振った。
「軍施設で魅了を掛けられていての誤った判断とはいえ、偽者だと思った相手への対処としては無難じゃないかしら?」
エアリスが尋問についてまったく気にする様子がなく答える。
「そうだな。あの時点では偽者確定されていて仕方ない状況ではあったからな」
アンクも全く気にする素振りを見せずに応じた。
「私に、いつものを言わせたら大したものだったが、今回の尋問は甘かったな!はははっ!」
ラグーネは「くっ、殺せ!」を言わせなかったかどうかが基準のようだ。
「ボクは一度も殴られたりしなかったので、全然平気でした」
シオンは子供という事でタウロ同様、尋問だけだったのだろう笑顔で答えた。
「そ、そうですか……」
将軍は部下の報告でやり過ぎたと報告を受けていただけに、この反応には驚くしかなかった。
「……そういう事なので、将軍の判断に委ねます。あ、宿泊施設はお借りしても良いですか?今日はもう遅いので、さすがにここで一泊させてください」
タウロは窓から覗く外を一瞥してからお願いした。
「も、もちろんだ。──おい、誰かタウロ殿一行を宿泊施設に案内せよ」
タウロ達は兵士の案内で貴賓室を退室する。
「……お前達。かなりきつめの拷問をしてしまったと言っていなかったか?」
将軍は部下達に報告内容を確認した。
「……そのはずなんですが、報告では全員涼しそうな顔をしていたとも……」
「この一年間失踪していたというその間の経歴も気になるが、彼ら自身は一体何者なのだ……? 貴族も中にはいるはずなのに、常人とは感覚が並外れ過ぎている……。最近の一流冒険者とやらはみんな、ああなのか?」
将軍はタウロ達の想像の斜め上の反応にただ唖然とするのであった。
タウロ達は軍の宿泊施設にある大部屋を貸し切ると、みんなでタウロが床に広げた地図を囲んで話し合いを始めた。
「偽者が今どこにいるかによるけど、将軍の提案通り、当初の目的でもあったスウェンの街に行くというのが最善かな?」
タウロは現在地からスウェン街を続けて指差し、みんなに確認する。
「そうね。将軍もまだ、詳しい情報を持っていないし、この付近で一番大きな街に行くのが無難じゃない?」
エアリスもタウロの言葉に賛同する。
「そうだな。それにしても、タウロの偽者とか誰がそんな事を思いついたんだろう?」
ラグーネが偽者に付いて疑問を口にした。
「確かに。だが、わかる気もするぞ。俺達『黒金の翼』は帝国の作戦を邪魔したり阻止しているからな。マークされていたとしてもおかしくない。そこに一年も失踪していたら、死んだ可能性を考慮して偽者を作り上げる事を考えてもおかしくない。それだけの肩書きを俺達は持っているしな」
アンクがもっともらしい予想をした。
「なるほどです!それに北部でタウロ様達の顔を知っている人物なんていないですから、きっと都合が良かったんですね」
「そういう事になるかな。……それにしても、タグとか記章とか鑑定士を欺くようなものを作れる技術力には驚かされるね。帝国については謎が多いけど、特殊部隊の事や、北の竜人族のこともあるし、最大限の警戒をした方が良さそうだ。『魅了』については、放置しておいても時間が経てば自然に解除されるようだからここはそのままでもいいかな」
タウロは、みんなに注意喚起をすると、今日はひとまず就寝する事にするのであった。




