504話 迷宮間の移動
ダンジョン『バビロン』の一階層は前回来た通りであった。
骸骨と幽霊がときおり現れる。
そこで、今回も前回同様、護衛の副隊長を務める事になったタイチがタウロ達を働かせる事無く魔物を退治していくのだが、ふとタウロはある事に気づいた。
「タイチさん。もしかしてその手にしている剣、製作者は……」
タウロは『真眼』を使わなくてもその剣に何となく気づいた。
「お、気づいたか?前回、タウロ君の小剣の出来が良かったから、あの後、長期休暇を取ってサイーシの街の名匠アンガス殿のところに剣の制作を依頼しに行ったんだよ。丁度鍛冶師として有名になって忙しくなる前で、ギリギリお願い出来たんだ。あの時は教えてくれてありがとうな。お陰でこんな良い剣がお手頃な価格で打ってもらえたよ」
タイチは自慢気に入手した剣で魔物を退治した後、満足そうに鞘に納めた。
「タイチの剣を見て私が同じように依頼しようとした時には、すでに客が殺到していて気軽に依頼できなくなっていたな」
隊長のツヨークが苦笑して話に入って来た。
「少し前にそのアンガスさんのところを訪問した時はお弟子さんが沢山いました」
タウロはサイーシの街に立ち寄った時のことを思い出してそれを口にした。
「だろうな。今や名匠アンガス作の武器は入手困難なんだ。入手できたとしてもアンガス鍛冶屋工房作だ。あれは弟子達が打ったものだから、本人のものとはまた別物なんだよ。俺も短剣を依頼したら、工房作のものしか無理だと言われたから。だが、出来は良かったけどな」
タイチはそう言うと腰に差してあった短剣を抜いて見せた。
タウロはそのタイチが手にした短剣を『真眼』で鑑定してみると確かに、『アンガス鍛冶屋工房作』と表示される。
だが価値を詳しく見ると結構な価値が付いていた。
「良いものですね。お弟子さんが打ったものみたいですが、十分良い代物だと思いますよ」
タウロがそう評価した。
「だろう?俺も『武人』の能力の一つで武器の評価はある程度わかるからな。これも良い品だから気に入っているよ」
屈託のない笑顔でタイチが満足そうに感想を述べた。
そうこうしていると、身に覚えがある場所に来た。
下の階層に向かう階段とその横に向かう『休憩室』への通路だ。
「到着だな。それで、この部屋に何の用があるのかな?」
護衛隊長のツヨークがタウロの傍を進みながら聞いてきた。
部屋に入るとタウロは、
「ツヨーク隊長さん達は少し待っていて頂けますか?ちょっと実験と確認をしておきたいので」
と答え、ラグーネの『次元回廊』を使わず、『空間転移』でその場から消えた。
「!?」
ツヨーク隊長と副隊長のタイチは前回のタウロ、エアリスが数時間消えてしまった時の記憶を思い出したのかギョッとして、残されたエアリス達の方を見る。
「多分、すぐ戻ってくると思いますので、ちょっと待っていて下さい」
エアリスが苦笑してツヨーク隊長に答えた。
タウロはすぐに戻って来た。
その予告もなく突然現れた事に、またギョッとするツヨークとタイチ、そして護衛の騎士達であったが、それを気にせず、タウロはすぐにエアリス達に対して、「成功だった!」と興奮気味に答える。
「成功とは?」
ツヨーク隊長がタウロが消えて戻って来た謎について質問した。
「ここだけの話、僕、能力でダンジョンの『休憩室』と呼ばれている部屋同士なら容易に移動が可能なんです。それで、他の行った事があるダンジョンの『休憩室』とも行き来が出来るか試してみました。──結果は、成功です」
「なっ!?ダンジョン間の移動!?いや、待て、その前にタウロ殿の能力?それに、他のダンジョンとは国内にある他のダンジョンにも行った事があるのか君は?」
ツヨーク隊長は何度も驚かせるタウロに疑問だらけだ。
「とにかく僕は能力で移動できるという事だけ知っておいてください。これからは僕の権限を利用してこちらに色んな人が出入りする事になると思うので」
タウロはどうやら、あちらのダンジョン、つまり、竜人族の村の始まりのダンジョンから竜人族の人々を連れてくるつもりのようだ。
だがそうなると、行き来するにはまた、タウロの存在が不可欠になる。
エアリス達はそれがすぐ分かった。
「タウロ。それって、これからはダンジョン『バビロン』攻略に私達は力を注ぐという事かしら?」
エアリスはもっともな疑問をぶつけた。
それにそれなら仲間に一言相談くらいはして欲しかった。
タウロの判断ならみんな従うだろうが、一言くらいはやはり先に言っておいてもらいたかったのだ。
「いや、僕無しでも移動できる手段を用意して、あっちのみんなにはそれで移動してもらおうかなと思って」
「「「「移動できる手段?」」」」
エアリス達は寝耳に水で首を傾げた。
自分達の移動手段と言ったら、タウロの『空間転移』とラグーネの『次元回廊』である。
それ以外のものはこれまで無かったはず。
それにそんな都合が良い能力を持っている者など、そうそういるはずがない。
「これなんだけどね?」
タウロがマジック収納から一つの見覚えがある魔石を取り出した。
「これは、あっちのダンジョンの領域守護者だった二つ頭の聖獣の魔石よね?」
エアリスはすぐにタウロが徹夜して研究していた魔法と結び付けて思い出した。
そして続ける。
「光(聖)と闇の属性を持つ特殊な魔石でしょ?──あら?すでに加工してあるのね」
タウロの手にある特殊な魔石がすでに加工が施されている事に気づいた。
「うん。僕の『空間転移』って、同じく僕の能力の『魔力操作(極)』で分析してみたら、光(聖)と闇の魔力が上手いバランスで交わっていたんだ。だから、この特殊な魔石なら同じ状態の出力を僕独自の魔法陣で加工出来ないかなって」
「それはつまり……、この魔石で『空間転移』を出来るようにしたって事!?」
エアリスがいち早く察すると驚いて言葉にした。
「正解!ただし、込める魔力の量が膨大過ぎて、あっちの竜人族レベルの魔力量じゃないと発動しないっぽいんだよね」
タウロは大きな欠陥を口にしつつ、とんでもない発明をした事をみんなに発表するのであった。




