498話 王都帰還
帰りの道程の馬車内では、国王の使者と話す事も多く今回なぜ呼ばれたのかも聞いてみた。
「詳しい事は私から申し上げられませんが、バリエーラ宰相閣下のご子息であるムーサイ子爵からの推薦と言えば良くお分かりかと思います」
「ああ!え、でも……、という事は……、そういう事ですか?」
タウロは使者の説明で、どうやら名誉貴族として爵位を貰える事になったようだという事をようやく察した。
「そういう事だと思います。私はタウロ殿とそのお仲間達も連れてくるようにとだけ命令を受けていますので詳しくはお答えできません」
タウロはそれで納得しようとしていたが、同席しているエアリスが横から口を出した。
「爵位、それも名誉貴族の叙爵で陛下から直々にお呼びが掛かるのっておかしくないかしら?」
「そう言えば、そうだね?」
タウロもエアリスの指摘で大事な事に気づいた。
下級貴族の叙爵は悪く言えば証明書である紙切れ一枚を使者が渡すという簡易的な叙爵式で終わりだ。
ましてや名誉貴族である。
それ以下の扱いでもおかしくない。
名誉貴族は肩書きだけで、領地は無いし、宮廷貴族のように給金がでるわけでもないから、その程度である。
もちろん、貴族としての扱いになるから権利面では優遇されるのだが、叙爵はやはり大した扱いはされないのが現状だろう。
それを考えると何か国王に意図があり、叙爵のついでに大事な要件があって呼び出されたと考える方が無難な気がする。
タウロは使者の方をちらりと見て確認すると、使者は自分は何も知らないとばかりに視線を外す。
これ以上は聞けないようだ。
それ以外の話なら使者も応じたので、今回の聖女一行での王太子の対応やハラグーラ侯爵領での出来事も包み隠さず話す。
使者は興味深げにタウロとエアリスの話に何度も頷いていた。
タウロとエアリスはあくまでも事実のみを伝える形なので、これが公式の場での話なら問題が多い内容ではあったが、王都まで一週間も道のりが一緒であり、世間話としてお互い情報交換をしたという形である。
王都到着前日には、使者もタウロとエアリス、そして食事で一緒するラグーネ、アンク、シオンにも好感を持っていたので、
「公式の場ではこれまでの会話は誰にもお話になりませんよう、お気を付けを。私も公式の場では誰にも話しません。一私人として陛下や宰相閣下に話す機会もあるかもしれませんが、みなさんから聞いたとは言いませんのでご安心を」
と含む言い方で自分は味方である事を示してくれるのであった。
こうしてハラグーラ侯爵領から一週間を経て王都に帰還する事になった。
使者はそのまま、王宮に直行し、タウロは国王への面会を前に王都のグラウニュート伯爵邸に直行した。
館には父グラウニュート伯爵とハクがタウロの帰りを待ってくれていた。
「やっと帰ったかタウロ。その顔だとそっちは大変だったみたいだな。こちらはハクの為のパーティーが連日行われ、ハクがお疲れ気味だがな。はははっ!」
グラウニュート伯爵はタウロの元気な姿を見て笑みを浮かべ、王都での生活について簡単に話してくれた。
「兄上、お帰りなさい!やっと聖女から解放されたのですね。よかったです」
ハクは聖女の人となりを知っているから兄タウロが心配だったようだ。
「それよりもハク、正式な養子縁組成立おめでとう!これで僕も肩の荷が一つ下りたかな。そうだ、父上、実は──」
タウロは王都に戻れた理由は簡潔に説明した。
「──ほう。陛下直々に……か。それはめでたいな。タウロが名誉貴族でも叙爵してくれるのなら私は嬉しいぞ。だが、お前は私達の息子だ。グラウニュート伯爵家の長男でもある事を忘れてくれるなよ」
父グラウニュート伯爵は誇れる息子達二人を抱き寄せて抱擁するとそう答えるのであった。
エアリス達もグラウニュート伯爵家に宿泊する事にした。
王都のヴァンダイン侯爵邸は現在、両親共に実家である領地の方に戻っているからだ。
父グラウニュート伯爵はエアリスをタウロの彼女だと思っているから大歓迎であった。
「ヴァンダイン侯爵は世継ぎも生まれたし、幸せだな。うちはもっと幸せだが。わはははっ!」
父グラウニュート伯爵は自慢の息子達を前にのろけるのであった。
「タウロも名誉貴族の叙爵を受けるのなら、行ける範囲が広がるな。──どうする?地下ダンジョン『バビロン』にも挑戦できるだろうし、国内の禁足地にも入れるようになるかもしれない」
「──そうか。『バビロン』にも挑戦できるのですね……。ちなみに同行者などは限定されるのでしょうか?」
「それは『黒金の翼』の仲間以外の話か?」
「はい。竜人族の人々が興味を持ちそうだなと思いまして」
「……なるほど。古のダンジョンをクリアした竜人族に『バビロン』も攻略してもらうわけか……。それが可能なら王都はダンジョンの魔物大量発生を恐れる事も無くなるな。手続きにもよると思うが、無理な話でもない」
父グラウニュート伯爵はタウロならではの発想に感心した。
「竜人族のみなさん次第ではありますが、多分、承諾してくれる可能性はあるかなと思います」
タウロが応じるとラグーネが話に入って来た。
「竜人族のみんなは他のダンジョンにも興味があるから協力してくれると思うぞ?特に族長は目標を失って最近は王国内の治安とか北の帝国への警戒だけだから暇そうではあったしな」
「そうなの?それならもし、僕が爵位を得る事が出来たら、試したい事もあるし、一度また、竜人族の村に訪問しようか」
タウロは意味深な事を言う。
「何だい、リーダー。また、危険な事考えていないだろうな?」
アンクがタウロの悪い癖が出ていないか心配する素振りを見せた。
「タウロ、わかっていると思うけど、何かする時はみんながいるところでやってよね?」
エアリスもタウロに釘を刺した。
「はははっ……。信用無いなぁ!」
タウロが苦笑いして応じると、みんなは当然とばかりに頷き、その場に笑いが起きるのであった。




