497話 犯人捜し
タウロ達一行は、予定を越えてハラグーラ侯爵領領都に数日滞在する事になった。
本当なら『祝福の儀』が終わったので、聖女一行への同行義務も終わり王都に一度帰る予定であったから、足止めも良いところであった。
どうやら、ハラグーラ侯爵は今回の『祝福の儀』にタイミングを合わせた襲撃事件の犯人捜しをしているようである。
表向きは聖女一行の感謝を込めて予定を越えて歓待したいというものであったが、外部の人間である聖女一行の中に犯人がいるかもしれないと、調査しているようだ。
だが、ハラグーラ侯爵とアレクサ、そして、聖女一行のサート王国側責任者王太子が率先して調べても証拠が出るわけもない。
ハラグーラ侯爵は優秀な部下による人物鑑定など密かに行っているようであったが、タウロ一行には鑑定阻害付きで『黒金の翼』のメンバーを示す首飾りをしているから鑑定される心配はなくエアリスが聖女スキルを持っている事も知られていない。
それに真聖女マリアはすでにこの地にはおらず、ヴァンダイン侯爵領に帰った後であったから、調べようがなかった。
「意外に調査が長いなぁ」
ルワン王国側の客人扱いとして用意されている部屋にみんなで集まってこれからについて話し合いを行っている席で、タウロがそうぼやいた。
「本当ね。それにハク君の正式な養子縁組手続きも完了しているだろからお祝いしたいんでしょ?」
エアリスが苦笑してタウロの気持ちを察して答えた。
「そうなんだよね。家族も今回の事で心配しているだろうし、ハクのお祝いもあるし王都には早く戻りたいところだよ」
タウロがエアリスに応じて頷いた。
「なんだ、リーダー。冒険の旅も兼ねてサイーシの街にまた、行きたいんじゃないのか?」
アンクがタウロのぼやきは新たな冒険が理由だと思っていたのでそう指摘した。
「会いたい人にも少し会えたし、みんなが元気なのは確認出来たからね。サイーシの街にはまた今度かな」
タウロは支部長レオ、受付嬢ネイには少しだが久し振りに会えていた。
鍛冶屋のアンガスには会えなかったが、元気なのはその仕事で作った小剣の出来でわかっている。
冒険者ミーナも、支部のエースとして頑張っている事も確認していたし、会うのは次の楽しみに取っておこうと考えていた。
「タウロ様の行きたいところに行きましょう」
タウロ第一主義のシオンは相変わらず、タウロ優先である。
「私はみんなと行けるならどこでも構わないが、王都に一度戻った後はどうするのだ?」
ラグーネが一番肝心な事を聞いた。
「そうなんだよね……。僕もみんなとならどこでもいいのだけど、みんな行きたいところはある?国内でも行っていないところは沢山あるよね。まあ、行けないところも多いけど」
タウロが言っているのは禁足地などのことである。
特別な許可が無いと入れない地域もあり、冒険者としては心くすぐられるところだ。
そこへ、ドナイスン侯爵が部屋に訪れてきた。
「タウロ殿。王都より使者が訪れているようだ。王太子の元に知らせが来てタウロ殿がこちらにいるから私のところに知らせが来た。早く行ってみた方がよいかもしれんぞ」
「わざわざそれを自らお知らせに来て下さったのですか?ご迷惑をお掛けしました。ありがとうございます」
タウロはドナイスン侯爵の機敏な言動に軽く驚くとお礼を言った。
「よいのだ。どうやら、サート国王の使者のようであったから、重大ごとのようだ。それを考えるとタウロ殿達とはもうここでお別れかもしれないのでな。ルワン王国はタウロ殿達にはかなり助けられたから、お礼を言っても言い尽くせぬよ。こちらこそ、感謝する。もし、ルワン王国を訪れる時は私の元に顔出してくれれば助かる。これはその時の為の札だ、受け取ってくれ」
ドナイスン侯爵はそう言うと自分の家紋の入った札をタウロに渡した。
「ありがとうございます、ドナイスン侯爵」
タウロは会釈すると、ドナイスン侯爵に促され、王太子の元に向かうのであった。
「あなたがタウロ・グラウニュート殿ですね?──これを」
王太子の部屋には不満そうな王太子とそれを意に介さない国王の使者が待っていた。
そして、使者はタウロに直接手紙を渡した。
どうやら、王太子が国王の使者という事でその手紙を自分の前で開けるように要求したが断られた事が不服なようであった。
「……失礼します」
タウロは王太子の前にで手紙を開いて内容を確認する。
面識もない国王からの手紙であるから、少し緊張するのであったが、その内容にさらに緊張と驚きがあった。
「──この内容に間違いはないのですか?」
タウロは一息吐いて呼吸を整えると、使者に確認する。
「はい。タウロ殿達には早く王都に戻ってもらい、陛下と面会する事を求められています。その時に用件も仰せになられると思います」
「陛下が、こんな子供に会われるというのか!?信じられない……!」
王太子はタウロ達にあまり良い印象を持っていない。
ただでさえ第五王子フルーエの推薦だったメンバーだ。
推薦者に恥をかかせる為に連れて来たのに活躍されてしまい、王太子としては不服で一杯だったから父である国王が直接会うという事に衝撃的であった。
「王太子殿下。陛下の判断を疑われるのですか?」
使者は冷静に王太子を咎めた。
「い、いや、そうではないが……」
王太子は言葉を濁す。
どうやらこの使者は国王の側近のようで、王太子も強く言えないようであった。
「それでは、タウロ殿。旅装をお整え下さい。迎えの馬車も用意してありますので」
使者はにこやかにタウロに旅支度を求めると王太子の部屋を出て自室に戻るように促すのであった。
タウロ達は急な使者からの要請に急いで旅支度を整えた。
とは言っても冒険者のタウロ達にとって旅支度はすぐに終わる。
すぐに使者が用意した馬車にタウロ達は乗り込んだ。
そこに、ハラグーラ侯爵の側近アレクサがやって来た。
「我が主の客人を強引に連れていくのは誰ですか?」
まだ、犯人捜しをしているアレクサとしては、王太子から容疑者の可能性が高いと耳打ちされていたタウロ達を連れていかれるというので、止めに入って来た。
「国王陛下直々のご命令です。それをまさか阻むつもりではないでしょうね?」
使者がアレクサの言葉を咎めるように答えた。
「!……失礼しました。国王陛下のご命令ならば仕方がありません」
アレクサは肝心の部分を聞かされていなかったのだろう、驚くと謝罪した。
「それと、聖女一行をこれ以上、予定の日を越えて一か所に留める事は許されないと思いますので、お気を付けをとハラグーラ侯爵にお伝え下さい」
使者はアレクサにそう告げると馬車を出すように御者に命令する。
こうしてタウロ達の乗った馬車はハラグーラ侯爵領を後にするのであった。




