470話 帝国兵撃滅作戦当日
タウロとエアリスは朝からムーサイ子爵達と綿密な打ち合わせをすると昼前には前日の実験の場になった広場に向かった。
城館を出た辺りから、監視はされているはず。そして、また、同じ広場に向かったとなれば、二人の行動に少なからず驚いているはずだ。
昨日の今日で、同じ場所に行くとは思っていないはずだからだ。
だが、タウロとエアリスは空を飛んで街の外に飛んでいったのは自分達の包囲を察知して逃げたのではないとも解釈するはずである。
そして、前日、タウロには飛んで逃げられた教訓から、対策も講じてきているはずだ。
その辺りはこちらも予想している。
と言っても、タウロは前日同様の実験はしないつもりだから、空を飛ぶ事は出来ないのだが。
それは、味方側であるムーサイ子爵達に対して能力を秘密にしておきたいという理由もあったが、何より、昨日の今日であの実験をもう一度やるのは辛かったからだ。
闇の精霊魔法で全身に激しい痛みを伴い、大量出血でしんどい思いは流石のタウロも、もう沢山である。
「じゃあ、帝国兵が私達を捕らえるまでどうするの?」
人気のない広場の片隅でエアリスはタウロと二人、どうするのか聞いてきた。
きっと、タウロの『気配察知』にもかからない遠目からこちらを監視している帝国兵が全兵士に合図を送るはずだ。
前回同様、光を合図に使うだろうから、味方はそれを合図に帝国兵の背後に迫ればいい。
「うーん……。適当に何か話しておく?──そうだ、聖女一行への同行が終わったら、どうしたい?」
タウロはエアリスが復帰してから冒険者としての活動がろくに出来ていないので、そんな質問をした。
「そうね……。みんなと話し合って決めないといけない事だとは思うけど……、まだ、この国の知らないところに行ってみたいわ。タウロの冒険者を始めた街にも行ってみたいし、冒険者として活動の場を広げる為に他の国に行くというのもいいかも。──こうして考えてみるとやりたい事って、いっぱいあるわ」
「そうだね。エアリスの言う事わかるよ。この聖女一行に同行して国内を巡るというのは、今思うと今後の冒険の下見みたいでいいのかも。お陰でこのバリエーラ公爵領より南の地方にも行ってみたくなったしね」
二人が今後の冒険の行き先について話が盛り上がり始めると、エアリスがある気配に気づいた。
「……タウロ。この周辺に小さい結界が張られたわ」
「やっぱりか……。僕の『浮遊』対策には結界魔法できたね」
タウロはこれについては想定の範囲内だ。
あとは飛び道具や魔法で撃ち落とすしかないが、それだと拉致が目的であるエアリスを殺しかねない。
やるとしたら結界を張って飛べる範囲を制限する事だろう。
そこへタウロの『気配察知』に、近くの建物や廃屋で待機するラグーネ、アンク、シオンなど、味方の領兵達以外の気配が複数確認できた。
だが、その気配もいくつかすぐに消えた。
「!?──相手には僕の『気配察知』に対抗する能力の持ち主がいるのかな?」
昨日の覚醒状態での『真眼』では、帝国の特殊部隊という精鋭である事はわかっている。
これはもしかしたら、こちらの想像以上に敵の戦力は凄いのかもしれない。
タウロには最高の相棒であるぺらがいるから、大丈夫という自信はあるが、敵は想像以上の相手かもしれないと腹を括るのであった。
その時であった。
タウロとエアリスを取り囲む様に広場の周辺に人影が現れた。
住民に溶け込めそうな格好をしている者もいれば、冒険者の格好している者もいる。
そんな連中が、人気のない広場に五十人程も近づいて来た。想像以上の数だ。
タウロの『気配察知』には、半数以上察知できていないから、それだけタウロの能力を上回る『気配遮断』系の能力持っているということだろう。
「……どちら様ですか?」
タウロはわかっていながら、一応、聞いてみる事にした。
ただの時間稼ぎだが、その間にムーサイ子爵達率いる領兵が包囲網を縮めているはずだ。
それに近くの廃屋にはラグーネ達も伏せてあるから、いざという時は駆け付ける事になっている。
「……殺れ」
包囲を縮めていた誰からかそう一言だけ漏れた。
すると囲みを縮める十人程が、自分の得物を抜いて構えた。
問答無用か!
予想はしていたが、徹底している。
タウロは魔法収納から盾と小剣「タウロ改」を瞬時に出して装備する。
「……理解が早い小僧だ」
またも誰かがそうつぶやく。
その時には接近して来た帝国兵がタウロに無言で斬りかかった。
エアリスは黒壇の魔法杖を構えて、接近してくる帝国兵を牽制しつつ、瞬時にタウロに幾つかの魔法を掛けた。
「……聖女を取り押さえろ。魔法は厄介だ」
またも誰が発したかわからない声がした。
タウロはすぐさま、エアリスの背中側に位置を取ると、小剣「タウロ改」に魔力を込めて帝国兵に斬りかかる。
帝国兵は余裕を持ってタウロの攻撃を躱した。
いや、躱したはずだった。
だが、タウロの手にする小剣の間合いは、魔力を込める事によってその剣先に光の刃が現れ普通の剣並みの範囲になっていた。
そして、その光の刃の切れ味によって、帝国兵二人は血飛沫を上げてその場に崩れ落ちた。
「こいつ魔法剣を使うぞ、気を付けろ!」
タウロと対峙した一人が、仲間に警告する。
タウロはすぐに魔力を込めるのを止めてただの小剣に戻す。
これは魔力の温存もあるが、光の刃を常に見せない事で間合いを測られないようにする為であった。
帝国兵は二人がやられたので、後ろの二人がさらに得物を構えて前に出る。
無駄のない動きだ。
他の者は周囲を警戒しつつ、こちらの様子も確認している。
これは本当に訓練が行き届いているぞ……。
タウロは小剣「タウロ改」の奇襲的な攻撃で二人を仕留められたが、次からはそう易々と倒すのは難しいかもしれないと思うのであった。
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