465話 祝福の儀の後
バリエーラ公爵領領都で行われた『祝福の儀』は、参列者のみならず、エアリスの『祝福』の範囲内にいた者達全てに感動を与えて問題が起こる事なく無事終える事が出来た。
エアリスの『祝福』は聖女マチルダのものとは違い、その効果範囲が広く、その威力も数段違う代物だったので、古傷の痛みが消えたという者から、心の靄が晴れたという者、中には目が見えるようになったという者まで、まさに奇跡を体現した者達が心震わせ、聖女マチルダの偉大さを喧伝する事になった。
「……す、凄いね、エアリスの『祝福』は……!もう、城館内だけでなく街の方まで『祝福』の恩恵を受けた人達の奇跡の噂が、広まっているよ」
タウロはエアリスから『祝福』の実際の効果について聞いていたが、それ以上の噂が広がっているので、エアリスの『祝福』は特別なものなのかもしれないと思うのだった。
「私の『祝福』に奇跡の効果はないわよ?古傷の痛みが消えたというのは、治癒効果と自己再生効果増幅の結果だし、心の靄が消えたというのは、多分、軽い呪いが掛かっていたのが浄化効果で消えた結果だと思う。目が見えるようになったというのも、多分、一時的に発動する自己再生効果で目の病気が回復したのだと思う。通常、病気なんかは治癒魔法では治せないものが多いから」
エアリスは冷静に、驚くタウロに説明して見せた。
「それにしてもエアリスは腕を上げたのだ、凄いと思うぞ!手柄が聖女のものになるのは納得がいかないがな」
ラグーネはエアリスを思ってそう口にした。
「本当そうですよね。エアリスさんの『祝福』にボクも感動しました」
シオンも新たな崇拝対象が出来たようにエアリスを相手に祈る素振りを見せた。
「俺もちょっと涙出たからな」
アンクも『祝福』で心が多少揺さぶられたようだ。
「みんな止めてよ。手柄なんて求めていないし、祈られる様な事もしていないわ。アンクのはただの歳のせいね」
エアリスが謙遜して答える。
「最後の俺への反応だけ酷くないか!?」
アンクがエアリスにツッコミを入れる。
すると一同から笑いが起きて場が和むのであった。
そこへノックの音がして返事をすると、ムーサイ子爵とドナイスン侯爵が入って来た。
「『祝福の儀』、無事終えられました。ありがとうございます、エアリス嬢」
ムーサイ子爵が今回の責任者として深々と頭を下げると感謝の意を示すのであった。
ドナイスン侯爵も釣られるように頭を下げる。
「あれが詐術の類とは恐れ入った。かなりの者が奇跡が起きたと誤解しているのには心が痛むが……」
ドナイスン侯爵は、問題はまだ解決していないと思ってか明るい表情は無かった。
「今回の封印魔法についてですが、犯人は見つかりましたか?」
エアリスが無駄とは思いつつ聞いた。
「鋭意捜索中だが、まだ、見つかっていない」
ドナイスン侯爵が首を振って答えた。
「……封印魔法が効果が無かったと判断したのか、すでに魔法は解かれていると思います。まとわりつくような結界魔法や呪術の類を感じないので」
エアリスは犯人を捕まえた可能性も考えていたが、芳しくない返事を聞いてそう答えた。
「……そうか。犯人はわからずじまいだな。王太子側もこちらの動きに反応して使いを度々送って来るので、犯人ではないのか、それとも演技なのか……」
ドナイスン侯爵は増々悩みこんでしまった。
「どちらにせよ、無事に終える事が出来たのだ。良かったと思いましょう。父であるバリエーラ宰相にはこの事を報告して注意喚起しておきますが、数か所回った後、ハラグーラ侯爵領にもみなさんは訪問されるのでしょう?お気を付け下さい」
ムーサイ子爵は犯人は王太子側と考えている様だ。
もし、自領での『祝福の儀』が失敗していたら面子の丸潰れだし、そこに便乗してハラグーラ侯爵派閥側からどんな噂を立てられていたかと思うとぞっとした事だろう。
ムーサイ子爵はその重責から解放されてかなり安心したようだった。
「ムーサイ子爵、犯人はわかっていないのです。我がルワン王国側は今後も同じ事が起きるのではないかと心配ですよ」
ドナイスン侯爵は自国最大の外交カードである聖女が失敗する状況はあってはいけないから胃が痛い思いであった。
「聖女一行は、あと数日滞在するのですから、まだ、安心しない方がよいかしれません」
タウロはムーサイ子爵に釘を刺した。
初日の火事の一件も含め、相手は色々と仕掛けてきている。
もちろん、同一犯なのかそれとも全く違う者による思惑で起きている事なのかもわからない今、安心する事はできないのだ。
「……そうですね。タウロ殿は年齢にそぐわぬ冷静ぶり。父から聞いていた通りで驚かされます」
ムーサイ子爵は今回このタウロの機転に救われたから、素直に評価するのであった。
「これから聖女殿の傍にはタウロ殿達も同行してもらってよろしいですかな?」
ドナイスン侯爵は、このタウロとエアリスはこの国内での旅には欠かせない人物と考えたようだ。
「それはちょっと……。聖女様はエアリス嬢を恋敵と敵視しているご様子。もちろん、それは誤解なのですが、聖女様に睨まれた状態で傍にいるのはエアリス嬢が針の筵です。これまで通り、離れて同行する形でお願いします」
タウロはエアリスの事を考え、ドナイスン侯爵の提案を断るのであった。
「むむっ……、例の噂話ですか……。──わかりました……。仕方がありませんな。もし、また、今回の様な封印魔法の類を感じた際は、すぐに知らせて下され」
「もちろんです」
タウロはドナイスン侯爵と握手を交わすと約束するのであった。
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