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【完結】自力で異世界へ!~優しい仲間と一緒に異世界生活を満喫します~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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464話 聖女の代理

 しばらくすると、領都の代理を任されているバリエーラ宰相の息子、ムーサイ子爵が、タウロ一行のいる部屋まで直接やって来た。


 一緒に、ドナイスン侯爵も連れていて、その姿は血相を抱えている様子だったから、タウロ達の予想が当たっていた事をすぐに察する事が出来た。


「タウロ殿!メイドから報告を受けました。なぜ気づかれたのですか?」


 ムーサイ子爵は原因を知りたくて挨拶もなく本題に入ると確認してきた。


「気づいたのは僕ではなく、こちらのヴァンダイン侯爵令嬢であるエアリスです」


 エアリスはタウロに紹介されたので軽く会釈する。


「そ、それでなぜ気づいたのだ!?」


 今度はドナイスン侯爵は時間が勿体ないとばかりに慌てた表情で、続きを話すように急かしてきた。


「私は『結界師』のスキル持ちなので、何となく気づく事が出来ました。これは多分、結界と呪術を組み合わせた限定的な封印術だと思います。聖女の『祝福の儀』を邪魔する程度のものなのでほとんど害はないかと思います」


「封印術!?……そうですか、害はほとんどないのですね……。それで、これを解く事は可能なのですか?」


 ムーサイ子爵はほっとすると、大したものではないと安心し、気軽な気持ちでエアリスに聞いてみた。


「術者、もしくはこの封印術を行使している物を排除しないと解けないと思います。そもそも、この封印術はほぼ無害に等しい魔力の波長であまりに限定的なものなので、それに対応し、解く為の魔法が存在しません。対応するにはそれ以上の出力の魔力で『祝福』を行使すれば問題ないかと思います」


「それが出来ないから困っているのだ!数時間後には『祝福の儀』を行わなければならない。その間に術者や物を見つける事は可能なのか!?」


 ドナイスン侯爵は詳しそうなエアリスに詰め寄った。


 そのドナイスン侯爵をムーサイ子爵が押し留めた。


「落ち着いて下さい、ドナイスン侯爵!我々も今、城館内で怪しい者を探させていますから!」


「城館の外からの可能性も考えられるので、短時間で見つけ出すのは難しいかもしれないわ」


 エアリスはそう答えるとタウロの方をちらりと見た。


「ではどうしろと言うんだ!」


 ドナイスン侯爵は腹立ちまぎれにエアリスに食って掛かる。


「うーん……。僕は結界系は全く使えないから、対応する魔法を使えないからなぁ……。そうなると……、代理を立てるしか……」


 タウロがエアリスを庇うように前に出るとそう提案した。


「代理?」


「ええ、聖女の『祝福』っぽいものを使える代理です」


「っぽいだと?そんなものを使える者がいたら困っておらぬわ!」


 ドナイスン侯爵はタウロの身も蓋もない提案に怒鳴り返した。


「っぽいものならこのエアリスが使えますよ。『祝福の儀』ではその『っぽい』もので凌いで、その間に術者、もしくは物を発見すればよいかと」


 もちろん、それは嘘も方便でエアリスが聖女以上の『祝福』を使えるのだが、それを言うと大騒ぎになる。


 だからあくまでも「っぽい」ものなのだ。


「その『っぽい』ものとは、『祝福』と同じように光を発し、参列している者達の心を癒す事が出来るのか?」


 ドナイスン侯爵は、タウロとエアリスを交互に見て確認する。


「エアリスのものは光を発し、癒したように感じさせるだけの『っぽい』ものですが、参列者には効果があったと錯覚させるくらいには信じさせる事が出来ると思いますよ」


 もちろん、これも嘘である。


「そんな詐術の様な魔法があるのですか?──ドナイスン侯爵、今は背に腹は代えられません。彼の案で『祝福の儀』を乗り切り、その間に犯人を見つけましょう」


 ムーサイ子爵は、タウロの提案を支持した。


「……わかった。だが、どうやって聖女マチルダが使っている様に見せるのだ?」


「それは簡単ですよ。ヴェールで顔を隠してエアリスが代わりに『祝福の儀』に出れば済む事です」


 単純明快な答えであったが、その案にムーサイ子爵は賛同した。


「……なるほど、聖女と背丈は変わらないですから、影武者ですね。それなら何の問題もない!」


「だがな……、聖女が納得するかどうか……」


 ドナイスン侯爵が引っ掛かったのはそこだった。


「今、聖女は?」


「機嫌を損ねて部屋に閉じこもっておられる」


 ドナイスン侯爵は溜息を吐いて答えた。


「では、説明を一切せず、『祝福の儀』があるまで閉じこもっていてもらいましょう。それで解決です」


 タウロは、ニッコリと笑う。


 ドナイスン侯爵は「あっ!」と、目から鱗とばかりに目の前の少年の提案に驚かされるのであった。



 『祝福の儀』が粛々と行われた。


 本来なら半日かけて挨拶やら祈りやらと時間を掛けて聖女の『祝福』を厳かに見せる演出を行うところであったが、『聖女』本人が部屋に閉じ込められている事に気づいて騒ぎだす前に、早々に終わらせようという事で、予定を全て省いて聖女の『祝福』をすぐに行う事にした。


 エアリスは儀式用に用意された豪華な衣装にヴェールを付けて顔を隠し、参列する人々の前に現れる。


 初めてその姿を目撃する者達は、エアリスから漂う神秘的な佇まいに溜息を漏らす。


「ヴェールで顔は見えないが、何という気高く威厳のある姿なんだ……!」


「きっと、あのヴェールの下のお姿もさぞかし美しいに違いない……!」


「一枚の絵画を見ている様だな……!」


 そして、エアリス演じる聖女が、杖を天に掲げると、「参列している皆様に『祝福』を!」と、唱えた瞬間、まばゆい光が一帯を覆い、その光が参列する人々の身体を癒すように温かい何かを感じさせる。


「おお……!」


「これが……、『祝福』の力……!」


「聖女様……、万歳……!」


 人々は聖女が見せる、奇跡とも思える『祝福』の力に感動して、涙を溢れさせる者もいるのであった。


「これが詐術とは……!──これなら参列者を騙す事も容易だろう……、いや、しかし、見せかけのはずの魔法にここまで感動するとは……」


 ドナイスン侯爵はエアリスの姿と詐術のはずの魔法に心を震わせ、流れそうになる涙を拭うのであった。

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