46話 また、父
土砂降りの中、タウロは軒下でフードを目深に被ったままだった。
タウロは、嫌な予感がした。
ここにあの男がいる事もだが、住んでいた村で白い目で見られ、逃げてきたであろうこの村で受け入れられている。
よそ者を歓迎しない村で、だ。
嫌な予感がした。
小声でタウロはクゾートに声をかける。
「…ぼくの父親がいました。」
「…あの、か?」
クゾートはタウロと父親の安らぎ亭での騒動を知ってるのだろう、反応は短かった。
「…はい。」
二人のやり取りに、チークは何か察したのか見張り番の男が軒先に来ないか警戒した。
クゾートも索敵と、雰囲気でこの村が怪しいと感じてたのだろう、チークに目配せする。
チークは無言で頷くと、
「旦那、雨止みそうにないんで今日は魔物狩りは諦めて帰りますよ。」
「なんだ、もういいのか?」
見張りのバーンがあばら家から出てきた。
「暗くなる前に退散しますよ。だから、まけて貰っていいですか?」
「おいおい、値切るのかよ。」
バーンが大袈裟に言う。
「…わかりましたよ、じゃあ、3人分で銀貨3枚でいいですか?」
「そ、そんなに…、いや、仕方ないな、それで手を打つぜ。」
「じゃあ、どうぞ。」
チークが銀貨を3枚渡すと、3人は会釈してすぐその場を離れるのだった。
走りながら、クゾートが、
「値切りだした時は焦ったぞ!」
と、言い、低い笑い声を漏らした。
「素直に払ったら逆に怪しまれるんですよ。」
「でも、銀貨3枚も渡しましたよね?」
タウロが、軒先を借りるだけの代金にしては多過ぎると思って聞いた。
「いい気分にさせて、報告を遅らせたのさ。」
「それにしても、サトゥー君の親父がいたってマジかい?」
チークの疑問に即答した。
「間違いないです。」
タウロが答えるタイミングで索敵網を張っていたクゾートが
「…村の入り口付近に人が集まりだした。」
と、二人に報告した。
「…父、あの男が報告したのかも知れません、スピードを上げましょう。」
タウロが言うと、二人も頷き走る速度を上げた。
3人は索敵と気配察知を駆使し、雨の中、追っ手をかわし逃げ回った。
今は、雨が小降りになったころで、速度を落とし、近くの村にもよらず、夜通し歩き続けている。
「このまま、近くの村と街道の休憩所は避けよう。奴らの見張りがいるだろうから、夜中に飛び込めば警戒して逃げられる可能性がある。」
クゾートの提案に二人は頷き、三人は、サイーシの街まで直接戻る事にした。
戻った三人の報告に、ギルドはすぐ各方面に早馬を走らせた。
三人の報告が本当なら、その土地はいくつかの貴族の領境が接している。
討伐ひとつするにも問題が多かった。
こうなると動けるものは限られる。
王国直轄軍か冒険者ギルドだ。王国直轄軍は領境は関係ない、が、来るまでに時間がかかる、となると冒険者ギルドだ。各支部にも馬は出している。
各支部連合での、討伐になりそうな予感だった。
盗賊村の偵察にタウロは参加できなかった。
偵察は周辺の地形の把握、盗賊の人数、戦力、人質の有無なども調べ、監視もしなくてはならない。
それは探索よりも難しく、リスクも高かった。
タウロにはまだ早いというギルドの判断だった。
タウロは当初、探索クエストだけで、あとは、先輩冒険者達に討伐は任せるつもりでいたが、事情が変わった。
曲がりなりにも父親である男が盗賊の一味に身を落としているのだ、他人任せに出来る事案ではなかった。
もちろん、殺すとかではなく、事の顛末を最後まで自分の目で見届けなければならないと思ったのだ。
タウロの初めての盗賊討伐クエストが、今、始まろうとしていた。