44話 カレー屋計画
安らぎ亭の女将、レオ、タウロとで今後のメニューについて話し合いの場が設けられていた。
「カレーがとんでもなく美味しいのはわかったけど、採算がねぇ。」
女将が言いたいのは、香辛料の値段についてだった。
「珍しいから、王都経由でないと入手できないんでしょ?」
「そこはガーフィッシュ商会に、大量注文する事で経費を抑える事が出来ると思います。香辛料は長持ちするので、在庫として抱えてても問題ありませんから。」
タウロが自信を持って答えた。
それに、自分のマジック収納もある。
「なるほどね。採算が取れて安く提供できるなら、私としては文句はないよ。ところで、このカレーとやらは本当に美味しいから、別にお店を作って専門店にしてもいいと思うのだけど…、レオさん、向かいの酒場を買収して新たな店舗作る気はないかい?」
「向かいの酒場を?」
レオが意表を突かれたという顔をした。
「ええ、安らぎ亭は商売繁盛は嬉しいんだけど、これ以上品数を増やしてお客も増えると回らなくなるからね。」
確かに、ごもっともだった。
タウロが食べたいが為にメニューを増やして貰っていたが増えすぎると手間も増える、分散させた方がいいかもしれない。
「向かいの酒場の旦那は売ってくれそうか?」
「もう、歳だから、誰かに譲りたいとぼやいてたよ。」
普段から仲が良いらしい女将がすぐに答えた。
「なら、決まりだな。と、なるとあとは資金だが…」
「そこは、ぼくが出しますよ。」
タウロにはマジック収納を売却したお金があった。
「おいおい、大丈夫か?安くは無いぞ?」
レオはタウロが想像を超える多額の報酬を貰った事を知らなかった。
そして、マジック収納からお金の入った革袋を出しテーブルに置くと、
「はい、もちろん、投資なので売り上げから報酬は頂きます。」
と、答えた。
「その歳で、大金をポンと出せるのだから呆れるよ。」
レオと女将は大笑いするのであった。
酒場の旦那は、レオと女将から一括で大金を提示されると、即答で「売る!」と答えた。
よほど、楽隠居したかったようだ。
「ありがとな、女将、それに支部長さん。これで儂もゆっくりできるよ、最近は膝が悪くてな、立っているのも辛かったんじゃよ。」
酒場の旦那に感謝される形で商談は滞りなく終わり、契約は交わされた。
そして、1週間後にはリフォームが開始されるのであった。
タウロは相変わらずギルドの一室で寝起きしていた。
本当なら、E-ランクの冒険者で、お金もそこそこあるので、住まいを構えても良さそうなものだが、やはりまだ10歳の子供である。
レオとしても、今は目の届くところにいて貰う方が安心だという事だった。
一応タウロはネイにも相談したのだが、
「特に決めてないなら今の部屋にいても大丈夫じゃない?ちゃんと家賃も支払ってるんだから。ギルドも空き部屋がお金になるし、タウロ君を保護できるし、問題ないでしょ?」
という事だった。
マジック収納を得た今、荷物で部屋が狭くなる事も無いので、タウロとしてはこの便利な部屋は離れる理由はなかった。
そんな中、忙しいが比較的平和な日々の中、王国からギルドへのクエストが舞い込んできた。
王都からサイーシの街までの周辺のギルド支部全体に降りてきたクエストは、「街道の盗賊討伐」である。
内容はいくつかに別れていて「盗賊の探索」それに伴う「盗賊への偵察」そして、定員多数の「盗賊討伐」である。
タウロはどうするか迷ったが、盗賊の探索なら自分に向いてそうだった。
討伐となると、敵とはいえ相手は人だ、何が起きるかわからない。慎重に選んで損は無い。
ついでなのでネイに聞くと、
「探索は、定員9名、3人1組編成で3組を、サイーシ支部からは出す予定よ。」
と、教えてくれた。
他の人と組むのは初めてだったが、今から経験しておくと後に繋がるはずだ、タウロはクエストに参加する事を決断するのだった。