433話 パーティー当日
いよいよタウロのグラウニュート伯爵家の養子として紹介される盛大なパーティーが行われようとしていた。
領内の村長から街長、各ギルドの責任者や力を持つ商会の代表、それだけでなく近隣の貴族までもを招いている。
会場は、多くの有力者達で賑やかであった。
「領主様が選んで養子にしたほどの平民出身の嫡男か。そうすると活発な人物かもしれんな」
「きっと見目麗しいお子に違いない」
「噂では、王家のリバーシの指南役を務めていたとか」
「ほう……。王都で貴族の嗜みとして広がっている遊戯だな。という事は、聡明な人物か」
この日の為にグラウニュート伯爵家の養子情報を集めて披露する者もいたが、まさかそれが冒険者として、領内巡検使として自分達の村や街に現れた人物だと思う者は誰一人いなかった。
そんな中、隠れ村の村長も招待客の一人として紛れ込んでいた。
傍には、クロスとハクもいた。
ハクは、急に連れてこられて困惑していた。
村長の話では最初、領都に行く用事があるから、父を連れていくという話だった。
そして、一人ハクを留守にするわけにもいかないから、一緒に連れて行くと言われ、初めての領都に行けると喜んでいたのだが、領都に着いて観光した翌日には、貴族の様な豪華な服を着せられ、まさかの領主様主催のパーティーへの参加だ。
ハクは戸惑って父クロスに理由を問うたが答えてくれず言葉を濁された。
ハクはこれから何が起きるのかわからず、ただ、戸惑って父クロスの傍を離れない様にするのだった。
周囲の偉そうな人達の会話を聞いていると、どうやら今日は、領主様の嫡男をお披露目するパーティーらしい。
村長はその為に領都に来たのだ。
だが、なぜそこに自分が連れてこられているのだろうと、考えた。
もちろん、答えが出るはずもない。
それにこの領都に来る時は、多くの村民も一緒に来たのだが、その村民達はどこにいったのだろうか?
父にその辺りも聞いたが、「みんな仕事だ」としか答えてくれない。
ハクはこれから何か起きるのかもしれないと父や村長の気配から漠然とそう感じたがそれが何かまではわからないのであった。
パーティーは進行し、今回の主催者である、領主様の挨拶が始まった。
見ると、自分の髪の色と同じ人物だ。
普段は父にその髪の色は不吉だからと黒色に染めさせられ、目の色も同じ黒色にさせられていた。
だが、今日は髪の色も久しぶりに元の紫の髪に戻し、目の色も元の青色に戻っている。
その為か不思議と領主様に親近感を持ちながらハクは領主様の挨拶を聞くのであった。
「──長話はこの辺にして本題に入りましょう。皆様もご存じの通り、私と妻の間には子に恵まれず悩んでいましたが、そこにいる我が旧知の仲であるヴァンダイン侯爵殿の提案で、養子を迎える事に致しました。その子は私達二人にとって、とても大切な家族になってくれています。本当はもっと早く紹介するつもりでしたが、その子に領内を知って貰う為に旅をして貰っていましたので、みなさんも、もしかしたら出会った事があるかもしれません」
グラウニュート伯爵はそう勿体ぶった。
招待客である領内の村長や街長、各代表者達は周囲を見回した。
会った者がいるのか確認する為だ。
「そうなのか?私は会った覚えが無いな」
と、染物の村の村長。
「私はグラウニュート伯爵から、養子に迎えた嫡男について自慢話は聞かせて貰った事はあるが、会った事は無いな。名前はタウロと言うらしいが……」
と、ワーサン魔法士爵。
「「「うん?タウロ?」」」
ワーサン魔法士爵の周囲にいた村長達が、どこかで聞いた事がある名前に首を傾げた時だった。
「それでは、紹介致しましょう。グラウニュート家の新しい家族であるタウロ・グラウニュートです!」
グラウニュート伯爵が、タウロの名を呼んで、会場に招き入れた。
扉が開いた。
そこにはもちろん、タウロ本人が立っている。
会場の多くの村長や街長、各ギルドの責任者などは、扉が開くまで拍手盛大に迎え入れたが、その多くがタウロを見た瞬間、一斉に驚いた。
「「「「あの時の冒険者!?」」」」
それは、もちろん、隠れ村の村長も同様で、クロスとハクもタウロの姿に驚いた。
「ど、どういう事だ……!?」
隠れ村の村長は、味方として潜入しているはずの冒険者が領主の嫡男として紹介され、現れた事に混乱した。
クロスは、言葉を漏らす事なく、溜息を吐く。
全てを理解したのだ。
最初から、計画はバレており、グラウニュート伯爵の手の平の上で踊っていたのだと。
拍手の中、タウロは会場の真ん中を歩き、伯爵の元に向かう。
そのタウロが、クロスに意味ありげに視線を送ってくると、近づいて来た。
そして、一言、「悪いようにはしません」と、告げると、ハクの手を引っ張って、伯爵の元に二人で歩いて行く。
ハクは、タウロに手を引っ張られて困惑している。
隠れ村の村長は、慌ててそれを止めようとしたが、クロスが間に入って遮った。
タウロの言う通りなら、ハクは大丈夫のはずだ。
タウロを信じようと。
タウロは父グラウニュート伯爵の元にハクと共に着くと、頷いた。
それに伯爵も頷く。
「みなさん、こちらが、新しい家族であるタウロです。そして、こちらの少年は先代の遺児であり、私の歳の離れた腹違いの弟であるハクです」
拍手で包まれていた会場が、一瞬、ピタッと止まった。
「「「「え?」」」」
招待客は思わぬ言葉に思考が停止し、周囲の者と目を見合わせざわつく。
「この度、突然ですが、その年の離れた弟であるハクも私達の養子として迎える事に致しました」
「「「「えーーーー!?」」」」
招待客は示し合わせたわけでもなく、一斉に驚くのであった。




