432話 助っ人との再会
タウロ一行が領都に戻ってからは、秘密裏に父グラウニュート伯爵とパーティー当日の対応について話し合いが何度も行われていた。
もちろん、城館に出入りするのは、『姿隠魔法』でタウロ一人だったから、他のメンバーは宿屋で待機、もしくは、自由に領都で過ごしていた。
本番であるパーティーの三日前、この日もタウロは魔法を使って密かに城館から出て宿屋に戻る途中であった。
だが、姿が消えているはずのタウロを尾行する者がいた。
その事にタウロは『気配察知』で気づくのが遅れた。
領都の人の数は多い。
こんな人混みで、自分を尾行している人間を見つけ出すのは至難の技なのだ。
それに、その尾行者は、タウロに対して悪意が全くない事も原因であった。
タウロは不意に姿を隠しているはずの自分の背後を取り、肩を叩く尾行者に驚くのであった。
「やっぱりタウロ殿だ!」
タウロの肩を叩いた尾行者が、そう声を掛ける。
心臓が飛び出そうなくらい驚いたタウロは、振り返った。
そこに立っていたのは、これまで色々と同行する事が多かった竜人族三人組の一人、赤髪金眼のマラクだった。
「マラクさん!?──お久し振りです!でも、どうしてここにマラクさんがいるんですか?」
タウロは、『姿隠魔法』を解くと、懐かしい顔に質問した。
「ああ、丁度、暗殺ギルドの残党狩りの最中でここを訪れていたんです」
マラクは笑顔で答えた。
「え?まだ、暗殺ギルドの残党がいるんですか!?」
タウロは失念していた存在に驚いた。
「ええ。情報では北へ仕事に行っていて本部を留守にしていた暗殺ギルドの副首領とやらがこちらに戻ってきて、残り少ない残党を集結させているという事で、それを追って来ました」
「という事は、この領都にその副首領が来ていると?」
タウロはこの忙しい時に、暗殺ギルドの残党は計算外だったので頭を抱える思いだった。
「そのようです。現在、絶賛残党狩り実施中でして、『姿隠魔法』を使っている怪しい人物を見つけたと思ったらタウロ殿でした。はははっ!」
マラクは、緊張感無く笑ってタウロの肩を軽く叩いた。
「……なるほど。ちなみに他のみなさんは?」
「ああ、ズメイとリーヴァ、他にも何名かが、別行動で狩っている最中ですね」
「他にもそんなに来ているんですか?」
タウロは全く気付かなかったので改めて驚いた。
さすが竜人族というべきか。『アンチ阻害』能力を持つタウロにさえ、気づかれないで領都を縦横無尽に動き回っていたという事になる。
「数日中には、副首領とやらも狩れると思いますのでご安心下さい」
マラクが笑顔で答えていると、そこに金髪、金眼、美少年系の背が低いズメイがタウロとマラクの姿を発見して現れた。
「タウロ殿?マラクがさぼっていると思ったらタウロ殿じゃん!」
ズメイは、少年っぽい軽いノリでタウロに声を掛けた。
「お久し振りです」
タウロがズメイに挨拶をする。
「マラクから聞いたかもしれないけど、タウロ殿も気を付けてね」
ズメイはタウロの様子から話を聞いた後と察して簡単に注意喚起した。
「はい。──ちなみに残党はどのくらい残っている感じですか?」
「さっき、リーヴァが地下の施設で狩ったのを差し引いたら多分、副首領というのを含めて残り3人くらいかな?」
「お?リーヴァも数で並んだかな」
マラクが、ズメイの返答に反応した。
どうやら、みんなで競争しているらしい。
竜人族にゲーム感覚で追われている暗殺ギルド残党は、恐怖でしかないだろうな……。
タウロは想像してちょっとだけ同情するのであった。
「タウロ殿は、今何を?それに他の仲間はどうしているんですか?」
ズメイが、タウロ一人しかいないので聞いてきた。
「僕は今──」
タウロは、数日後のパーティーで行われる陰謀について説明した。
「──そんな事が……。ならば俺達も協力しますよ。こちらももうすぐ片付きそうですし」
マラクが協力を申し出た。
「それは本当に助かります。実は敵味方の判断がつかない者がいたりして、人選に困っていたので信用できる味方はありがたいです」
タウロは、思わぬ最強の助っ人集団の登場にこの上ない心強さを感じるのであった。
「──という事で、マラクさん達、竜人族のみなさんが十人ほどが、当日に裏方として対応してくれる事になりました。うん、これはもう、成功確定!」
宿屋に戻ったタウロはラグーネ、アンク、シオンが宿屋に戻ってくると報告して、ガッツポーズをしてみせた。
「竜人族のみんな、こっちに来ていたのか。でも、タウロには気づいて声を掛けて、私には気づかないとはどうゆう事だ?」
ラグーネが、日中、他の竜人族に遭遇する事が無かったらしく、のけ者にされたと思ったのか少し頬を膨らませ、拗ねるのだった。
「みんな任務で来ていたみたいだから、怪しい人間だけチェックしていたみたいだよ。僕は、『姿隠魔法』で身を隠して移動していたから発見したみたい。ラグーネに気づかなくても仕方が無いよ」
タウロは、ラグーネを励ます様に状況を説明した。
「それにしてもこのタイミングで、暗殺ギルドの残党が領都入りしているのもおかしくないか、リーダー」
アンクが、タイミングの良さを不審に思って指摘した。
「そうなんだよね。どうやらその副首領って、何か作戦の為に領都入りしたらしくてね」
タウロも、もしかすると、と思った様だ。
「……今回の件、全て繋がっているのかもしれないな」
ラグーネが二人の話を聞いて、みんなが心に過ぎった事を口にした。
「隠れ村の村長は、いつも『我々』と、表現していたのは、その副首領がその『我々』の一人という事でしょうか?」
シオンが、珍しく鋭い指摘をした。
「……そうかもしれない。ボーメン子爵領に隣接していたこのグラウニュート領が、手中に収められれば、かなり暗殺ギルドには都合が良かっただろうしね。もしかしたら、ボーメン領がお取り潰しになって暗殺ギルドの本拠地を失ったから、この地を新たな本拠地にする計画だったのかも……」
「村長はそんな感じしなかったぜ?」
アンクが、もっともな指摘をする。
「村長は手の平で踊っているだけなのかもしれない……。村長達、先代の遺児を当主にしたい人達を上手く煽って、まだ、若いハクをこの領地の当主にする。副首領達は、それを操ればいいだけだからね」
「そこに、竜人族が副首領達残党を追って来て、俺達と合流する事になったって事か?」
「ははは……。何とも運よく全ての点と点が繋がったものだ」
ラグーネが、あまりの強運な流れに苦笑いした。
「あ、これってタウロ様の能力である『豪運』の成せる業ではないでしょうか?」
シオンが、思いついた様に、指摘した。
もしその指摘通りだとしたら、『豪運』恐るべし!
タウロは、まさしく運要素である自分の能力に改めて戸惑うのであった。




