430話 情報の受け渡し
城館からラグーネ達のいる宿屋に戻ったタウロは、一部始終を簡単に説明して今後の方針を決めた。
それは、領都内を数日巡って情報収集をやっている様尾行に見せて、あとは適当に冒険者ギルドでクエストを受注する事であった。
「領都内で情報収集する事はわかるが、クエスト受注は意味が分からないぜ?」
アンクが、タウロの提案に首を傾げた。
ラグーネとシオンもそれは同じで、同じ様に首を傾げる。
「時間が勿体ないからいつも通りクエストしようかなって」
「そんな理由なのか!?」
ラグーネが呆れたように聞き返した。
「あとは、冒険者の情報網で当日のパーティーの情報を入手した、という言い訳にしようかなと。尾行してる二人は、僕らの不可解な行動に困惑するだろうけど、そっちの方がこちらから提供される情報に信憑性が生まれると思うんだ」
「まぁ、普通に領都内を巡る常識範囲内の行動だけでは、自分達にも入手できたはずと普通は解釈するだろうから、俺達の情報を疑うだろうな」
アンクが、相手側の立場に立って想像を働かせた。
「……なるほど。不可解な行動を取れば、相手は都合よく解釈してくれるというわけですね!さすがです、タウロ様!」
シオンはいつもの通りタウロを褒め称えた。
「時間を極力無駄にせず、やりたい事もやるというわけか。さすがだな!」
ラグーネもタウロのしようとしている事が理解出来て、大きく頷いた。
「という事で数日の間は、みんな領都内を適当に巡ってね」
「それはそれで、いい加減だな」
アンクが苦笑して応じた。
「アンクは普段通り酒場や娼館に行ってくれればいいから」
「お、おい、リーダー!それは言わない約束だろ!」
アンクがラグーネとシオンの女性陣を気にして慌てふためいた。
「はははっ!なんだアンク。私は全然気にしないぞ?ちょっと、距離を置くかもしれないがな?」
ラグーネはそう言うと少し、アンクから距離を取る。
多分冗談だろうが、アンクには効果抜群であった。
「ラグーネ……、勘弁してくれ……」
「ア、アンクさんも男ですから、ボ、ボクも、気にしないです!」
シオンの方は想像したのだろう。赤面してしどろもどろになって答えた。
「リーダー……。俺だけ大やけどじゃねぇか……」
アンクは恨めしそうにタウロを見た。
「ご、ごめん。忘れてたよ。……二人共、アンクも男だから、わかって上げて」
タウロのフォローは、アンクが可哀想な人の様な感じに聞こえたから、これにはアンクも抗議した。
「リーダーもいい歳になれば俺と大差ないからな!」
「アンクさん、タウロ様を貶める様な事を言わないで下さい!」
今度はシオンがタウロを庇ってアンクに抗議する。
「アンクもシオンも落ち着いて。ともかく、これから数日はみんな自由行動で領都内を動き回って。そして、後半は普段通り冒険者ギルドに通って、クエストするからよろしく!」
タウロは自分が蒔いた種を慌てて回収した。
アンクとシオンは納得していない素振りであったが、頷くと数日を尾行を気にする事無く自由に過ごすのであった。
二人しかいない尾行は、一人は『黒金の翼』のリーダーであるタウロには常時ついていた。
もう一人は、アンクとラグーネを交互に尾行する形で監視を続けていたが、タウロ一行の行動があまりに普通過ぎて疑い始めていた。
そこへ来て冒険者ギルドでクエストの受注である。
尾行二人は、タウロの思惑通り、この不可解な行動を理解出来ずにいた。
「どういう事だ?今日は結局、他所の村の畑を荒らす魔物退治で終わったぞ?」
「いや、退治後、村長と長い事話をしていた様だ。きっとそれが今回の情報入手の目的だったのではないか?」
タウロ一行はただ、クエストを完了して村長に感謝され、それで世間話をしていただけなのだが、尾行二人は自分達に都合よく解釈して納得しようとしていた。
まさか、タウロ達が情報収集をする必要が無いから時間を潰しているだけとは全く思わないのであった。
この様な感じで、タウロ一行は適当に期日であるパーティーの十日前までの時間を過ごした。
「情報入手する約束の日まであと三日あるけど、早めに村長のところに報告に行こうか」
タウロは、冒険者ギルドでクエスト完了の報告をすると、メンバーにそう答えた。
「ちょっと早すぎないか?」
アンクは、タウロの判断に首を傾げた。
「その辺りは適当に理由つけるよ。はっはっはっ」
タウロは笑って、言葉を濁すと一同は隠れ村の村長のところまで報告に行くのだった。
「期日にはまだ余裕がありますが、もう情報は掴んだのですかな?」
村長は、尾行からある程度報告を受けているのか疑いの目をタウロに向けていた。
「はい、早くなったのは、最近、誰かに尾行されている様なので早く情報をお伝えして、この仕事を終わらせた方が良いだろうという判断です。それに村長が求める情報は十分得たのでこれ以上は調べる必要もないかなと思いました」
タウロは何気に村長が差し向けた尾行のせいにしてみせた。
「な、なるほど、尾行ですか!それは仕方ないですな。きっと相手も周囲を嗅ぎ回るタウロ殿達に気づいたのかもしれない。──それでは、入手した情報とやらを教えて頂けますかな?」
村長は、無意識に尾行については追及しなかった。
なにしろ自分のところの尾行である事がわかっているのだ。
村長は危惧する事無く話を進めるのであった。
タウロは、その事を指摘する事無く、マジック収納から情報の書かれた紙の束を村長に渡した。
「こ、これは!想像以上に細かい情報ですな……!うちの方でも実は調べさせていたのですが、ここまでの情報は集められませんでした。内部にいる協力者よりも正確そうだ!」
村長は、渡された情報の束を一つ一つ確認すると素直に驚き喜ぶのであった。
そんな反応を見ながら、
協力者?やはり、いたのか……。正確な情報を用意しておいて良かった。念の為、警備隊の隊長にも全体情報は渡していないと父が言っていたから、こちらの方がどこよりも正確なのは当然だろうけど……。
と、タウロは、内心冷や汗をかきつつ、一応は想定の範囲内だった事に安堵するのであった。
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