38話 王子とのファーストコンタクト
王子への指南当日の朝。
宿屋前には商会の馬車は無く、代わりにそこには、王宮から来た、白を基調にした彫り細工も鮮やかな馬車が一台止まっていた。
ドアには王家の象徴であるグリフォンの紋章が入っている。
宿屋の従業員も、通行人も、この異様な光景に立ち止まり、くぎ付けになった。
10歳の少年を王家の紋章入りの馬車が迎えに来ているのだ。
何より当人であるタウロが驚いていた。
てっきり王城の前までは商会の馬車で行くとばかり思っていたのだ。
王城まではそっとしておいて欲しかった。
「タウロ・サトゥー様、お迎えに上がりました。」
早くこの場の雰囲気から逃げたいタウロは、恭しく頭を下げる迎えの人に「すぐに、行きましょう!」と、答えるとミーナを急かし、そそくさと馬車に乗り込むのであった。
馬車は王城の中を進む。
通常なら王城内の馬車移動は許されていないが、王家の馬車だけはそれが許されている。
それは迎えに来てくれた人、仮にセバスさんとしよう、が説明してくれた。
そこはみんなと一緒に歩かせて!
これ以上特別扱いされたくないタウロの心の叫びだった。
「到着しました。」
到着すると城内をセバスの先導で奥に通される。
歩いていると時折、騎士や、メイドにお辞儀をされる、勘弁してほしい。
こっちは農民出身の庶民だから!
タウロの心の叫びをよそに、冷静なミーナもさすがに騎士にお辞儀されると無視できないのか、お辞儀を返していた。
やはり戦士として騎士には憧れがあるのだろうか?
そんなミーナがちょっと、かわいいと思った。
「ここから奥は、従者の方にはご遠慮して頂きます。」
セバスが、入口に立っていた男性に待合室にミーナを誘導するように指示する。
「じゃあ、ミーナ、また後で。」
「わかった。」
頷くと男性に従い待合室に入っていった。
「それでは、サトゥー様はこちらです。」
セバスが奥へ促した。
重厚なドアの前に立つ。
ノックをすると
「入れ。」
と短く子供の声がした。
「失礼します。」
ドアが開くとそこにはフルーエ第五王子が、窓からの光をバックに立っていた。
シルエットで直ぐにフルーエ王子がエルフの血が流れているのがわかる。
耳が尖がっていたのだ。
ただ、普通のエルフのイメージと違って、ぽっちゃりしていた。
「なんだ、本当に子供だな。何歳だ?」
室内に入るなり、尊大な態度で質問してきた。
「10歳です。」
これは、苦手なタイプかも知れない、と思いながらタウロは答えた。
「僕より3歳も年下じゃないか。」
年齢でマウント取ってきたぁ…!
こうなると、タウロも容赦ない。
王子が言う事を我慢して適当に聞き流し、リバーシの指南に移ると王子をコテンパンにした。
大人げないけど子供だから、許されるはずだ。
タウロの内心はさておき、何度やっても勝てないので、フルーエ王子が泣きそうな顔になった。
普段臣下達は負けてくれるのだろう、
「お前強すぎるぞ、僕はほとんど負けた事がないのに!どんな手を使ったんだ!?」
ズルだと言いたいらしい。
王子を泣かせるわけにもいかないのでコツがある事を教えた。
「それで宰相のバリエーラを倒したのか!」
先日の勝負を耳にしてたらしい。
「僕に勝った宰相が、負けたと聞いて耳を疑ったが、なるほどそういう技があるんだな!」
王子に数少ない負けを付けたのは宰相閣下だったようだ。
先日の事といい、子供に容赦がない人なんだとよくわかった気がした。
「よし、サトゥー。バリエーラに勝ちたい、それを教えろ!」
最初、尊大だった王子も言葉遣いは変わらないが雰囲気は良くなっていた。
どうやら、手加減しなかった事が逆に良かったようだった。
「わかりました、宰相閣下に勝ちましょう!」
子供に容赦ない大人は子供には敵である、意気投合する二人であった。