371話 報告とお迎えに
ヴァンダイン侯爵領にいるエアリスに会う為に、一人旅に出かけていたラグーネだったが、あちらに数日滞在後、『次元回廊』ですぐ、カクザートの街に帰って来た。
「お帰り、ラグーネ。まだ、あっちでゆっくりして来ても良かったのに」
「い、いや、いいのだ。私はエアリスの元気な姿を確認しに行っただけなのだ!」
ラグーネが何かを隠す様に慌てて答える。
「?」
タウロはラグーネの不審な反応に疑問を持つ、何かあっちであったのだろうか?と。
「そうだ。エアリスは元気にしてた?」
「あ、ああ、もちろんだ!エアリスは新しい生活、いや、以前の生活に戻っただけだと言っていたが、穏やかな表情をしていたな。あれはあれで幸せそうだったぞ」
ラグーネは、奥歯にものが挟まった言い方をする。
「……そうか。それなら良かったよ。元気にしているなら何よりだね」
タウロは笑顔で答える。
「そうだ、エアリスの双子の弟と妹がとてもかわいくてな。あれは将来、美男美女になると思う。おもり役には頼もしい人が付いてるし、あちらは心配の必要はないな」
ラグーネは一人納得したように頷く。
「頼もしい人?」
タウロは、聞き返す。
「あ、ああ。実はヴァンダイン侯爵領に向かう際、竜人族の先輩達を三人連れて行く事になってな。その三人が今、エアリスの元にいるのだ」
「なんだ、じゃあ、ラグーネは一人旅じゃなかったのか」
アンクが横から、割り込んで来た。
「私は誰も一人旅とは言っていないぞ?」
「俺達を置いて行って向かえば、そう思うだろ」
アンクは、自分達の同行を断った事を気にしていたのだ。
タウロも少しは気にしていた。
自分達がついて行くとエアリスが嫌がると思ったのか、ラグーネが一人になる時間が欲しいと思ったのか、色々可能性は頭をよぎったが、一人になる時間が欲しかったわけではないらしい。
二人だけで話をしたかったのかもしれないが、それは二人の問題なのでタウロは聞かない事にした。
「とにかく、先輩方を連れて行く事になって、あちらに滞在する事になったから、エアリスやその家族は安全なのだ」
ラグーネはそう答えると、ヴァンダイン侯爵領がとてもいいところだったと話し始めた。
その間、ラグーネの言葉に、タウロは一つの疑問に囚われた。
安全……か。ラグーネは暗殺ギルドの残党が何かのきっかけでエアリス達に危害を及ぼすと思ったのかもしれない。それで、竜人族を連れてヴァンダイン侯爵領に向かった。でも、なんで仲間の僕達に秘密にする必要があるのだろう?
疑問だらけの推測で根拠があまりに乏しかったが、何やらラグーネが気を使っているのはわかったので、その事について聞かない事にしたのであった。
ラグーネの土産話が一息つくと、ふとアンクが、ある重要な事を思い出した。
「……ひとつ大事な事をまた、忘れていたんだが……、シオンは大丈夫なのか?」
「「あ!」」
タウロとラグーネは思わず、声を上げた。
予定通りなら、今頃、シオンは、『竜の穴』というところで竜人族用の修行カリキュラムを受講しているはずだ。
「くっ、殺せ!」
ラグーネが思わず地獄の日々を思い出しのかそう漏らす。
「……そろそろ迎えに行こうか。流石にこれ以上預けるのはシオンも竜人族の方々にも迷惑かもしれないし」
「迷惑ではないと思うが、確実にシオンは地獄を見ていると思う……」
ラグーネが、遠い向こう側を眺める目つきでそうつぶやいた。
「……ははは。急いで迎えに行こう……」
タウロは、ラグーネに『次元回廊』を開いて貰うと、タウロの『空間転移』でアンクと一緒に移動するのであった。
「お?タウロ殿、アンク殿、いらっしゃい」
ドラゴが丁度、庭の植物に水をやっているところに、タウロ達が現れた。
続いてラグーネも現れる。
「ドラゴさん、こんにちは。今日はシオン君を迎えに来ました」
「ああ、それはタイミングが悪かったですね。シオンは今、『竜の穴』の修行の一環でダンジョンに潜って調整中なので三日は戻ってこないかと思います」
「調整中……ですか?」
何を調整するのだろう?と、疑問に思うタウロであったが、
「ああ、『竜の穴』の教官はそろそろタウロが迎えに来ると予想していたのだな」
と、ラグーネは兄ドラゴの返答に納得した顔をする。
「……調整って、何だ?」
アンクが、素朴な疑問をラグーネに聞く。
「それはだな。『竜の穴』で精神面がかなりやられて感情がかなり奪われてしまうから、ダンジョンで生死の境をさ迷って貰い、生きている事を再確認する事で元の感情を取り戻すというものだ。通常、数年の修業期間だと、調整にひと月はかかるのだが、今回は短いからそのくらいの調整なのだろうな」
ラグーネが、アンクに説明しながら頷く。
なんかヤバい事、言ってるよね!?
タウロは内心、ツッコミをいれるのであったが、とにかく人として戻ってくる事は確かなようだ。
とはいえ、想像以上にとんでもないところにシオンを預けた事に、心苦しくなるタウロであった。
「そうだ。三日あるなら、族長さんにも会って暗殺ギルド殲滅に力を貸してくれた事をお礼言わないと」
タウロは、大事な事を思い出した。
「ああ、その事ですか。族長は気にはしていないと思いますよ?ですが、挨拶に行くのは良い事ですね」
ドラゴもそれに賛同する。
そう会話していると、いつも通り守備隊がやってきた。
「タウロ殿達いらっしゃい。今日はどうなされました?」
「あ、お疲れ様です隊長さん。今から族長に挨拶に行きたいのですが、いいですか?」
「もちろんです。案内しますよ」
そう守備隊長は答えると、タウロ達を先導する。
「じゃあ、行ってきます、ドラゴさん。あと、泊まりたいので部屋いいですか?」
「もちろんですよ。お待ちしています」
ドラゴはそう答えるとタウロ達を見送るのであった。




