37話 王都散策
宰相や、貴族達との嵐の様な一日が過ぎ去った翌日。
今日は、とりあえず、休みである。
朝早くに宰相の使いから、明日、王子と面会の予定を伝えられた。
それだけに、今日はゆっくりしたいタウロだったが、ミーナは自分の護衛なので隣で待機している。
1人、部屋でゴロゴロしていたら、ミーナも動けない事になる。
「…王都を散策するか。」
悩んだ末、タウロはミーナに声をかけ、出かける事にした。
「ミーナさんは何かいるものありますか?特に目的地無いので寄りますよ。」
歩きながらミーナに聞いた。
「商会には寄らなくていいの?」
「商会のみなさんは、明日、リバーシの発売を前に準備が忙しいそうなので、寄ったら逆に気を使わせるので止めておこうかと。」
「そうね、親や弟にお土産も買いたいけどまだ滞在日数あるし…。」
「弟さんがいるんですね。」
「うん、タウロと同じ歳だよ。」
「そうなんですね。弟君はミーナさんがお姉さんで自慢でしょうね。」
「弟はタウロのファンなのよ。人形劇も何度も見てるから、自分も早くタウロみたいな冒険者になりたいってうるさいくらいよ。」
「ファン!?ぼくのですか!?」
びっくりである。
大袈裟な内容の人形劇を見て誤解したのだろう、嬉しいが困った。
「取り立て屋を追い返すシーンなんか銅貨を使って再現してるわよ。」
ガーン
あの話も広まってるの!?あれは厨二病的だったから、思い出す度に恥ずかしい気持ちになるのに!
と、心の中のみならず、赤面するタウロであった。
王都はとにかく広い、多い、そして、大きい。
大きい広場には多くの人が集い、何か祭りでもあるのかという程で、出店も立ち並び活気に満ち溢れている。
その周囲を囲む道路も広く、馬車が引っ切り無しに走っている。
タウロ達はその大広場を徒歩で横断して宿屋で聞いた魔道具通りに向かった。
ミーナの希望である。
サイーシにも魔道具店はあったが、やはり王都は規模が違う。
見て回るだけでも、何日かかるかわからない。
二人は大きいお店を見つけると入ってみた。
「いらっしゃいませー。」
と店員が迎える。
タウロは店内を見回すとその魔道具店の商品はひとつひとつ、丁寧に展示されていた。
手に取って見れるような代物ではない。
入るお店間違えた!
店内の雰囲気にタウロは自分達が場違いである事を悟った。
「…うん?これって…!」
正面の台座にひとつのリュックが置いてある。
商品名は『マジック収納(大)リュック型』で、『価格は近くの店員にご確認下さい』、と値札部分に書いてある。
「そちらは当店自慢の商品でして、かの高名な伝説の魔道具師、ジャン・フェローの作で、白金貨10枚の一点物となっていまーす。ふふん。」
小汚い子供が来たというように店員は、お前に買えるのかという雰囲気を醸し出していた。
気配察知でもいい感情を向けられていないのがわかる。
だがそんな事はどうでもいい、白金貨は1枚、前世の価値で1000万円、つまり10枚で、1億円である。
真眼を使うとその価値は白金貨7枚程度と表示される。
3割はこのお店の諸経費などを考えると利益はそこそこのはず。意外に良心的なお店かも知れない。
だが今はそれよりも、この商品そのものが問題であった。
タウロはまさに、子供がガラス越しに欲しいおもちゃを見つめる様に身を乗り出していた。
マジック収納は、ファンタジーもののお約束である。
タウロが欲しいもののひとつだった。
「大きいのは要らないから、小さいのある?」
脇で見ていたミーナが、店員に聞き返した。
価格に驚かず、店員に聞くミーナにタウロは驚いた。
「買うの、ミーナさん!?」
「見るだけよ、価格や性能、デザインを知っておきたいじゃない。」
それは、買わないけど見せろと、傍で聞いている店員への宣言だったが、悪びれる事なくミーナは言った。
「…わ、わかりました2階へどうぞ。」
気圧された店員は二人を2階に案内するのであった。
二人はその後、色んな商品を見るだけ見ると、堂々と何も買わずに出ていった。
「ハハハハハ!ミーナさん度胸あり過ぎです!」
「後半はタウロも楽しんでたでしょ。」
こうして二人は、休みを満喫したのであった。




