36話 疲れた一日の終わり
宰相による鑑定は続いた。
「…ふーむ。おかしいな。これまでも文字化けスキルは鑑定してきたが、この文字化けは元が何のスキルか解読できない…。」
宰相は眉をひそめた。
「…それはつまり?」
タウロは確認する。
「私のS-以上の鑑定でないと解読できないスキルという事になる…。普通は覚えた能力や、ステータスの上昇の傾向でどういうスキルか予測する事も出来なくはないが、先程も言った通り、サトゥーは複数の職業で熟練度が上がっている。これではスキルの予測が出来ない。もし、武術系の職だけで複数なら、聖騎士や勇者、英雄なども予想できるのだが…、お主は鍛冶屋に、木工、薬剤師など、関係ないものも複数熟練度が上がっている。こんな上がり方は私の人生でも鑑定した事が無い。」
タウロの不思議な成長度合いには、宰相も匙を投げた。
多分王都でも随一の鑑定スキルを持つであろう、宰相に匙を投げられては、自分ではどうしようもない。
だが、悲観する事は無い。
熟練度は上がるのだそれも複数。
神様はちゃんと良い、特殊スキルをくれたのだ。
それを考えると恵まれたスキルであると確信できた。
能力解放の条件が困難過ぎるのが難点だが、いつも通りコツコツ努力を重ね、のんびりやっていけばいい。
「それでは鑑定は終わりだ。サトゥーは稀有なスキルの持ち主の様だが、多数の職業熟練度は、その年齢の割には高い方だろう。突出した物は無いが、努力家とみた。怪しいものは無いし大丈夫だろう。」
そう言えば、ある方とやらの代わりに品定めすると言ってたっけ、と、タウロは思い出した。
「サトゥーには、王子殿下の指南役を請け負って貰う。殿下がどうしてもと聞かなくてな。殿下に週1で指南してくれ。他の日は、私達やここの子息らにも頼む。」
「お、王子殿下!?」
まさかの王族である。
それに、
何か『貴族の嗜み』、みたいになってない!?庶民の娯楽のつもりだったのに…。
と、状況が大事になってきている事に、目立ちたくないタウロは、頭が真っ白になりそうであった。
「安心せよ、報酬はちゃんと見合うだけ支払う。」
そういう事じゃない!とツッコミたいタウロだった。
貴族達の集まる魔窟から解放され、タウロ達は宿屋まで送り届けて貰った。
時間はもう、夕方である。
ずっとタウロの側で空気になっていたミーナが、
「ご苦労様。」
と、労ってくれた。
「はい…。」
「だけど次は王子様が相手よね。」
茶化してるつもりか、真剣なのかわからない抑揚でミーナが言う。
「…はぁ。…今はその事は忘れたいんですけど…。」
ため息をつき、そう答えながら、宿屋に入る。
タウロとミーナが帰ってきたのを従業員がすぐ気づき、
「お帰りなさいませ、お客様。お食事の準備をしましょうか、それともお風呂の準備を?」
と、確認してきた。
「ミーナさんはどうしますか?」
レディファーストだ、タウロはミーナに質問を振る。
「食事の後お風呂がいいかな。」
「食事はどこで食べますか?ぼくは部屋でゆっくり食べたいんですが。」
「うん、私もそれでいい。」
「じゃあ、それでお願いします。」
「かしこまりました。」
従業員はそそくさと奥に入ると
「タウロ様とお付きの方の食事の用意をお願いします!お部屋でお召し上がりになります。お風呂もその後、入られるので今から準備お願いします!」
という声が表まで聞こえてきた。
「じゃあ、ミーナさん、今日も一日、ぼくの護衛お疲れ様でした。」
「うん、タウロもお疲れ様、ゆっくり休むといいよ。」
宿屋は夕食の時間帯、従業員が忙しく動き回り、色んな準備の音が、部屋に戻る為、階段を上がるタウロの耳にも届いてくるのであった。