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【完結】自力で異世界へ!~優しい仲間と一緒に異世界生活を満喫します~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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349話 悪党達の末路

 カクザートの街から、眼下に広がる塩湖では、冒険者による火焔蟹討伐が日々行われる事でその数も減少し、塩生産業者も復興の為の作業を始めようと動き出していた。


「思った以上に塩生産業者のダメージは大きいみたいですね」


 タウロは義父であるグラウニュート伯爵との食事の席で、カクザートの街の今後について話題になったのでそう聞いた。


 現在、伯爵はカクザートの街を治める為の代理を領都より呼び寄せているところであり、それまでの仕事は伯爵自身が陣頭指揮を執っていてかなり忙しそうであった。


「事は聞いていた以上に深刻なのは確かだな。周辺施設はほぼ全焼しているものが多いから建て直しが必要だし、施設が整っても離れた従業員も多いだろうから呼び戻したり、新規に雇い入れないといけない。新規だったら一から仕事を教える期間があるし、そうなると生産まで時間が掛かる。一応、今は在庫を出す事で塩が高騰する事を防いではいるが、その在庫もいつまでも持つわけではない。新たな生産開始までの間に塩不足になって、この領地のみならず、北西部一帯が混乱する可能性もあるな」


 伯爵もタウロには重大な情報も包み隠さず答えた。


「……やはりそうなると塩作り作業の製造過程が簡略化がされると効率が上がり、その混乱も未然に防げますよね?」


 タウロは何か思いついたかのように質問する。


「それはもちろんだ。この街での塩は、カクザート塩田方式というやり方なのだが、粘土板の上に砂をまき、その上に湖水を撒いて蒸発させて砂表面に塩を析出させ、その砂を集めて湖水で溶かしてかん水をつくり、釜で煮詰めるという方法を用いている。手間のかかる作業だから出荷するまでの時間はどうしてもかかる。それが、短縮出来たら在庫が無くなる前に生産が追いつくと思うが……」


「僕にいい案があります。上手くいけば、工程の大部分を短縮する事が出来るかもしれません」


 タウロはそういう答えると、マジック収納からこぶし大の球体を出して見せた。


「それは何かの魔道具かな?」


 伯爵は机の上に置かれた魔法陣の模様が入った球体を不思議そうに眺めた。


「これは、水をろ過する為に作った魔道具です。これを水中に入れる事で汚れを吸着させ、水を綺麗にするのですが、魔法で飲み水には困らないので試作の段階でそのままになっていました。これを汚れではなく塩を吸着出来るようにすれば……」


「──!あとは乾燥させるだけ……、という事か!?」


 伯爵が驚いてタウロを見つめる。


「はい。その変更くらいなら簡単なので、その術式で試作を作りたいと思います。それがもし使えそうなら無償で塩生産業者に貸し出しましょう。それで前街長の失態を少しはカバーできるかと思います」


 そうなのだ。街長の失態はそれを放置していた領主にも責任があるのだ。


 伯爵はタウロの気遣いに気づいた。


「あとは、施設の建設費用を金利無しで貸し出して上げれば、資金繰りに苦労している各商会の手助けが出来て、復興は早いかと思います」


 タウロが続けてそう提案する。


「忙しさにかまけて、そこを忘れていたよ。よし、すぐにもコロン準男爵から没収した財産から資金を出させよう!──そして、我が息子タウロ。ありがとう。私はこんな優秀な子を息子に迎えられて嬉しいよ」


 グラウニュート伯爵は、優しい笑みを浮かべると喜んで見せた。


「いえ、僕も感謝していますから、少しでも力になれたら光栄です、父上」


 その優しい笑みに答える様に、タウロは笑顔で応じるのであった。


「……そうだ。──コロン準男爵を始めとした人達の処分はどうなったのですか?」


 タウロは新たな仲間であるシオンの証言と証拠によってその罪が立証された者達の処罰について質問した。


「フート・コロン準男爵……、いやコロン元準男爵はその罪からその爵位を取り上げ、平民に落とす事になる。その上で冒険者を使って犯した罪を鑑み、彼の死罪は免れない。そして、冒険者『灰色禿鷹』の者達もこれまでの罪に加え、禁忌である隷属魔法の使用などから、彼らも死罪だ。最後に冒険者ギルドの副支部長だが、こちらは重犯罪のもみ消しを主導していた事を重く受け止め、冒険者ギルドからも重い処罰を求められている。こちらはまだ牢屋に収監して裁判を行っていない。冒険者ギルド本部側が引き渡しを求めてくる可能性が高いだろうからな」


「引き渡しですか?」


「今回の副支部長の行為は冒険者ギルド全体の信用に関わる重大事件だから、王都で大々的に裁判を行い処分したいだろうと見ている。だから副支部長に関してはこちらで処分を決定していないのだ」


 伯爵は冒険者ギルドの体面を守り、さらに恩を売る選択をしたのだ。


 この辺りはやはり、中立派の有力貴族の名は伊達では無く、実にしたたかな判断だった。


「なるほど……。勉強になりました。──そうなると王都の裁判ではシオン君の証言も必要になるのでしょうか?」


 タウロは、また、一度王都に戻るなくてはいけなさそうだと思った。


「シオン?──ああ!あの彼らの罪を証言した少年か。そう言えば不思議な雰囲気のある少年だったが……」


「実は、その少年を『黒金の翼』に迎える事にしたんです」


「そうか!……あの少年に居場所を作って上げたのだな。私も少し気になっていたから、親としてその判断をした息子を誇らしく思う」


 グラウニュート伯爵は、そう言うと満面の笑みになり、グラスのお酒を飲み干すのであった。


 父である伯爵の、息子の優しい行為を喜ぶ姿にタウロは、


 強くなって貰う為に竜人族の村に置いて来たとは流石に言えない!


 と、今頃、地獄を見ているかもしれないシオンを想像して、その事は絶対、口にできないのであった。

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