339話 街長邸潜入
タウロ達は『塩湖亭』での情報収集の翌日から、街長の横領の証拠を集める為に動き出した。
と言っても大部分はタウロ個人であったが。
タウロは、『魔力操作(極)』と、新たに覚えた能力『多重詠唱』を駆使して、3つの魔法を同時且つ精密に使用する事で可能になる、自らの姿を自然に同化させる伝説の姿隠魔法を実現させたから、それを使って街長邸に易々と侵入したのだ。
『気配遮断』の能力も持っているからほとんどの者はタウロに気づく事はない。
こうしてタウロは執務室や経理担当の役人が作業する部屋を出入りして、帳簿を探して回った。
「……。(やっぱりどこかに隠してるみたいだなぁ……。)」
タウロは裏帳簿が存在するはずだと睨んでいたが中々発見できなかった。
「……。(うーん……、無能と言われている割に隠し場所はちゃんと考えているのかな?)」
タウロは誰もいない執務室内でその姿を隠したまま、一人首を傾げて困り果てるのであった。
そこへ、執務室の隣の応接室から、
「増えすぎた火焔蟹を減らしてくれたのは助かるが、全て駆除されたら領主に納める税が少ない言い訳が出来なくなる。そろそろ、その他所から来た冒険者には出て行って貰わなければいけないぞ!こういう時の為に、貴様らを雇っているのだ。C+ランクが伊達では無い事を証明して見せよ!」
と言う、街長であるコロン準男爵と思われる男性の声が聞こえてきた。
「旦那。俺らがどんなに苦労しているかわかりますか?地元ギルドの冒険者連中に圧力をかけつつ、よそ者の冒険者にも寄り付かれない様に副支部長に金を握らせて色々動いて貰ってるんですよ。経費が掛かって仕方がないんです。今回のよそ者も追い出すには副支部長にまたお金を握らせないといけません」
話し相手はどうやらこの街の冒険者最高ランクであるC+チーム「灰色禿鷹」の誰かの様だ。
「ふん!相手はD+チームなのだろう?貴様らが直接脅せば済む話ではないか。私が何も知らないと思って貰っては困るな。副支部長から情報は上がっているのだよ!」
「へへへ、こりゃ参った。副支部長と直接通じていたとは人が悪い。──わかりました。そのD+チーム……『黒金の翼』だったか?は、うちで脅しておきます。ただし、火焔蟹の繁殖にはごろつきどもを雇って経費は掛かっているのでその分はしっかり出して貰いますよ?」
「そのごろつきどもが魔物を増やし過ぎたから、よそ者が討伐しに来たのだろうが!塩湖周辺の塩生産工場は軒並み魔物に建物を焼かれて大損害で私への不満も募っているというし、私の懐に入るものも入らなくなる。どうしてくれるのだ!」
「街長様、元々言い出しっぺは旦那でしょう?我々はその命令で魔物をよそから仕入れて塩湖に放ち、増やしただけですよ。──わかりました。今回はサービスで動きますが、ごろつきを動かすことになるかもしれないのでその分はよろしくお願いします」
話が終わったのか応接室の扉が開いて男達が出てきた。
タウロはその男達の顔を覚える。
リーダーはスキンヘッドで眉毛に傷跡がある、黒目の男。
出で立ちから盗賊職だろうか。
やはりC+冒険者だけあって雰囲気のある男だ。
他のメンバーは4人で、戦士に剣士、魔法使いに荷物持ちで構成されていた。
でも、思ったより強そうな感じしないな……。いや、駄目だ駄目だ。敵を侮っては足を掬われるから油断せずに臨まないと。
タウロは、自分にそう言い聞かせると、一旦、街長邸を離れ、その付近で待機するラグーネとアンクと合流する。
「お?リーダーが戻って来たみたいだ」
姿隠魔法で姿が見えないはずのタウロをアンクは認識すると、ラグーネに知らせる。
「タウロが?──どこにいるのだ?」
ラグーネには全く見えず、疑問符を頭に浮かべる。
「ここだよ」
アンクの隣の空間から声がしたと思うと、タウロが姿を現した。
「わわわ!?……タウロの姿隠魔法は心臓に悪いな……」
ラグーネが胸を押さえる素振りを見せた。
「ごめんごめん。──それにしてもアンクはよくわかったね?」
タウロはアンクの視覚系スキルに感心した。
「まあな。この”目”があるから視覚阻害系能力にはかなり対応できるんだが……、リーダーのその姿隠魔法に関しては実際のところ、俺もあんまりはっきりとは視界に映っていないんだよな。正直、ぼやけた輪郭しか捕らえていない。きっと、俺の能力以上のレベルの魔法なんだろう」
目には自信があったアンクもどこか悔しそうだ。
「そっか。じゃあ、僕も今後、敵に同じような能力者がいる事も考えて使い方を考えないといけないね」
タウロは、アンクの話を聞いて自戒するのであった。
「ところで証拠は見つかったのかい?」
ラグーネが今回の目的の成果を訪ねた。
「それは駄目だったけど……。でも、それ以外の成果はあったよ。あとは宿屋に戻ってから話そう」
タウロは、二人にそう答えると宿屋に引き返すのであった。




