337話 その目的は?
絶品蟹料理を堪能した翌日。
タウロ達は気分を一新して、また火焔蟹討伐に励む事にした。
冒険者ギルド副支部長が町長に火焔蟹大量発生原因を報告したのか昼頃には領兵が5人程やってきた。
「おいおい。派遣された領兵がたったあれだけなのか?ここの街長はやる気あるのかね?」
アンクが呆れて口にする。
「本当に派遣する余裕がないんだね。でも、この街最大の収入源が止まっている状態なのだから、原因がわかったからには本腰入れてもいいはずなんだけどなぁ……」
タウロもアンクに同調して呆れて見せた。
「そうだな。私ならすぐにでも犯人を捕まえて原因究明するのだが」
ラグーネも二人に賛同する。
「……とにかく領兵に声を掛けておこうか」
二人にそう提案すると、タウロは領兵に話しかけるのであった。
領兵は、タウロから説明を受けると事の重要さを初めて知ったのか驚いていた。
「そんな事になっていたのか!?」
「え?知らずにここに派遣されたのですか?」
タウロが領兵の反応に驚いた。
「我々は君達冒険者が火焔蟹を真面目に討伐しているか監視する様に命令されて来ただけなのだ。上司からは夕方には戻ってきて状況を報告する様に言われている」
「ええー?」
タウロも流石に的外れな命令が出ている事に驚くしかなかった。
「どこでそんな命令になっているんだろうな?大量発生の原因を真剣に断つ気がない奴がいるな」
アンクが、何やら裏が有りそうだと疑って見せた。
「……そうだね。ちょっと調べた方が良さそうだ」
タウロもアンクの意見に賛同するのであった。
タウロ達は夕方まで領兵に名目上監視されながら、火焔蟹討伐の作業をすると冒険者ギルドに戻ってクエスト達成報告をした。
「今日もお疲れ様です。大量発生した火焔蟹も結構減ってきたみたいですね」
受付嬢のアーマインがタウロ達の労を労った。
「残念ながらまだまだ、多いです。夜間、塩湖の周辺を監視するクエストをEランク帯冒険者にでも出してくれると前回の様な餌をばら撒く輩を捕まえられると思うのですが」
「もっともな意見なんだけど、まだ、上からはそんな依頼は来ていないのよ……」
「そうですか……。──そうだ、アーマインさんは塩湖周辺で働いている業者さんが集まる酒場なんかは知ってますか?」
タウロは不意に話を違う方向に転換した。
「塩湖周辺の?……それなら『塩湖亭』が関係者は多いと思うけど……。今はそこには行かない方がいいわよ?火焔蟹の大量発生からこっち、大損害を受けた人が多くて討伐してくれない冒険者や役人に対して快く思っていない人が多いの」
受付嬢アーマインはタウロに注意喚起した。
「お気遣いありがとうございます。でも、聞いてみたい事もありますので行ってみます」
タウロは普段通り、丁寧にお辞儀して感謝すると、アンクとラグーネに同行をお願いする。
「タウロが行くのならもちろん行くさ!」
ラグーネは迷いなく答えた。
「ははーん……。リーダー聞き込みか?面白そうだ。もちろん俺もついていくぜ」
アンクもタウロのお願いに快諾した。
三人は一旦着替えて平服になってから、塩湖周辺の塩生産業者が最も集まる『塩湖亭』に向う事にした。
わざわざ冒険者の身なりで赴いて、怒りを刺激する事が無いようにだ。
「ところで何を知りたいんだリーダーは?」
アンクがタウロの今回の目的を道中聞いてみた。
「僕達はここでは新参者だから何も知らなさすぎるでしょ?まずは現場の人達の話を聞いて、この街の現状や大量発生した状況も知りたいなと思ったんだ。知れば何か見えてくるかもしれないでしょ?」
「確かにな。それに役人の中に今回の大量発生の原因がいる気がするんだよな俺は」
アンクの推理はわかる。
領兵に対する命令内容があまりにも現状からかけ離れたものであった。
それだけでも役人の、それも上層部に何かしら困る人物がいるのは確かだろう。
「そうだね。僕もそう思うよ。その動機を知りたいけど、この街の状況を知るには地元の被害者達に話を聞くのが一番かなと思う」
タウロはアンクに頷くと『塩湖亭』に到着した。
店内からは怒号が聞こえてくる。
どうやらご機嫌斜めなお客が酒の勢いで口論をしているらしい。
タウロ達が店内に入っても気づく者はおらず、他のお客は口論している客を煽って楽しんでいた。
そんな中、タウロ達がカウンター席に座るとようやく店員が気付いた。
「いらっしゃいませ。──うん?子供が来るような店じゃないぜ?とは言っても、子連れの客もたまにいるから別にいいが、喧嘩に巻き込まれない様に端の席に座んな」
店員はタウロ達を親子と思ったようだ。
「……おいおい。誰がリーダーの親だよ」
アンクが、不服そうな顔をする。
「アンクの年齢ならあり得るじゃないか」
ラグーネが珍しくアンクに笑ってツッコミを入れる。
「勘弁してくれラグーネ!俺は戦場を駆け巡って女遊びも各地でやってきたが、そんなヘマをした事がないのが誇りだぜ?」
健全な女遊びを誇るアンクであった。
「そういうヘマは後から気づくからヘマなんじゃないか?もしかしたらアンクの子を名乗る子供が今頃各地に現れてもおかしくないぞ?」
ラグーネが物騒な、それでいてもっともな指摘をする。
「……勘弁してくれ。さすがにそれはシャレにならん」
アンクはラグーネの指摘にぞっとしたのか、振り払う様に店員に強い酒とお店のお勧め魚料理を注文するのであった。




