331話 お祭り騒ぎ
タウロ達が地上に戻ると、ダンジョンの出入り口には多くの竜人族が押し寄せていた。
遂に竜人族の数百年に及ぶ悲願が達成されたのだ。
老若男女問わず、沢山の竜人族が偉業を成し遂げた者達の凱旋を出迎えるのであった。
「族長と攻略組の者達、そしてタウロ殿が戻ってきたぞー!」
ダンジョンの出入り口を監視していた者が、タウロ達が戻ってきた事に気づき、集まった群衆に知らせる。
その知らせに群衆からは「わー!」という歓声が沸き起こる。
そして、ダンジョンの階段を族長を先頭に攻略組、サポート組、補給組、最後にタウロ一行と護衛チームが上がって来た。
すると集まった群衆の歓声はより大きくなった。
みなが口々にこの英雄達を祝福した。
ダンジョンで親兄弟、友人、知人を失った者もいただろう。
色んな感情が入り混じり、中には涙する者もいる。
そんな竜人族の沢山の想いが今、このダンジョンの出入り口付近で一つになるのであった。
「皆の者聞いてくれ!──ついに我々竜人族の悲願であったダンジョン攻略は成された!これまでの皆の努力が遂に報われたのだ。ここにいる攻略組やサポート組のみならず、それを支えた皆のお陰だ。族長として感謝する、ありがとう!」
族長リュウガが、群衆に届く様、魔法で声を増幅させて演説すると、その言葉に皆が耳を澄まし一瞬で静かになった。
そして、族長の言葉に、群衆はまた、「わー!」と歓声を上げるとダンジョン攻略の英雄達に群がって祝福するのであった。
「今日はお祭り騒ぎだな!わはは!」
アンクが、笑顔でタウロの背中をポンと叩く。
「そうだね。それにしてもこんなに竜人族の人達が集まっているの初めて見たよ!」
タウロも、お祭り騒ぎのこの状況を見て、笑顔で驚くのであった。
「タウロのお陰でダンジョン攻略出来たのだからな!タウロはこの村の誇りだぞ!」
ラグーネも笑顔でタウロの背中をポンと叩く。
「みんなの力になれて良かったよ。今日はアンクもラグーネもお酒を沢山飲んでいいよ。二日酔いの場合は僕が、状態異常回復魔法を使ってあげるから心置きなくね」
タウロは、そう言って笑うと族長に呼ばれて、お祭り騒ぎの輪の中に入って行くのであった。
竜人族の村でのお祭り騒ぎは、7日間にも及んだ。
タウロとアンクは、3日目にダウンするとすぐに王都のグラウニュート伯爵家の屋敷まで避難したが、ラグーネを始めとした竜人族は少しの仮眠を取って起きたらお祭り騒ぎの繰り返しであった。
「……さすが竜人族。やっぱり人とは体力が違い過ぎるね……」
8日目にラグーネが迎えに来ると、1週間続いたお祭り騒ぎにタウロは改めて驚くのであった。
「リーダー。俺、初めてお酒を飲むのが嫌になる瞬間を感じたよ」
アンクも、竜人族の酒豪達と飲み明かしていたのだが、終わりの見えない竜人族達の飲酒に恐怖を感じ、嫌になる瞬間があった様だ。
「何事も程々が良いって事だね……。僕もお祭りのテンションがあまりに持続するから、これ以上は過労で死ぬかもと思っちゃったよ……」
タウロもアンクの言葉に苦笑いすると、そう答えるのであった。
「二人とも、そう言ってくれるな。私達にとっては最初で最後の盛大なお祭りだったのかもしれないからな。それも終わったから、あちらはやっと落ち着いて普段通りの生活に戻っているよ」
ラグーネの目の下にはクマが出来ていたが、元気そうだ。
「そうだ。竜人族のマラク、ズメイ、リーヴァの他に王都にいる竜人族のみなさんがヴァンダイン侯爵家に宿を借りているのだけど、そちらも竜人族の村に送り届けたいな」
タウロは、この半年の間に暗殺ギルドの調査と洗い出しに動いてくれた竜人族が王都に集まって来ていたので、今回のダンジョン攻略達成を祝う為に、故郷まで送り届けたいと思っていたのだ。
「そうか、わかった。じゃあ、私もヴァンダイン侯爵家まで向かおう」
ラグーネはそう答えるとタウロとアンクと一緒に馬車に乗り、ヴァンダイン侯爵家に向かうのであった。
ヴァンダイン侯爵家王都屋敷──
「タウロ殿にアンク、ラグーネ、丁度良かった。今、グラウニュート伯爵邸に使いを出そうと思っていたのだ」
この王都で現在、暗殺ギルドの情報収集をしている竜人族の陣頭指揮を執っているリーダーである赤い髪の美形マラクが、金髪のズメイ、青い髪の美女リーヴァと一緒にタウロ達を迎え入れた。
現在、ヴァンダイン侯爵邸は、侯爵はもちろんの事、エアリスもヴァンダイン侯爵本領に帰っていて執事のシープスが管理している。
王都の竜人族はこのヴァンダイン侯爵邸を拠点にさせて貰っていた。
そのマラクが続けて、タウロに用件を言う。
「実は、ずっといたちごっこが続いていた件が解決しそうなので──」
「1週間前、竜人族の悲願であったダンジョン攻略が達成されました」
「「「え?」」」
マラクは用件を言ってる途中であったが、タウロは早く伝えようと遮るように話し、その言葉に3人は意味が理解できずに聞き返した。
室内には他の竜人族もいたので、聞き間違えかとタウロを驚いた様子で見つめている。
「今、何と?」
赤髪のマラクはとんでもない事を聞かされた気がして、みんなを代表して聞き返した。
「はい、失念していて連絡が遅れましたが、竜人族の村における始まりのダンジョンが、ついに攻略されました」
タウロが繰り返し伝えると、次の瞬間、室内にいた竜人族の面々は一斉にタウロを見つめる。
「……本当ですか?……ついに我々の悲願が……!」
赤髪のマラクを始め、竜人族の人々は仮宿としているヴァンダイン侯爵屋敷で騒ぐのは失礼と感じたのか、お互い静かに涙を流して抱き合うと悲願達成を喜び合うのであった。
嬉しい報告を。
この度、自身の作品である「自力で異世界へ!」の書籍化が決定しました!
ツギクルブックスさんから、8月10日発売予定です。
つきましては、タイトルの一部が変更する事になりました。
「自力で異世界へ!~ちゃんと準備して転移したつもりが変死扱いの転生でした!~」
から、
「自力で異世界へ!~優しい仲間と一緒に異世界生活を満喫します~」
に、変わります。
これからは、このタイトルで更新して行きますのでよろしくお願い致します。
これまで応援してくれたみなさん、本当にありがとうございます!
web版、書籍版どちらもとも読んで頂けたら幸いです。




