26話 冒険者ランク
王都行きが決まり、タウロは忙しくなった。
限定盤を10面作らねばならず、それと並行して昇格したEランク帯のクエストをやれないか考えていたからだ。
クエスト受注は日課だが今のところ、短時間で済み、効率が良い薬草採取で時間調整をしていた。
「早く限定盤の作業を終わらせて、王都に行く前にEランク帯のクエストをやりたいなぁ。」
木を削りながら思うタウロであった。
夕方、クエスト報告の冒険者達が大挙し、タウロはギルド職員の手伝いに駆け回っている。
これもまた、冒険者ギルドサイーシ支部の名物のひとつだった。
が、その光景に不快感を持つ冒険者がいた。
最近、他所から来た冒険者だ。
「この田舎の支部じゃ、ガキがギルド内をうろつくのかよ。目障りだよな!」
「さっきは、いっちょ前にクエストみてたぜ。いつからギルドはガキのお守りをするようになったんだよ。田舎の常識はわからねぇわ!」
タウロ本人に聞こえる様に大声で話すよそ者冒険者二人。
タウロは気配察知で、前からこの二人がこちらに悪感情を向けてきていたのを感じていたので驚きはなかった。
そんなところだろうと想像していたのだ。
二人は支部長レオが言っていた、「質の悪いEランクの冒険者」の一部なんだろう。
タグを見ると銅製なのでEランク帯とすぐにわかった。
離れて職員の手伝いをしてるタウロに聞こえるという事は、他の冒険者にも聞こえるという事だ。
地元冒険者達は冒険者仲間であるタウロへの中傷もだが、「田舎の支部」発言にもカチンときていた。
とはいえ、冒険者の間でこの程度の悪口にキレる者はいない。
これもまた、日常茶飯事の光景なのだ。
Eランク帯冒険者は調子に乗ったのか、
「こんなガキがいると、俺達まで甘くみられて大変だよな。」
と、被害者面をしてみせた。
お前らが一番、甘くみてんだよ!
ロビーにいる地元冒険者の心の声が一体になった瞬間だった。
「何を勘違いしてるのか知らないが、お前らが言う「ガキ」のサトゥーは立派な冒険者だ。お前らと同じEランク帯のな。」
その場に居合わせた急造Cランクチーム「青い守り手」のリーダーが、みんなを代弁してみせた。
この冒険者は、以前、緊急クエストの際に、タウロにポーションを貰って活躍した急造チームのリーダーだった人だ。
「ガキが冒険者!?それも、俺達と同じEランク帯って!!流石にCランク帯のあんたの言う事でもそれは酷いぜ!」
ジョークだと思ったのか、Eランク帯冒険者達は大笑いしてみせた。
大雑把に冒険者ランクは
Gランク→素人
Fランク→駆け出し
Eランク→一般
Dランク→熟練
Cランク→強者
Bランク→一流
Aランク→超一流
Sランク→伝説級
という評価だった。
10歳のタウロが「一般冒険者」扱いは、確かに知らない者から見れば、悪い冗談に聞こえたかもしれない。
「事実だ。お前が以前いたところがどんなところかは知らんが、ここは他所と比べて冒険者の質が良くてな。支部長と武術教官は元Aランク冒険者、その教えを受けると「ガキ」でも、”お前ら”よりは強くなるんだよ。」
急造リーダー事、『青の守り手』リーダー、ロイの痛烈な返しに、地元の冒険者達は盛り上がり、
「ぎゃはは!それを言ってやったら流石に可哀想だよロイさん!」
「ざまあ!」
「そうそう、質が良いんだようちは!ぷぷぷ!」
と、溜まっていたものを吐き出した。
ロビーが一体感に包まれると、Eランク帯冒険者二人はこの場に居られない雰囲気になり、慌ててギルドから出ていった。
支部長レオさんと教官ダズさんは元Aランク!?
タウロは庇ってくれた急造リーダー、ロイの助け舟より、その内容に驚くのだった。
ギルドロビーでのこの軽いトラブルの翌日には、Eランク帯冒険者二人は街を出ていった。
面の皮が厚そうな男達だったが、自分達の恥には敏感だったようだ。




