25話 儲け話
ここ最近、サイーシの街は活気に溢れ始めていた。
領内でミスリル鉱石が産出するという話が全国に広まり人が集まってくるようになったのだ。
それを目当てに商売をするものも増えている。
そうなれば物も動く。
そして、それら全てには税がかかるのだから、領主の元には多くのお金が集まった。
サイーシの街、そしてサイーシ子爵にとって、まさにこの世の春だった。
領主が満面の笑みならば、冒険者ギルドサイーシ支部長レオはとても渋い顔をしていた。
「他所から冒険者が集まってくるのはいいが、質が低い。領民とトラブルを起こすから、ギルドの評判も下がる。うちの今の上位冒険者はC-ランクの『5本の矢』と急造で出来たCランクの『青の守り手』だが、モーブの『銀剣』に比べたらまだまだだ。」
さっきからタウロはレオの愚痴を聞かされていた。
リバーシの生産網を広げる計画の話し合いをしていたはずなのが、レオの口から愚痴が漏れ出すと止まらなくなった。
「領内の治安も悪くなっている、領主様に領兵の増員をお願いしてるがうまく進んでない、逆にうちから盗賊や山賊の討伐、犯罪の取り締まりに駆り出される始末だ。」
レオの愚痴は止まらなかった。
「まあ、『安らぎ亭』の売り上げは相変わらず好調、リバーシ販売の手数料も入って潤ってはいるが…」
やっと、元の話に戻りそうだ。
「王都からまとまった注文が入りそうだと、商人から話があったそうですね。」
「あー、そうだった。それとタウロの作る限定盤も10面欲しいそうだ。」
「10ですか!?…はぁ、やっぱり王都は違うんですね。」
限定盤の価格は基本ひとつ金貨8枚だ。
だが、王都までの距離を考えると人件費や、その他諸経費を考えると1面、金貨10枚はくだらないだろう、それでも大丈夫なのだろうか?と、タウロは心配になった。
「商会の話だと1面金貨15枚で売るそうだ。6面はすでに売約済みらしい。」
ほぼ倍の値段ふっかけたの!?商人の商売魂、凄まじい…、と思うタウロだったが、その気持ちを察したのだろう、
「王都は物価が高いからな。俺も何度か王都には行った事があるが、この街の領主様以上の金持ちがそこら中にゴロゴロいる。それに、逆に安いと買い手が不満になるらしい。」
と、レオは補足した。
「一種のステータスというやつでしょうかね。」
「だろうな。あと、その商隊にタウロには同行して欲しいんだが。」
「え?今、なんて…???」
一瞬、自分の聞き間違いだとしか思えなかったタウロは聞き返した。
「リバーシの指南役を付けて欲しいそうだ、1か月ほど王都に行って欲しい。あちらには、お前を発明者の一番弟子という事にしてある。」
「指南役って、ルールは簡単だし、いらないでしょ!それに、ぼく、まだ10歳の子供ですよ!?」
自分で言う台詞ではなかったが、言わずにはいられなかった。
「あちらがどうしてもと言ってる以上、仕方が無いだろ。それに、他所に行ったモーブを見つけ出して行かせるわけにもいかん。そもそも、発明者でもないし。」
支部長レオの言う事に間違いは無いのだが、それだと自分が目立ちすぎる。
「まぁ、旅先の恥はそのまま捨てて帰れと言うしな。王都にお前を知る者は誰もいないし、若い内から王都を見ておくのも悪い事じゃないぞ。」
もっともらしい事を言われて説得されるタウロであったが、
「あ、それと、お前は今日でE-ランクに昇格させるから、良かったな。」
という予想外の報告に驚く事になった。
「え?突然なんですけど!?」
「他所から来たEランク帯冒険者連中がお前より質が悪いんだよ、お前を昇格させてバランスを取らざるを得ないだろ。」
微妙な理由に、微妙な気持ちになるタウロであった。