226話 竜人族の村(2)
ラグーネの家から外に出ると、そこは想像していた竜人族の村ではなくちょっとした街と言っていい規模の景色が広がっていた。
山の斜面から山の麓まで住居が建ち並び、とても高低差のある立体的な街並みだ。
斜面から麓にかけて幾本ものロープが渡してあり、時折、人が滑車を使って高速で通過し、麓に降りて行く。
その光景にタウロ達一行は、圧倒されるのであった。
ラグーネの家はそれらが一望できる少し離れたところに有り、丁度斜面の家々を見上げ、麓の家々を見下ろせる中腹の土地にあった。
よく見ると、城壁が街を囲んでいる。
タウロ達が竜人族の《《村》》の景色に圧倒されていると、竜人族の守備隊長と思われる者がタウロ達に歩み寄ってきた。
そして、アンクの方に視線を向けると、
「あなたがタウロ殿でしょうか?」
と、聞いて来た。
「え?俺じゃないって!うちのリーダーのタウロはこっちな」
アンクがタウロを指さす。
守備隊の隊長を含め、全員がアンクの横にいる少年に目を向けて驚いた。
「僕がタウロです。初めまして」
タウロは集まって来ていた守備隊全員に丁寧に挨拶する。
「あ、こちらこそ、恩人を間違えて申し訳ない!ささ、族長のところまで案内するので私に付いて来て下さい」
そう言うと隊長らしい竜人族の男性がタウロ達一行を先導した。
タウロ達は素直にそれに従い付いて行く。
「…この守備隊の連中、かなりの強者だぜ?」
アンクが緊張に冷や汗をかきながら、タウロに耳打ちする。
「アンクの言う通り、みんな凄い人達だね」
タウロはアンクの言葉に頷く。
『気配察知』でも、一流冒険者から感じる時の圧を守備隊の竜人族達から感じる。
隊長はさらにその上の気配だ。
正直、敵に回したくない。
「そう言えばラグーネ。さっきお兄さんが言ってた修行って何?」
雰囲気を変えようとラグーネに話を振った。
すると周囲を一緒にあるいていた守備隊がピクリと反応する。
あれ?何かまずい事聞いたのかな?
タウロに一瞬緊張が走る。
「…ああ、我が竜人族の伝統で12歳から18歳くらいまで修業期間があるのだ。その修行がとても厳しくて、…中でも各種の異常耐性を付ける修行が、拷問の様な内容なんだ…。それが遅くて6年は続くから一度はみな死にたくなるという…」
ああ…!それでくっ殺せ!って口癖が染みついてるのね…。
「あ、でも、僕には被害妄想的な事も言ってたような…」
タウロは、出会った時、私の体が目的か!的な事を言われた事を思い出した。
「あれは、妄想ではない!ダンサスの村に来る前、親切を装って近づいてきた人間が実際に取引条件で言ってきたのだ。だからあの時はちょっと人間不信だったのだ!」
ラグーネは思い出して恥ずかしくなったのか赤面した。
そうだったのね…。
タウロは苦笑いすると話しを変えようとした。
「じゃあ、ラグーネの各種の状態異常耐性は…」
「そう、この修行で得たものだ。私達竜人族は、固有スキル以外でも死線を潜り抜ける事でたまに能力を得る事がある。なので戦闘系スキルを持っていない者でも、修行で得たりするのだ。あ、だが人では確か前例はないから、多分、竜人族特有のものだと思う。だから真似はしない方がいいぞ」
ははは…、くっ殺せ!が口癖になるほどの死線を潜らされる修業は誰もしたくないから大丈夫だよ?
タウロは竜人族の修行は竜人族特有の身体能力、特に耐久性があってこそ可能なものなのだろうと思えた。
第一、6年間もやらされて精神が崩壊しないのだろうか?
それこそ、竜人族のタフさは人とは違うということだろう。
「真似はしないよ…。誘われても嫌」
タウロが笑って答えると、想像したのだろうエアリスも大きく横で頷くのだった。
守備隊長に導かれるまま道を進み、坂を上がって行き登り切ったところに、ひと際大きい屋敷が現れた。
背後は斜面なので、その屋敷は半分、斜面を削った中にある。
屋敷の前には1人の強力な気配を発するひと際大きい竜人族の男性が、数人の竜人族を後ろに並ばせてタウロ達一行を待っていた。
「…タウロ殿ですね?はじめてお目にかかります。俺が竜人族の族長を務めているリュウガと言います。こちらは妻のオリョウ。あとは部下達です。あなたには竜人族の沢山の者達の命を救って貰いました、ありがとうございます」
先に守備隊からの連絡で知ったのかどうかわからないが、族長のリュウガは名乗ると迷いなくタウロを見つめて挨拶すると感謝の言葉を述べた。
「いえ、すでにラグーネには仲間として、友人として助けられてます。なので、礼には及びません。こちらこそ、急な訪問でお騒がせしてすみません」
タウロは頭を下げてお詫びした。
「いやいや、こちらとしては一度お会いしたいと思っていたので大歓迎だ!さあ、うちにお入りください」
族長のリュウガはそう言うとタウロ達を族長宅に招き入れるのだった。




